交響 - 2
イリスたちがヴェイルに匿われて、数日が経った。
ヴェイルの拠点は、思っていた以上に散らかっている。
床に転がる武器。
積み上げられたままの書類。
空になった食器。
どこからか漂う、乾いた鉄と油の匂い。
「……すごいな」
イリスの呟きは、褒め言葉ではなかった。
「まあ、生活より生存優先みたいですからね」
隣でリオが肩をすくめる。
イリスは何も言わずゆっくり息を吸うと、袖をまくった。
⸻
ロイが広間の前を通りかかった時だった。
目に飛び込んできた光景に、思わず足を止める。
「ちょ、ちょっと待て、それ俺の――」
「床に置いた時点で共有物よ」
「イリス様、これはどこに置きましょう?」
「ああ、それはそこの棚の上にしまって」
広間では、大掃除が始まっていた。
武器は壁際へ移動。
書類は分類され、食器は洗って乾かされている。
「へぇ……王女様って、こんなことするのか〜」
ロイがからかうように声をかける。
イリスは、ちらりとロイを見ると布を絞りながら静かに言った。
「散らかってる場所って、心も落ち着かないでしょう」
その一言に、場が静まる。
誰も、反論しなかった。
すると、床を拭くイリスのそばへ、布を持ったセラが小走りで寄ってくる。
「……私も、床拭きます」
「ありがとう」
2人は並んで、無言のまま床を拭いた。
その姿は、どこか姉妹のようにも見えた。
しばらくして、セラがぽつりと口を開く。
「イリスさま……ここ、安心しますね」
「え?」
「ここ、嘘がないです」
イリスは一瞬だけ手を止めたあと、小さく頷いた。
「……そうだな」
その口元は、わずかに微笑んでいるようにも見えた。
その表情を見て、セラはほっと息をつく。
「さあ、イリスさま! お掃除、続けましょう!」
こうして、1日をかけて、
ヴェイルの拠点の広間は、見違えるほど綺麗になったのだった。




