交響 - 4
昼下がりのヴェイル拠点。
掃除された広間は、日差しが差し込み、以前なら物陰になっていた場所まで光が届いていた。
リオは壁際で腕を組み、周囲を見渡す。
「……落ち着かない」
「わかる〜」
振り向くと、机に腰掛けたロイがパンをかじりながらこちらを見ていた。
「綺麗すぎて逆に不安になるな〜。でも、汚くするとあの姫様に怒られそ〜」
「失礼だな」
「いや? 事実?」
「……ところで、なぜ君は毎日毎日、自分の前に現れるんですか? 隙あらば俺を殺そうとしてるとか?」
ロイはニコッと笑い、テーブルの上にあったジャムをパンに塗る。
「よく分かりましたね〜。でもリオさん、警戒心が強すぎて、隙がないんですよ〜」
その瞬間――
ロイがジャム用のバターナイフをリオに向けて投げた。
リオは顔を少し傾けて避け、バターナイフは壁に突き刺さった。
飛んだジャムが、リオの頬に付く。
「ダメですよ、そんな使い方したら」
「……ふんっ」
リオはジャムを指で取ってペロリと舐める。
「アルベルトに、兄弟子を敬えと教わらなかったんですか?」
「俺は、お前を兄弟子なんて思ってない!」
「そうですか」
その時だった。ロイの背後に誰かが立つ。
リオの視線が反射的に向く。
「……アルベルト」
「久しぶりだな」
昼の光の中に立つその姿は、紛れもなく“現実”だった。
ロイの顔が強ばる。
「師匠……」
「元気そうだな、ロイ」
「なんでですか!? なんでこの人なんですか!?」
「……何がだ」
「リオさんですよ! 俺、めちゃくちゃ頑張りましたよね!? それなのにこの人、気づいたら“一番弟子”みたいな顔してるし!!」
ロイは地団駄を踏む。
「なんでそんな信頼されてんの!? 才能!? 性格!? それとも無口枠!?」
「ロイ」
「はい!」
アルベルトは淡々と言った。
「嫉妬する暇があるなら、剣を振れ」
「……っ」
ロイは唇を噛む。
「……だから嫌いなんですよ、そういうところ」
「なら、辞めるか?」
「辞めません!!!」
即答のロイはリオを睨む。
「覚えとけよ、副隊長」
リオは少し間を置き、言った。
「受けて立つ」
「ちっ、余裕ぶりやがって……!」
ロイはそのまま、立ち去った。
――数時間後。
壁に刺さったままのバターナイフを見つけたイリス。
読む力を使い、リオとロイを呼び出し、叱責が炸裂するのだった。




