世界のあいだ - 9
そこは、どこまでも続く花畑。
青空に星と月が輝く。
柔らかな風に淡い光。
以前イリスが訪れた、あの世界。
「……また、ここ」
そこには、3人がいた。
イリス、ノクス。
そして、レオナルト。
「異界……いや境界の内部か」
レオナルトは周囲を見渡し、なおも笑みを消さない。
「ここで私は……」
その言葉を遮るように、レオナルト背後から1つの影が、歩み出た。
「エリオネ……」
それは、確かにエリオネだった。
黒い影でも、歪んだ存在でもない。
国から逃げる前に近い、穏やかな姿になっていた。
「……お母様……!」
イリスが、声を上げる。
「エリオネ……」
レオナルトは震える声で、再び名を呼ぶ。
「私は……私は、お前を」
一歩、一歩と彼女へ近づく。
エリオネはその表情を変えることなく、レオナルトを見る。
「……今も、愛している」
流れる、沈黙。
すると、花が、風に揺れる。
エリオネは、ゆっくりと首を振ると、口を開いた。
「……いいえ」
その声は静かで、確かだった。
「あなたは、私を見ていなかった。“扉”しか、見ていなかった」
王の顔から、笑みが消える。
「違う……私は共に……」
「共に堕ちることを、愛とは呼びません」
エリオネは、双子へと視線を向ける。
「……よく、来たわね。2人とも」
イリスの瞳から涙が溢れ、手を伸ばす。
「お母様……一緒に……帰ろう……」
エリオネは、微笑んだ。
「帰れないわ。私はもう、境界そのものだから」
「そんな……母上はもう……」
「ノクス。これからも妹をよろしくね」
そして、レオナルトを見る。
「終わりにしましょう。この歪みを」
エリオネの身体が、光へとほどけていく。
「……ッ! 待て!!」
レオナルトが手を伸ばすが、届かない。
「イリス、ノクス」
エリオネは光のように消えると、2人背後へ移動して現れた。
母として、2人をぎゅっと抱きしめると口を開く。
「あなたたちの力と、私に残された最後の力で、扉を封じて」
鍵が強く輝くと、鍵が回った。
途端に、世界が震えだす。
花畑の空に、黒い裂け目が、浮かび上がった。
「やめろ……!」
レオナルトの叫びが掻き消える。
エリオネは、最後に王を見つめた。
「さようなら……愛していた“つもり”のあなた」
そして、光が閉じた。




