16.コウガ会議
本殿で待ち構えておられた兎さん、イナバの主とご対面でござる。
「コウガの宮司殿を見込んで頼みがある!」
イガのクロダと同じく、コウガで神獣様の秘儀を行うという設定で、幾重にも防御、警戒態勢を依頼した。
「直ちに! 第一線はオオザルのダイスケ! 本陣はイシカワのゴエモン! 直ちに配置に付け!」
「「ハッ」」
シュバッ! と音を立て、斜線の現像を残し、次々と姿を消していくコウガ忍者達。
オオザルと呼ばれた男は、クマノで猿飛と呼ばれていた男でござるな。
見る間に柿渋色の装束に身をまとった男達が集まってきて、たちまち配置についていく。
「本殿から五十間は誰も立ち入ってはならぬ。よいな!」
「ハッ!」
すぐさま配置が変更になった。恐るべき統率力にござる!
『石川五右衛門さんは甲賀だったんだ……』
ミウラが感心しておる。確か、石川なにがしは、山根伸介とやらと双璧をなす腕の持ち主とミウラが言っていた気がする。
さっそく本殿へ上がる。板蔀を下ろし、灯明に火を付けるとミウラ謹製結界が降りてきた。真の暗闇の中、灯明一つが薄ぼんやりとした明かりでござる。互いの鼻面しか見えぬ。
「お待たせして申し訳ござらぬ」
『いや、言い出したのは私だからな』
『陽動作戦はうまくいった模様です』
『無理がないよう気を配った』
某とミウラは、もとよりコウガへ寄ると明言しておった。フシミの主は担当地域でござるから、付いてきても不自然さは無い。それにヤマトの主と途中で別れたのも、当たり前っぽくて良い陽動になった。
たとえ、某とミウラを空から見ている者がおろうと、何をやっとるのか分からぬであろう。たぶん。
イナバの主、フシミの主、ミウラと某が額を付き合わせ、車座になって座る。
『何が起こるか分からぬので、手短に済ます』
イナバの主が口火を切った。ずいぶんと焦っておられる。このお方、クマノの寄り合いの頃から様子がおかしかったでござる。
『私が守護する国、イズモは、最初の神獣が降臨する前に大地の神々がいたとされる地であるとの噂話があった。イズモ大社の神官共が神獣に対し、反抗的な態度をとったのは記憶に新しいだろう』
イナバの主の赤い目から、光っておるような力を感じる。
『あれからずっと考えていたのだ。もともとイズモには、神獣に反抗する素地があったように、肌で、……毛先で感じていた』
……一般的な人々は、神獣様に対し、条件反射的に敬うものだ。コウガの衆が良い例でござる。されど、言われてみれば、イズモの神官共はそれが欠如しておるように思える。今から思えば。
『ミウラの主、イオタ、良い感じに時を作り、イズモへ来い。世代を重ねながら生きてきた人間の間になら、古の伝承として伝わってる可能性がある。特にイオタ。人の間に伝わる伝説を聞き出せるのは人であるお前だけだ』
イズモの主は早口で伝えた後、黙り込まれた。そして、ミウラに目で合図を送る。もうこれまでにしようと。
『では、怪しまれないよう配置を換えましょう。イナバの主とフシミの主は上座へ。わたしはお隣に並びます。下座の対面にイオタさん』
三者三様に大慌てで位置を変えて座る。
『イオタさん、良い感じでなんかしてたようにお願いします』
「ちょっと待て! 某に丸投げでござるか!?」
『結界を解きますよ!』
「待てと言うに!」
音もなく黒い結界が解けた。開け放たれた四方から日の光が入って一気に明るくなる。
某は、あわててイイカンジでお二方に土下座した姿勢を取る。薄目を開けて光になれるまでじっとしている。なんかイイカンジに見えるように。
目が慣れた頃合いを見計らい、それっぽいイイカンジで、イイカンジな礼儀でイイカンジに後ずさり、それっぽい仕草で座る。
二礼してから、顔を上げる。
それとなく周囲を見渡す。言いつけ通り五十間離れた向こう側で、柿渋色の集団がこっちを盗み見ておる。
「祭事は恙なく終了いたしました。もう、集中力を切らしてこちらを見ても目が潰れる事はござらぬ。警戒を解いてくだされ」
声を張り上げて伝える。「え? 集中力切らしてたら目が潰れてたの?」など不安な方のザワザワが波のように広がっていく。
「警戒態勢。第二種へ!」
柿渋色の集団が、一糸乱れぬ連携を持って配置を換えていく。そこに付けいる隙が無い。厳しく練習してないとこうは動けぬ。イガ者は個人技に優れておるようだが、コウガ者は集団戦に強そうでござる。
宮司殿が身軽な駆け足でやってきた。フウマ、ネゴロ、イガ、コウガ限定で、腕を振らない走り方が流行っている模様。
『この調子ですと柳生忍軍と八瀬童子も存在してますね』
柳生は剣士でござろう? ヤセドウジは聞いた事がない。
「お勤めご苦労様でございます」
砂地に付けた片足に利き腕を乗せ、左拳を地に着ける、というかっこいい座り方でござる。
「さすがでござる。見事な統率力でござる」
「コウガの里は自治が発達しておりますので、自衛の観念が発達しているだけですよ」
実にさわやかな笑顔でござる。純粋無垢すぎる笑顔から、裏などは一切見えぬ。さすがでござる!
『この頃、天下と言えば近畿地方だけを指します。あの山の向こうが琵琶湖で六角氏……この世界に六角家は存在してるんでしょうか? 足を伸ばせば朝倉にも手が届きますし。コウガは天下を狙える実力者支配地域に隣接しておりますので、自衛の気持ちがイガより強くなって――』
「宮司殿、お話が前後いたしますが、今宵一晩、軒先を貸していただけませぬでござろうか?」
ミウラの長台詞をぶった切って、かつ、誤魔化すために話を始めた。
「何を水くさい事を! コウガの里を上げて歓迎いたしますぞ! 今日はこの宮でゆっくりおくつろぎください」
権力ってすばらしい。




