世界のあいだ - 1
王宮の外壁は、夜明け前の靄に沈んでいた。
イリスは、石畳に足をつけた瞬間に空気が変わったのを感じた。
「王側の人間は、少なそうだな」
そう言ったのはノクスだった。
彼の仮面の奥の視線が、まっすぐ王宮へ向いている。
「……だからこそ、罠の可能性も高い」
イリスはそう言うと、息を小さく吸った。
「一気に行こう。分断されたらその場で判断する」
「了解」
イリスの合図と同時に、8人は王宮へ踏み込んだ。
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王宮内部は、異様なほど静かだった。
イリスを先頭に、ノクス、リオ、アルベルト、ロイ、セラ、フィオ、エリシアが続く。
「止まれ」
イリスが7人を止めた。
曲がり角の先、通路を塞ぐように並ぶ影。
重装の護衛隊だ。
その中央に立つ男が、1歩前へ出た。
「……カシウス」
リオの声が、僅かに低くなる。
王直属護衛隊長、王宮最強の剣と謳われた男。
「反逆者どもが、ここまで来るとはな」
カシウスの視線が、一行をなぞり、最後にリオで止まる。
「保安組織の中で、生きていれば良かったものの……」
カシウスは、ゆっくり剣を抜く。
「イリス様」
イリスの前に一歩出ると、リオは言った。
「ここで、一度、お別れです」
「……リオ?」
イリスの声が、わずかに揺れる。
さらに、アルベルトも一歩前に出て、淡々と状況を告げた。
「この数、この配置。正面突破は時間がかかる。その為にも……」
「足止めが必要っす」
ロイが言葉を継いだ。
最初から、3人の答えは同じだった。
「でも……!」
「イリス様!!!」
リオの声は、はっきりとしていた。
初めて、彼は“部下として”ではなく、“騎士として”そう言った。
「あなたは進む。ここは俺たちが塞ぐ」
カシウスが、薄く笑った。
「3人で、我ら護衛隊を止めると?」
「十分だろ」
アルベルトが剣を構え、ロイが銃を抜き、リオが一歩前へ出る。
「その覚悟ごと、叩き潰してやろう」
「上等です」
リオの抜いた剣先が、カシウスへと向けられる。
イリスは、拳を強く握った。
「……必ず、生きて」
そう言うと、イリスたちは3人を置いて走り出す。
リオは、5人の背中を見ながら微笑む。
「……当たり前でしょう」
次の瞬間。
リオが踏み込み、真正面から斬りかかる。
受け止めたカシウスの腕が、わずかに軋んだ。
「ほう……国の剣だった頃より、鋭いな」
「国のためじゃない……」
リオの剣が、再び閃く。
「自分は、守ると決めた人のために、振るっているんです!」
銃声が響き、護衛兵が倒れる。
ロイが冷静に射線を制御し、隙を作る。
「左、2人来るぞ!」
「任せろ!」
アルベルトが割り込み、重装兵を弾き飛ばす。
血と火花が舞う中、3人は背中を預け合った。
誰一人、引く気はなかった。
カシウスは、ゆっくりと剣を構え直す。
「ならば見せてもらおうか。王に背いた者たちの、覚悟を」
「覚悟なら、とっくに決まってます」
リオは息を整え、剣先を向けた。




