調査
翌日、ジョシュアの家で用意してもらった朝食を食べていると、神島、浮島の順で現れてメンバーが全員集まった。
いつもの通りジョシュアの部屋で会議が開かれる。
調査部からの報告はまだ来ていないらしく、水使いの情報を少しでも得るために神島達が最初に戦った工業団地に行って調べようという結論になった。
実は悠馬は工業団地に行ったことが無かった。
いや、そんなものが近くにあることすら知らなかったので、
(工業団地! なんか凄そうな響きだ! ロボットとか歩き回っていたりして。いやさすがにそれはねーか)
とか勝手な想像を膨らましていた。
「……ここ?」
「そうよ」
車から降りた神島がめんどうくさそうに答えた。
悠馬の目の前には確かに広大な敷地が広がっていたが、そこにあるのは近未来的な建物やロボットが歩いている風景ではなく、ただ敷地を区切るフェンスと気持ちよさそうに伸びているセイタカアワダチ草の群生だけだった。
「これは世間一般には空き地って言わないか!? チクショウ! なんか凄そうな物予想してた俺のワクワク感を返せー」
「知らないわよそんな事。アンタが勝手に想像してただけじゃない。めんどうくさい奴ねー」
昨日のことをまだ怒っているのか、心なしか神島の態度が素っ気無い気がする。
「楽しそうにしゃべっとらんと付いてこなほってくでー」
いつも通りのにやけ面を浮かべながら浮島がスタスタと歩いていく。
「今のが楽しそうに見えるのだったら、病院いったほうがいいわよウッキー」
そう呟きながらやれやれといった感じで浮島の後を追っていく。
その後も浮島が神島をからかいながら歩いていくとすぐに工業団地に建っている数少ない建物の一つに到着した。
外見は大きな箱のような建物で、元は綺麗な白い外装だったのだろう。だが打ち捨てられ、風雨に晒された外壁は所々が汚い茶色に変色し、なんとも物悲しい雰囲気を醸し出している。
「それじゃ俺は外を見てくる」
そう言い残してジョシュアが建物の裏手に消えていった。
「じゃワイらは中を調べよかー」
フレームが歪んで閉まらなくなった扉を開けて、浮島が中へ入っていった。
神島も入って行き、その後を悠馬が追う。
中は天井まで吹き抜けの体育館のような造りになっていて、高い位置に据え付けられた窓から日の光が差し込んできていたが、五階建てくらいはありそうな空間全体を照らすほどの力は無く薄暗い。
「うわ、蒸し暑いなー」
陰になっているので涼しいかと思ったが、直射日光の焼け付くような暑さは無いものの、締め切った空間独自の蒸したような体に纏わり付く暑さがあり、不快指数ではこちらのほうが上だ。
「何にも無いんだな」
見たままの感想を述べる悠馬。
工場が閉鎖されるときにめぼしいものは搬出されたのか、基礎に組み込まれた大きな水槽や細々とした備品などがあるだけでサッカーのフルコートぐらいありそうな工場全体はがらんとしていた。
(何にも無かった訳ではなさそうだけど)
悠馬の目の前にはどうやったらそうなるのか見当も付かないくらい派手に、くの字に折れ曲がって壁にめり込んでいるコンテナがあった。
「これ神島がやったの?」
コンテナを指差しながら尋ねる。
「それは水使いの仕業よ。悔しいけどアイツのギフトはかなり強力なのよね」
水槽の中を調べていた神島が手を休めずに答えた。
ヘーと適当な返事を返す悠馬。
正直なところただの高校生にしかすぎない悠馬からすれば、ここで行われた戦闘など想像すらつかない。
浮島と神島はそれぞれ手分けして何かを探っているようだが、悠馬は何を調べたら良いのかすら判らなかったので適当にその辺りを見て回る事にした。
すると少し先の壁の中ほどの所に、不自然な穴が開いているのを見つけた。
そこまで移動して確かめると、キャットウォークの真下に直径50センチ程度の穴が開いている。
歪な円形だし中から外に何かが飛び出して開いたような雑な作りの穴で、どう見ても元から意図して作られた穴には見えない。
「おーい、この穴怪しくないか?」
相変わらず何を調べているのか判らない2人に向かってとりあえず呼びかけてみる。
「ああそれはなー……」
穴の開いた経緯を嬉しそうに説明しようと振り返った浮島の表情が強張る。
何故なら錆びて脆くなった上に、ジョシュアの突撃によって基礎が破壊されたキャットウォークが悠馬目掛けて崩落を始めていたのだ。
「少年! 逃げろ!!」
悠馬に向かって全力で移動を開始しつつ叫ぶ。
浮島の上げた叫びと時を同じくして悠馬の頭上で何かが軋み外れていくような音が、工場全体に響きわたり始める。
おもわず上を見上げる悠馬。
そこには悠馬の視界一杯に重そうな鉄の構造物が降ってくる光景が広がっていた。
あまりのことにまるで車の前に飛び出した猫が固まってしまうかのごとく、足がすくんで動いてくれない。
頭からは逃げろという指令が出続けているのだが、見えない壁に阻まれるかのようにその指令は足に届いてくれず、そうしている間にも獲物に飛び掛かる隼のごとく瓦礫は悠馬を目掛けて一直線に落下してくる。
固まってしまった悠馬を見て、浮島の顔に焦りの色が広がっていく。
このままでは間に合わない!
その時、悠馬と瓦礫の間に火の点いた木材の切れ端が投げ込まれた。
悠馬の頭上30センチくらいの所に到達した木材はそのまま上に向かって爆発的に燃え広がり、悠馬の視界を赤く染め上げる。
強烈な炎の勢いと、それによって生まれた上昇気流によって瓦礫の落下スピードが一瞬緩む。
時間にすればほんの数秒。
しかしそのわずかなロスタイムのお陰で本来間に合わなかったはずの浮島が悠馬の元に辿り着く。
タックルの要領で悠馬に体当たり食らわした浮島の後頭部を掠めながら、元は通路だったものが落ちていく。
工場全体に重たいものがぶつかる時に発生する質量を伴った重低音が鳴り響き、大量の埃が舞い上がった。
かろうじて崩落から脱した二人はそのままもつれ合いながら床の上を20メートルほど転がっていく。
ようやく停止した時には2人とも、埃で真っ白になっていた。




