世界のあいだ - 6
壁が脈打った。
まるで生き物のように石がうねり、空間そのものが、呼吸を始める。
レオナルトの声が重なる。
「世界と世界が、最も近づく点」
床に刻まれた魔法陣が、黒く染まっていく。
光ではない。
闇でもない。
“影”が、滲み出す。
「やめろ……!」
ノクスが叫んだが、もう遅かった。
影は集まって形を成し、人の姿を模り始めた。
長い髪。
細い腕。
俯いた顔。
「……お母……様……?」
それは、エリオネだった。
だが……違う。
輪郭は揺らぎ、瞳はなく、闇だけを抱えているような影の形。
「見ろ。これが、扉だ」
レオナルトが告げると、エリオネの影がゆっくりと両腕を広げる。
その瞬間、音もなく世界そのものが引き剥がされるように、黒い裂け目が現れた。
異界への扉。
イリスの足が、震える。
「……こんなの……お母様じゃない……」
ノクスは、歯を食いしばった。
「……無理矢理存在を作って、扉を開かせる気か」
レオナルトは静かに頷いた。
「そうだ。もう後戻りはできない。世界は、変わる。その鍵として……」
王の視線が、双子を射抜く。
「お前たちも、必要だ」
黒い扉が、さらに大きく開く。
吸い込まれるような、圧。
世界の境界が、悲鳴を上げている。
その前で、イリスとノクスは、並んで立った。
「……止めよう」
イリスが、震える声で言う。
「お母様を、取り戻す。この扉を……閉じる」
「あぁ。今度こそ、俺たちが“選ぶ”番だ」
ノクスは、剣を構えた。




