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実験の跡

 ようやく停止した時には2人とも、埃で真っ白になっていた。


「……少年。生きとるか?」

「…たぶん」


 悠馬の上に覆い被さる様になっていた浮島が体を起こし、脇に座り込んで埃をはたきだした。

 悠馬は仰向けになったまましばらく呆けていたが我に返ると、とりあえず体の隅々まで注意をめぐらせて状態を確認してみる。


 所々に擦り傷が出来ている様だが、特に大きな怪我は負っていないようだ。


「2人とも大丈夫なの?」


 神島が小走りで駆け寄ってくる。


「ワイは大丈夫や。……少年も大丈夫そうやな。ほれ」


 そう言って先に立ち上がった浮島が手を差し伸べてきたので、それに摑まって悠馬も立ち上がる。


「……ありがとう、頌さん」


 ようやく自分の身に起きた事を理解していく。


 さっきまで自分が立っていた所を見ると、重そうなキャットウォークの残骸が屍を晒していた。

 鉄骨やパイプ類が所々から突き出し、もし浮島が助けてくれなかったら間違いなくそのどれかが自分の身を貫いていたにちがいない。


 ぞわぞわという悪寒が頭の天辺から足の先まで駆け抜けていく。


「……マジで死ぬかと思った……」


「今のんはマジでやばかったでー。彩音の機転がなかったら少年、今頃はペシャンコや」


(神島の機転? そういえば何かが燃え広がったような……)


 実のところそれが自分を助けるのにどう係わったのか良くわからなかったが、助けてもらった事は間違いないらしい。


「神島サンキュ。助かったぜ」


 神島はやれやれといった感じで首を軽く振りながら、


「別にアンタが死のうが生きようが私には関係ないんだけどね。まあ目の前で死なれるってのも寝覚めが悪いし。しかしアンタってよくよく死に掛ける男ねー。その歳まで生きてこられたのが奇跡なんじゃないの?」


(いや神島達に係わるまでは平穏そのものの人生だったんだが)


 と心の中で思ったが、そもそも係わった原因は悠馬自身にあるので、そこに話を持っていくのはお門違いだろう。


「どうした! 何があった?」


 キャットウォークが崩れる音を聞きつけ、外を調べていたジョシュアが慌てて中に入ってきた。


「たいしたことは無いわ。ちょっと片瀬君が死に掛けただけよ」


「いや、たいした事だと思うぞ、それ」


 やや呆れ気味に返事をしながらこちらに近づいてくる。


「ずいぶん汚れているじゃないか。本当に大丈夫なのか悠馬?」

「やっぱジョシュは優しいなー」


 軽く涙を浮かべそうな勢いでやってくるジョシュアを見つめる悠馬。


「ちょっとそれじゃまるで私が優しくないみたいじゃない」


 後頭部に突き刺さるような視線を感じる。


「そ、そんなことないデスヨー。神島サンはとっても優しい命の恩人デスヨー」


 ぎこちなく振り返りながらフォローをいれてみるが、


「なんで語尾がカタコトなのよ。ふん、どうせ私は何にでも火をつける放火魔みたいな冷たい女ですよ」


 やっぱり根にもってやがる。


「まあまあ痴話喧嘩はそれぐらいにしときーや」


 にやけ面がにやけながら仲裁に入ってきた。


「ち、痴話って。ウッキー、痴話喧嘩の意味分かってるの? たまには国語辞典とか読んだほうがいいわよ」


 神島が左手を腰にやりながら右手で浮島を軽く指差し、なにやら説教を始めた。


「なあなあ、痴話喧嘩ってどういう意味なんだ?」


 茶化すとかではなくて本気で尋ねる悠馬。


「バカは黙ってなさい。次喋ったら脳みそ燃やすわよ」


 ひどい言われ様だ。

 だが気のせいか、神島の顔が少し赤くなっているようにも見える。


「……そろそろ本題に戻ってもいいか?」


 痺れを切らしたジョシュアが話しに割って入ってきた。


「外の資材置き場に気になる物があるんだ」





 ジョシュアの言った通りそこは資材置き場のようだった。

 必要ないと判断されたのかそこには回収されることなく、色々な太さのパイプや何に使うのか良く分からない物がごちゃごちゃと取り残されていた。


「これだ」


 ジョシュアが指差したのは直径40センチほどのパイプで、地面に寝かされていた。


 よく見るとそれは1本だけではなくて、全部で5本並んでいる。

 ただ5本の状態はそれぞれ違っていた。


 一番手前のパイプは出口がラッパのように膨らんでいるし、2本目は半分に折れている。

 3本目は上半分が花開くように割れていて、4本目はまるで魚の開きのように割れて、もはやパイプではなく板に近い状態になっていた。

 5本目は何の変化も無いただのパイプのようだ。


「これは確かにあやしいなー」


 浮島がそれぞれのパイプを調べ始めた。

 神島が綺麗に割れて板状になったパイプの所に移動してしばらく見つめていたかと思ったら、いきなりパイプを蹴飛ばし忌々しそうに呟いた。


「決まりね」

「せやな」

「まあ分かっていた事だがな」


 3人はなにやら納得している様だが、蚊帳の外の悠馬には何のことか分からない。


「えーと、何がどう決まったのか教えてもらってもいいでしょうか?」


 浮島がこちらに向かって戻ってくる。


「水使いの目的や。予想通り水道管をぶっ飛ばして街を潰すつもりみたいやで」


 パイプの方を身振りで指しながら続ける


「あのパイプな、全部中からの圧力で壊れとるねん。本番前にここで力のコントロールの実験をしとったんやろーな」

「本気でやるつもりなのかよ。なんでそんな事するんだ?」


 浮島の表情からいつものにやけが消えていた。


「さあな。それは本人に聞いてみなわからんわ。ま、人間ちゅうやつは生きとるだけでなんやかんや抱え込むもんやからな。色々あるんやろう」


 それはそうなんだろうが街の人を皆殺しにしたいと思うほどの理由など、悠馬には想像もつかなかった。


「しっかし暑いわねー」


 神島が恨めしそうに太陽を見上げている。


「よっしゃ! さっさとこんな所からはおさらばして昼飯食いに行こか! 水使いの目的が確定しただけでも儲けもんやし、これ以上調べてもなんも出でこーへんやろ」


「賛成」


 期せずして全員の心が一致した。


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