二人
声は相変わらずやたら明るいテンションだったが、話の内容はとんでもない。
「ちょ! それってマジでやばいって事じゃん!」
「だからそーゆうとるがな」
「なに落ち着いてるんだよ! 今の話が本当なら、いつこの街が吹き飛んでもおかしくないって事だろ!? 水使いが浄水場に来ない様に警備とかしなくていいのか? 少なくともこんな所で悠長に話してる場合じゃないだろ!」
こんな所とは失礼な、とジョシュアがつぶやくがいつも通りスルーされる。
「落ち着け少年。浄水場にはちゃんと警備をつけとるし、なんかあったらすぐに連絡が入るようになっとる」
その話を聞いて、沸騰したヤカンのようになっていた頭が冷静さを取り戻していく。
「いくらなんでも私たちはそこまで馬鹿じゃないわよ」
馬鹿にしないでよね、とばかりに神島が会話に復帰する。
「そりゃそうだよな」
普通に考えれば当然の話だ。
あせって取り乱した自分が少し恥ずかしかった。
落ち着いたら落ち着いたで、いろいろ興味がわいてくる。
「警備についてるのってどんなギフトを持ってる人なんだ?」
「え? ああ、警備についているのは普通の人よ」
神島が足を組み替えながら話を続ける。
「そもそも、このエリアのBクラス以上のギフトホルダーって私たち3人だけだもの」
「……大丈夫なのか?」
怪獣映画などでは通常兵器は役立たずと相場が決まっている。
もちろんこの世界は映画でもなければドラマの中でもないのだが、なんとなくギフトホルダー相手に普通の人間が敵う気がしない。
「ギフトホルダーって言っても別に無敵でも不死身でもないわよ。警備に付いているのはサイクロプスって言うギフトイーターの精鋭部隊で、海兵隊も真っ青の武装をしているわ。確かに倒すのはキツイかもしれないけど、足止めくらいは余裕でこなすわよ。連絡が入り次第、私たちも急行するしね」
「それで間に合うのか?」
間に合わなければ街が壊滅するという割には暢気な作戦に聞こえる。
「さっきのカルキの事で水使いについてもう一つ分った事があるの」
「?」
「有効範囲が10キロっていっても、瞬時にそこまで操れる訳じゃないみたいなの。苦情電話が入った時間を分析すると10キロ先まで操作するのに約3時間かかるみたい。ここからジョシュやウッキーの能力で現場まで15分。つまり連絡が入ってからでも余裕で間に合うって訳」
どう?
と得意げな顔でこちらを神島が見ている。
確かに話の筋は通っている。
実際、こっちは素人であっちは玄人だ。
素人が考え付くような問題など、とっくに織り込み済みなのだろう。
「色々喋ったら喉が渇いちゃった。ちょっとコンビニ行って来るわね」
そういうと神島はジョシュアの部屋からさっさと出て行った。
「少年。女の子の一人歩きは危険やさかい、付いていったってー」
あいも変わらずニヤニヤした表情を浮かべながら浮島がそんな事を言ってきた。
心なしかニヤニヤ度が上がっている気がする。
「危険って神島がそこら辺の奴らに危険な目に合わせられるシーンなんて想像できねーぞ?むしろ相手が危険なんじゃ?」
「まーまーそういわずに」
しぶる悠馬の両肩を浮島が掴んでドアへとグイグイ押していく。
「女の子を守るのは男の子の仕事やでー」
結局、そのまま部屋の外に出されてしまった。
しょうがない、と小走りで神島の後を追いかける。
外に出ると、辺りはすっかり暗くなって、月明かりが教会を照らしていた。
ちょうど教会の門を出ようとしているところで神島に追いつく。
「どうしたの?」
「いや頌さんに心配だから付いて行けっていわれて……」
なんだかジトッとした視線を感じる。
「心配ねぇ。もし私を襲おうなんて奴がいたら脳みそ燃やしてやるだけなのにね」
そのセリフを聞いて思わず口から言葉がこぼれる。
「神島って学校の時とホントにキャラ違うよな。やっぱり学校のは演技でこっちが素なのか?」
いきなりの質問に神島の顔に軽く狼狽の表情が生まれる。
「そ、そうよ。……へたに仲良くなってこの力の事を知られたり、色々聞かれたりするのが面倒だから周りのことに全く無関心のキャラを演じているの」
悠馬がうなだれて両膝の上に手を付く。
「やっぱそういうことか。ちょっとショックだなー。俺、学校での神島、好きだったのになー」
その言葉を受けて、神島の顔が茹で上がったタコのように真っ赤になる。
「す、す、す、好きっていきなり何言い出してるのよアンタは!」
神島のあげた素っ頓狂な声に、悠馬が頭だけ上げて冷めた口調で答える。
「はぁ? なに赤くなってるんだよ。好きだったのは演じてたキャラの方だよ。そもそも中身がこんなトンデモ放火女だとわかってりゃ、はなっから好きになってねー……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
話を言い終える前に悠馬の全身を炎が包み込んだ。
「どーせ私は火炎放射器みたいな女よ。悪かったわね!」
そう言い残して神島はさっさとコンビニへ行ってしまった。
その様子を何処からか見ていたようで浮島がため息をつきながらやって来た。
軽くコゲて煤だらけで倒れている悠馬を見下ろしながら一言、
「今のんは少年が悪い」
「……どう考えても護衛いらねーじゃん」
同時に大きなため息をついた男2人を、真夏の星座たちがあほらしいとばかりに見下ろしていた。




