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王の子は世界と世界のあいだで鍵となる  作者: 眠瑠
エピソード10:交響
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交響 - 2

イリスたちがヴェイルに匿われて、数日が経った。

ヴェイルの拠点は、思っていた以上に散らかっている。


床に転がる武器。

積み上げられたままの書類。

空になった食器。

どこからか漂う、乾いた鉄と油の匂い。


「……すごいな」


イリスの呟きは、褒め言葉ではなかった。


「まあ、生活より生存優先みたいですからね」


隣でリオが肩をすくめる。

イリスは何も言わずゆっくり息を吸うと、袖をまくった。



ロイが広間の前を通りかかった時だった。

目に飛び込んできた光景に、思わず足を止める。


「ちょ、ちょっと待て、それ俺の――」

「床に置いた時点で共有物よ」

「イリス様、これはどこに置きましょう?」

「ああ、それはそこの棚の上にしまって」


広間では、大掃除が始まっていた。


武器は壁際へ移動。

書類は分類され、食器は洗って乾かされている。


「へぇ……王女様って、こんなことするのか〜」


ロイがからかうように声をかける。

イリスは、ちらりとロイを見ると布を絞りながら静かに言った。


「散らかってる場所って、心も落ち着かないでしょう」


その一言に、場が静まる。

誰も、反論しなかった。

すると、床を拭くイリスのそばへ、布を持ったセラが小走りで寄ってくる。


「……私も、床拭きます」

「ありがとう」


2人は並んで、無言のまま床を拭いた。

その姿は、どこか姉妹のようにも見えた。

しばらくして、セラがぽつりと口を開く。


「イリスさま……ここ、安心しますね」

「え?」

「ここ、嘘がないです」


イリスは一瞬だけ手を止めたあと、小さく頷いた。


「……そうだな」


その口元は、わずかに微笑んでいるようにも見えた。

その表情を見て、セラはほっと息をつく。


「さあ、イリスさま! お掃除、続けましょう!」


こうして、1日をかけて、

ヴェイルの拠点の広間は、見違えるほど綺麗になったのだった。

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