交響 - 1
森の中。
石の階段を下りた先に、灯りがあった。
王宮の冷たい白色とは違う、橙色の灯り。
揺れる炎が、壁に影を落としている。
「ここが、ヴェイルの拠点だ」
クロの声が響く。
広間は思ったよりも生活感があった。
武器が無造作に立て掛けられ、長机の上には食器や紙束。
誰かが笑い、誰かが口論し、誰かが眠っている。
「……組織って感じじゃないな」
イリスが思わず零す。
「よく言われる」
クロは素っ気なく返した。
仮面を付けた者。
外している者。
年齢も雰囲気もバラバラだ。
イリスは、広間にいた1人の少女を見つける。
その少女を見て、じわっと心に染み、込み上げてくるものがあった。
「……セラ!!!」
イリスは、彼女・セラの名前を呼ぶ。
その声に気づいたセラは、振り向き目を見開いた。
「イリスさま……!」
セラは走り出すと、思いっきりイリスの胸に抱きついた。
「……イリスさま!イリスさま!……無事で良かったです!!」
自分の身よりも、イリスの身を心配をする言葉。
イリスはセラの頭を撫でた。
「しばらく、君たちをここで匿う」
クロが告げる。
「王宮は今、危険だ。お前を狙う者も、セラを追う者もいる」
「……わかった……ありがとう」
礼を言うと、クロはわずかに視線を逸らした。
「感謝はいらない。利害が一致しているだけだ」
そう言いながらも、拒絶はしなかった。
⸻
イリスに与えられたのは、小さな個室だった。
石造りだが、毛布も棚も灯りもある。
「……落ち着く」
姫として生きてきたはずなのに。
豪華でも、広くもないこの部屋の方が、なぜか息がしやすかった。
「隊長」
部屋の前で、リオが声をかける。
「入っていいぞ。あと、その呼び方はやめろ」
リオは苦笑いを浮かべながら、部屋へ入ってきた。
「……イリスさま」
「……なんだ?」
イリスは腰を下ろし、息を吐いた。
ここでは、守られる立場でも、命じる立場でもない。
「……なんだか、変な感じだな」
「悪くはないでしょう」
そして、少しだけ言葉を選ぶように言った。
「ここでは、安心してくださいね」
こうして、ヴェイルでの日常がはじまった。




