続く未来の世界 - 3
柔らかな感触が、背中にあった。
冷たい石床ではない。
血と埃の匂いも、もうしない。
「……」
最初に戻ってきたのは、音だった。
遠くで、誰かが息を吐く音。
布が擦れる微かな音。
そして兄の声。
「……イリス」
瞼を開くと、白い天井がぼんやりと映った。
「……ここ……」
声は、思ったよりも掠れていた。
「無理に動くな」
すぐ横で、ノクスが上体を起こしてくれる。
仮面は外れ、いつもの無表情。
けれど、その目だけが、わずかに揺れている。
周りを見渡すと、1度だけ見た事のある部屋だった。
「お母様の部屋……」
「玉座の間で倒れた僕たちを皆がここまで運んでくれたらしい」
「……」
「この部屋に込められた、母上の力が目覚めさせてくれたみたいだ」
「……戻ってきたんだな」
イリスの身体は重く感じたが、痛みはなかった。
「……お母様は?」
ノクスは、少しだけ視線を逸らした。
「……残った。俺たちを、戻すために」
イリスは、何も言わなかった。
ただ、胸の奥で、静かに理解した。
「……そう」
「皆を呼んでくる」
ノクスが立ち上がろうとしたその時、イリスが、袖を掴んだ。
「……ノクス……一緒に行こう」
ノクスは驚いたように一瞬目を見開き、それから、ほんのわずかに口角を上げた。
「……ああ」
2人並んで、扉の前へ向かう。
開かれた扉の先には……
「……!」
リオが、そこにいた。
夜通し起きていたのだろうか、鎧も脱がず壁に寄りかかっていた。
「リオ」
「……ん……!? イリス様……!」
名前を呼ぶ声が、震えた。
「お目覚めになったんですね」
「……待たせて、ごめん」
「いいえ」
リオは、首を横に振る。
「帰ってきてくださった。それだけで、十分です」
その言葉に、イリスは微笑んだ。
「……まだ終わってない。これからだ」
リオは、頷いた。
「はい。この国も、あなた方も」
朝の光が、廊下に差し込んでいた。
双子として、生きる朝だった。




