交響 - 5
リオはまだ、イリスに呼び出されて叱られた余韻の中で、部屋のベッドの上に座っていた。
剣を膝に置き、深く息を吐く。
「……はぁ」
すると、静かな気配が近づいてくるのが分かった。
顔を上げると、そこに立っていたのは……
「アルベルト……」
昼間の光に照らされ、あの頃と変わらぬ落ち着いた佇まい。
リオは立ち上がり、自然と剣を手に取る。
しかし、それは戦闘のためではなく、礼を示すためだった。
やっとできた2人きりの時間。
「久しぶりだな、リオ」
「……師匠」
アルベルトの目が、静かにリオを見据える。
「元気そうで何よりだ。お前は叱られ慣れてると思ったが、よっぽど姫様の説教が効くんだな」
「……はい」
アルベルトは微かに笑った。
「そうか……成長しているようだな。お前の剣の握り方も、あの頃よりずっとしっかりしている」
リオは少しだけ目を細め、懐かしい感覚が胸を満たす。
「……アルベルト、どうして……」
リオはまだ、怒りと戸惑いが混ざったまま言葉を絞り出す。
アルベルトは少し視線を落とし、深く息をついた。
「消えた理由だろう?……話そう」
その声には、いつも通りの穏やかさの奥に、覚悟が滲んでいた。
「5年前のことだ。お前がまだ幼かった頃……任務で外にいた俺は、まだ10歳そこらのクロと出会った」
アルベルトの言葉に、リオは息を飲んだ。
「手伝って欲しいと言われたんだ」
「手伝う……?」
「そう。彼は、自分の力だけでは解決できない問題を抱えてた。そして、俺を頼ってきたんだ」
アルベルトの瞳が、遠くの記憶を見つめる。
「その目には、底知れぬ強い意志があったよ」
「その年齢で?……っ……」
ふと、リオはイリスの顔を思い浮かべた。
彼女の目にも、底知れぬ強い意志があった。
リオの表情でアルベルトはなにかを察したのか、小さく笑う。
「あの子たちは特別だな……」
「……だから姿を消したんですか?」
「そうだ」
アルベルトはゆっくりと目を閉じ、思い出していた。
泣きもせずただ、真っ直ぐ真剣な目でアルベルトを見つめるクロ。
『お願いします。貴方しか助けられないんです』
そう言った。
「……俺がいたら、手伝えたんじゃないですか?」
アルベルトは静かに首を振る。
「いや、あの時のお前には、まだ早かった。俺が行くしかなかった」
「……でもっ!」
アルベルトは深く息をつき、リオの肩に手を置いた。
「お前には残って剣を握ることを学ばせた」
リオは胸の奥で、理解と悔しさが入り混じる。
「……クロが、アルベルトに頼んだ……」
「そうだ。そして俺は、それを断ることはできなかった」
沈黙が流れる。
「分かりました」
リオは、言葉にならない感情を胸に抱きながらも、ただ頷いたのだった。




