祈りの先で - 1
「……お母様……」
イリスは、ノクスの言葉をひとつひとつ噛み砕くように、静かに聞いていた。
「母上が、あいつの結界を破れたのは……僕の力があったからだと思う」
ノクスの能力は、空間を越える力。
結界や障壁といった概念そのものを無視する、異質で強力な力だった。
「……それで、お母様は?」
イリスが問いかけた、その時。
「ここからは、私が話すわ」
静かな声とともに、7人の前に姿を現したのはエリシアだった。
「エリシアさま……!」
セラが目に涙を浮かべ、駆け寄って抱きつく。
「セラ……無事で良かった……フィオも」
名を呼ばれ、フィオは申し訳なさそうに視線を伏せた。
「……エリシア様は、イリス様のお母様のことをご存知だったのですね」
リオの問いに、エリシアは小さく頷く。
「城から逃げたエリオネは、国から手配されていたわ。そんなある日……彼女によく似た女性が、礼拝堂に現れたの。まだ幼いノクスを、抱いたままね」
⸻
夜の礼拝堂。
普段は誰も訪れない時間帯に、人影があった。
当時、礼拝堂に仕えるただのシスターだったエリシアは、その夜、見回りを任されていた。
「……お祈りですか?」
静かに声をかけると、床に座り込んでいた女性が顔を上げた。
その頬を涙が伝っていた。
粗末な布を身に纏い、ひどく疲弊したその姿は、王妃とは思えなかった。
実際、エリシアは彼女が手配中の人物だとは、気づかなかった。
エリシアと目が合った瞬間エリオネは、ほっとしたように微笑み、そのまま糸が切れたように倒れ込んだ。
「……っ! だ、大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄ったエリシアの腕の中には、強く抱きしめられた赤子の姿があった。




