記憶 - 1
玉座の間。
冷たい光が差し込む窓の向こうで、レオナルトは静かに目を閉じていた。
王宮は、イリスとリオの捜索が開始されていた。
この騒がしさは、あの頃のことを思い出す。
エリオネがここを逃げた……あの日のことを。
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若き日のレオナルトは、王としての重責に疲れていた。
国の未来を背負うことは、まだ自分には重すぎる鎧だった。
そんな時、息抜きで訪れた王宮の図書室。
ここは一般人でも許可が降りれば出入り自由な場所。
そこで彼女……エリオネを見かけた。
森林のような深い緑色の髪を後ろで束ねた女性が、古びた書物を手に取っていた。
柔らかく光るその瞳に、なぜかレオナルトは釘付けになる。
金色の光が差し込む窓辺で、指先が頁をなぞる仕草は、どこか神聖にさえ見えた。
「――お前、熱心だな」
つい声をかけた自分に、彼女は顔を上げ、柔らかく微笑んだ。
「読書は、世界を知ること。知れば、守るべきものも見えてくるでしょう?」
その言葉に、レオナルトは息を飲んだ。
「王は迷子ですか?」
くすりと冗談交じりで放ったその言葉に、レオナルトは思わず眉をひそめる。
知性とユーモアを兼ね備えたその目は、ただの書物好きではないことを告げていた。
レオナルトはその日から定期的に図書館へ通った。
2人の間に、言葉のやり取りが自然と流れる。
政治の話、歴史の話、時には些細な冗談まで。
若き王は気づけば、国のことを忘れ、ただ彼女の話に耳を傾けていた。
「君は……特別だ」
気がつけば、自然と口をついて出た言葉だった。
エリオネは少し笑みを浮かべ、目を細めた。
「ありがとうございます」
出会ったばかりの2人だったが、それぞれが背負うものを、言葉にせずとも感じ取っていたのだ。
そして、2人の物語はこの瞬間から、静かに、しかし確実に始まったのだった




