ギフトホルダーの運命
何とか命の危機を回避して、浮島達の所に戻る廊下を歩きながら、神島に気になった事を尋ねてみることにした。
「そういやさっき、先生がクラスって言ってたけど、能力にクラスがあるのか?」
「あるわよ。AからDの4つのクラスがあるわ」
「へー。神島の能力はどのクラスなんだ?」
「私はBクラス。ちなみにウッキーもジョシュもBクラスよ」
話しているうちにオフィスにまで戻ってきていた。
「おかえりー」
「ただいま。検査の結果が出るまでちょっと待機ね」
浮島の横のデスクに神島が座る。
どうやらそこが彼女のデスクらしい。
「片瀬君も適当なところに座ったら?」
そう言われて辺りを見回し、神島たちの向かい側にあった椅子に腰をかける。
「そうだ。ちょっと気になってた事があるんだけど」
3人の視線が悠馬に集まる。
「みんなも俺と同じ様にトライアルを打たれてギフトホルダーになったの?」
「ちゃうでー、ワイらは100パーセント天然素材や」
「そもそも、トライアルでギフトホルダーになった人間の方が珍しいわね」
意外だった。
「じゃ、生まれつきギフトを持っていたってこと?」
「せやでー。まあ能力が発現するんは、自分と世界を認識出来るようになった頃、いわゆる、物心ついたって頃からやけどな」
あれ?
おかしくないか?
生まれつきだとするとどこにでも生まれる可能性があるという事だ。
そうなるともっとギフトの話が巷に溢れていてもおかしくないはずなのに、これまでそんな話は聞いたことがない。
その疑問を素直にぶつけてみた。
それはね、と神島が答える。
「私たちギフトホルダーの存在が世間一般で認知されていない理由は大きく2つあるの。まず一つは、そもそも生まれる確率が非常に低いって事。もう一つは、世間には知られていないけどほとんどの国では生まれた新生児には秘密裏に能力保持者かどうかのチェックが行われているの。他の検査にカムフラージュされているから検査をしている医者もまさか能力のチェックをしているなんて思っても無いでしょうね」
「それで、ギフトホルダーだと分かったらどうするんだ?」
「能力が発現するまで監視されるわ。発現した能力がDクラスなら監視が外れて、そのまま普通の人として扱われることになるの」
さっきもクラスの話が出ていた事を思い出す。
「そのクラスって良く分からないんだけど」
「さっきも言った通り、AからDのクラスがあって、Dクラスは一応能力は発現しているけど全く実用レベルに達していない、本人も能力者としての自覚が無い人達ね。たまにやたら勘の鋭い人とかいるでしょ? そんな感じ。いわゆる一般的な才能って思われるだけで能力を持っている事が本人にも周りにも全くばれる心配がないから監視からはずされるの。自分がギフトホルダーだって事を知らずに一生を終える事になるわね。Cクラスは能力者の自覚があって能力を扱えるんだけど、非常に条件が限定されているか、社会に大きな影響を及ぼさない程度の能力を持っている人ね。さっきの涼子先生はこのクラスよ。で、私たちの属しているBクラス。これは社会に多大な影響をもたらしうる力を発現させた者たちが分類されるクラスよ」
「確かに、ジャンプで街を飛び越えたり、炎の刀を振り回したりしたら大騒ぎになるよな」
「でしょ。それで最後のAクラス。これは複数の事象を操れる能力者ね。現在確認されているのは3人だけ。レア中のレアね。ちなみに3人ともギフトイーターよ」
いわゆるエリートって奴か?
いやエースかな?
と思いつつ質問を続ける。
「Dクラスは放置されるとして、それじゃCクラス以上って分かったらどうなるんだ?」
神島の表情が少し曇る。
浮島がすかさず話を引き継ぐ。
「うちの職員が出向いて親に説明するんや。Cクラスやったら、ちょいと特殊な力が子供にあるゆー事とその事を口外したらあかんて口封じする。もしB以上やったら……子供をそのまま育てるかどうか決めてもらうねん。もし、無理やってなったら組織が引き取って育てることになる。後、どっちで育ってもBクラス以上は、必ずギフトイーター関連の仕事につかなあかんねん。こないな仕組みのお陰で、ワイらの秘密が守られるちゅう寸歩や」
浮島の軽い口調とは裏腹に重い話だった。
つまりギフトホルダーとして産まれるという事は、本当の自分を見せる事も、自分が就きたい職業を選ぶ事も出来ず、時には親にさえ捨てられるという事を意味しているのだ。
今までギフトホルダーの事をヒーローか何かの様に思っていた。
自分に能力が発現しなかった事が正直、悔しいと思っていた。
そんな風に考えていた自分に少し腹が立つ。
考えてみれば当たり前の話だった。
存在を認められていない者たちがのびのび暮らせるほどこの世界は優しくは出来ていない。
そんな悠馬の悔恨を遮ったのは風祭の声だった。
「お待たせー」
左手を白衣の中に突っ込み、右手に持った数枚の紙をヒラヒラさせながらこちらにやって来る。
「あ、涼子さん。どうだった?」
「血液検査の結果も陰性よ。どうやら本当に能力は発現しなかったみたいね。いや、考えようによっては、能力の発現を抑える能力だったとか……やっぱり解剖させてくれない?」
またもや、瞳に妖しげな光が灯りだす。
「涼子さん! 敵の画像の方は?」
「え? あ、ああ、これよ」
正気に戻った風祭が、プリントアウトされた写真をずいっと突き出した。
「──!! こいつだ!」
悠馬の記憶が鮮明に蘇る。
そこに写っていたのは間違いなく自分の命をもて遊んだ男だった。
「へー。割といい男じゃん」
神島の感想を受けて、ジョシュアがまじまじと写真を凝視する。
「ふ、俺の足元にも及ばにゃいがな」
実際、ジョシュアは世間一般的にかなり男前の部類に入るだろう。
口を開かなければ、という条件付だが。
風祭もジョシュアのこの性格は把握しているようで完全に無視して、
「それじゃ写真のデータは調査部に送っとくから、なにか判ったら連絡が入るはずよ」
と告げて、悠馬のことを名残惜しそうに何度も振り返りながら医務室に帰っていった。
「それじゃ、私たちも引き上げましょうか。ジョシュは車よね?」
「ああ」
その後、この4人が一斉にエレベーターから出ると目立つという理由で、浮島とジョシュア、悠馬と神島の組み合わせで少し間を空けて対策室から出て行った。




