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王の子は世界と世界のあいだで鍵となる  作者: 眠瑠
エピソード10:交響
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交響 - 1

森の中。

石の階段を下りた先に、灯りがあった。

王宮の冷たい白色とは違う、橙色の灯り。

揺れる炎が、壁に影を落としている。


「ここが、ヴェイルの拠点だ」


クロの声が響く。


広間は思ったよりも生活感があった。

武器が無造作に立て掛けられ、長机の上には食器や紙束。

誰かが笑い、誰かが口論し、誰かが眠っている。


「……組織って感じじゃないな」


イリスが思わず零す。


「よく言われる」


クロは素っ気なく返した。

仮面を付けた者。

外している者。

年齢も雰囲気もバラバラだ。


イリスは、広間にいた1人の少女を見つける。

その少女を見て、じわっと心に染み、込み上げてくるものがあった。


「……セラ!!!」


イリスは、彼女・セラの名前を呼ぶ。

その声に気づいたセラは、振り向き目を見開いた。


「イリスさま……!」


セラは走り出すと、思いっきりイリスの胸に抱きついた。


「……イリスさま!イリスさま!……無事で良かったです!!」


自分の身よりも、イリスの身を心配をする言葉。

イリスはセラの頭を撫でた。


「しばらく、君たちをここで匿う」


クロが告げる。


「王宮は今、危険だ。お前を狙う者も、セラを追う者もいる」

「……わかった……ありがとう」


礼を言うと、クロはわずかに視線を逸らした。


「感謝はいらない。利害が一致しているだけだ」


そう言いながらも、拒絶はしなかった。





イリスに与えられたのは、小さな個室だった。

石造りだが、毛布も棚も灯りもある。


「……落ち着く」


姫として生きてきたはずなのに。

豪華でも、広くもないこの部屋の方が、なぜか息がしやすかった。


「隊長」


部屋の前で、リオが声をかける。


「入っていいぞ。あと、その呼び方はやめろ」


リオは苦笑いを浮かべながら、部屋へ入ってきた。


「……イリスさま」

「……なんだ?」


イリスは腰を下ろし、息を吐いた。

ここでは、守られる立場でも、命じる立場でもない。


「……なんだか、変な感じだな」

「悪くはないでしょう」


そして、少しだけ言葉を選ぶように言った。


「ここでは、安心してくださいね」


こうして、ヴェイルでの日常がはじまった。

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