17.コウガにて
結果から言うと、ロッカク家はあった。
『何を無駄に調べてたんですか?』
すごい大きな家らしい。コウガのお得意さんだそうだ。
『武家のことは武家に任せておきましょう。わたし達と関係ありませんし!』
某らは、神獣と魔獣の世界だけに気を配っておればよい。コウガやイガがどこの家と繋がっておろうが関係ない。
あと、アサクラ氏も存在した。アザイ氏は見あたらない。
『せっかくこの時代に生きているのに! これでは、アサイかアザイか問題、が解決できません!』
スルガではあんまし聞かない名なのでござる。
「ささやかながら、歓迎会を開きたいと存じ上げててまつりまするが……イナバの主はどちらへ? お姿が見えませぬが? まさか! 我らコウガ忍、もとい! コウガ衆の重層包囲陣を抜けられたか!」
ザザッ! と衣擦れの音を立て、神官服の方々が片膝を立てておられる。何人か、胸の合わせの奥から渋柿色の生地が見えておるが、某の目の錯覚でござるかな? 違うでござろう!
『そう言う事にしておけば平和です』
うむ。
「イナバの主は、イズモで魔獣が現れた故、一足先にお帰りになった。その方らの事は良い印象であらせられたぞ」
「もったいなきお言葉ッ、うげぇー」
緊張とか感動とか、なんか感極まって空ゲロでござる。忍者の統括者は神経を酷使するのでござろうな。胃を大事になされよ。
宮司様を始め、視界に入る方々、全員が土下座された。某の嘘に納得された模様。
……どんどん嘘が上手くなってしまった。……コウガ衆も忍者じゃないんです、と嘘をついておるから、お相子でござるな!
してて――
フシミの主、ミウラ、そして某は、美味しい料理に舌鼓をうちながら、コウガ衆の踊りを見ているのでござる。
『今の演目、風車手裏剣で鎧を真っ二つにする芸は見物でしたね』
「その一つ前の、円月手裏剣は一つ欲しいくらいでござる! さすが鍛え抜かれた技にござる! 技の披露会でござるよな?」
「ハッハッハッ! 何を仰せでございましょうか? あれらは全て「踊り」でございますよ。コウガの里に伝わるアブラヒの神のお祭りで踊る舞踊でございます。技? とんでもございませぬ!」
あくまでも舞踊と断りを入れる宮司殿である。
『いや……ま、いっか』
「いやいや……ま、いっか」
そう言う事にしておいたが、納得はしていない。
「ちなみに、お頭。ちと聞きたいことがござる」
「なんでございましょう?」
「おっと、言い間違えた。宮司殿、ちと聞きたいことがござる」
「……何でございましょう。この「宮司」で答えられることなら何なりと」
『もうからかうのは止めてあげて!』
必死さが好印象なのでござるがなー。
「コウガ群には、ここシングウ神社以外にアブラビ神社があると聞いたが?」
「はっ! アブラビ神社は、えー、いわばコウガの代官所的な? 拠点的な? おもに政に使われておりますので、えーっと、そういうことで散らかっておりますので、ご見学ご希望であればお時間を頂ければなんとか……」
懐から取り出した手ぬぐいで汗を拭いておられる。
「いやー、暑いですなー。温暖化ですかなー!」
某の背線が汗に行ったことを察知して、下手な言い訳を口になされる。今、神無月でござるよ?
それと、そこはかとなく自然な動きで抜け出した男がおるが、どこへ向かって走り去っていったのでござろうか?
『見られるとマズイ書類がたくさん、所狭しと置かれているのでしょうな。あと見られては困る忍者道具だとか、もろ忍者屋敷だったりして。……お片付けに走っていかれたか?』
それを見てやらぬというのが大人の対応でござる。
「いやいや、そうではない。アブラビという名が珍しいので聞いたまで。祭神はどちらの神様でござる?」
「あ、はあ、伝承ではそのまんまアブラビノオオカミ様でして。調べても記紀に出てこないお名前ですが、この地にて古くから祀られてきた由緒ある神様でございます」
「ほほー、地元の?」
一瞬だけ、ミウラと視線を交わせた。
「どういった神様でござるかな?」
「アブラヒ、つまり油と火を意味されておられまして、原初の創世の神様と伝えられております」
「ほほー! それは珍しい! して副祭神は?」
「もちろん、フシミの主でございます! ありがたやー!」
神官方が深く頭を垂れられる。対象はフシミの主でござる。
「不思議な『縁』でござるな」
『偶然か?』
『ウサギ様は知らないと思います』
それっぽい会話をフシミの主とミウラとの間で短く交わす。
「ははーっ!」
某の台詞だけ聞けば、ほっこりした会話にしか聞こえぬ。
『この者共、古の神にはさほどこだわっておらぬようだな』
『イオタさん、コウガを使いましょう』
二方の意は伝わっておる。
「ふんふん、なるほどなるほど! 神獣様のお言いつけは、このイオタにお任せを」
一芝居うつ。某、名優もかくやでござる!
『旦那、棒読みですよ』
『イオタらしくない言葉選びよのう』
素人は黙っておられよ!
「宮司殿、ひとつ神獣様のお戯れに付き合っていただけぬか?」
「何なりとご用命下さい!」
土下座しつつも宮司殿の声は明るく弾んでおる。神獣様の役に立ちたいのだ。ひいては、コウガが神獣様の命令を受けたという名誉と実績のためでござろう。
ミウラがよく言う、ういんういん、の関係でござるな。
「神獣様は、アブラヒの神に大変興味を惹かれておいでのご様子。古い、古式ゆかしき神と言うところがツボらしい。そこで、その方ら、仕事で地方へ行ったついででよい。その地方に古い神がおれらたか調べて参れ」
『イオタさん、居てない地方の方が多いですよ。モチベ、気分が下がりませんか?』
委細承知。
「ああ、居られぬ地であらば居られぬという報告を上げよ。書面で良いぞ。そうそう、その方らのウデマエならばイマガワ館に気取られることなく届けてくれるだろう。ミウラの主がウデマエを楽しみにしておると申されておられる」
宮司殿達の背筋が伸びた。満更でない顔をしておられる。
「お任せを」
ず、ずずいと効果音付きで頭を下げられたでござる。今、魔獣がここを襲ったら、コウガ忍軍だけでブチ殺せそうな気迫を感じるでござる。
――怖い。




