15.コウガへの道
前回と同じ道を通ってイガのクロダ村へ出た。
村総出で歓迎されたでござる。フシミの主もご一緒なので、歓迎式典は豪勢なものとなった。
夜も更けて料理と酒が進み、クロダ村の連中もハッチャケだした。男衆が酒の上の芸を見せてくれたのでござる。
派手に爆発し微塵になったかと驚いていたら、直下の地面から這いずり出てきて、拍手喝采!
『忍法微塵隠れの術でございますね』
全身を包む白い布が月の光を反射して黄緑色に光る。幽玄の世界でござる。侘びさびでござる!
『忍法、朧月夜の術でございますね』
一人の男が三人に見える。ちょいと酒に酔ってしまったようでござる。
『オーオーオーオーヤー! 忍法、影分身の術でございますね。サスケーッ! お前を斬る!』
先ほどから煩いぞミウラ!
「今宵は是非神事を!」
等とクロダ神社の神主殿から頼まれたが、何のことでござろうか? 両手に鈴を握ってシャンシャンするあれでござるかな?
『おそらく、18禁に所属する神事でございますな。国造りとか? いざ、参りましょう!』
『不肖、フシミの主が介添えいたす』
「人が三人に見えるほど酔ったでござる故、寝る」
『くそザコネコ耳がぁーッ!』
お休みなさいでござる。
して翌日――
皆に惜しまれ見送られ、クロダ神社を後にした。出立の前、クロダ神社の宮司殿が挨拶に来た。
「昨夜、宴会が終わってからコウガへ向けて親書を届けました」
「夜中に走らせたか? それは悪いことをしたでござる」
「いえいえ! ニンジャは、もとい……たまたま、コウガに用事がある者を走らせましたので、お気になさらず」
今ニンジャと言わなかったか?
「深夜で、道が見えるのでござるかな?」
「えー……昨夜は満月でございます。ニンジャにとって、もとい……農夫は旬の野菜をたくさん食べておりますので夜目が利きますからな。昼間とさほど変わりませぬよ、ハッハッハッ!」
今ニンジャと言わなかったか? それと旬の野菜は夜目を鍛える効果があるんだ。初めて知った。
「返事も昨夜の内に戻ってきました。大歓迎とのことでございます」
「神獣様の足でも全力で走らないと夜の内に往復はできぬでござるよ?」
「何をおっしゃる。ニンジャを、もとい、……えー、使者がたまたま足の速い者だったまででございますよ。たまたま、紀伊半島長距離走り競争で一位を取った者でした」
今ニンジャと言わなかったか?
「神獣様なみに走れる人間は、フウマの小次郎殿だけだと思うておった。認識を改めねばならぬのでござろうか?」
「ほほう……フウマでござるか。やはりイオタ様は忍者を使われる」
「フウマがニンジャとなぜ分かった?」
「……神社の間ではフウマは有名でございますよ」
一瞬の間があったでござるな? それと、先ほどから額の汗が酷い。
「今日朝から暑うございますな-」
「年末間近の真冬でござるが?」
「宮司様ッ!」
宮司殿の両脇をごっつい体格の男二人が押さえた。
「喋りすぎのようでございますなぁ」
「死罪でございます」
ズルズルと神社の裏へ引きずられていった。
「旅の無事をお祈りしておりまするッ!」
残った神官一同土下座でござる。以後、何を言っても一言も口を利かぬ。聞こえておらぬフリでござる。
仕方ないので、クロダ神社を後にした。
『あれ? 鉄さびの匂いが?』
某は気づかなかったでござる! 気づかなかったのでござる!
して、田舎道を北上でござる。
ウエノを過ぎ、低い山を超えると、開けた土地に出た。
「お待ち申し上げておりました」
「うぉ!」
『びっくりした!』
ザザッと葉擦の音を立て、上から数人の男が落ちてきた。片膝を突く礼でござる。フウマ忍軍の正式ご挨拶そっくりの礼でござる。全員が全身柿渋色のお召し物。顔も目だけ出して後は布で覆われていた。
代表者一人がグイと覆面をとり、素顔を覗かせる。素顔を見せる事が安全の証とか申さぬよな?
「拙者、コウガ群の中忍……ゴホン! 世話役のマゴロクと申すでござる」
「今、中忍って言いかけなかったでござるかな?」
「空耳でござる! これよりシングウ神社へご案内いたします。ささ、どうぞこちらへ。すぐそこでござる」
空耳でやり過ごすつもりでござるな。
「ニンジャの足ですぐそこでござるかな? だとすると某のような女子の足では遠そうでござるが?」
「これは失礼。早足ですぐでござれば、ゆっくりと歩かれてもさほど変わりはござらぬ」
「ニンジャの足が速いと、なぜ知っておる?」
マゴロク殿が着ておられる柿渋色のお召し物。その脇が汗で変色し始めておられる。
「……ではご案内つかまつる」
聞かなかった事にして、案内を始めおったでござる。
気がつけば、某らを囲むコウガ者の人数が三十人を超えておる。外側へ向けて殺気を放つ者八名は目に見えるところにおるが、見えないところ、山の中とか森の中とか、果ては猿しか通れぬような崖下にまで感じる気配を足すと、優に三十人を超えるのでござる。
『うーん、外郭部のコウガ者から殺気どころか気配すら感じないのはすごいですね』
『凄腕の上位30名が護衛に集まったと言ったところか、うむ!』
ミウラとフシミの主を唸らせるコウガ者とは?
案内されたのは四方を山で囲まれた小さな盆地でござった。
それなりに格式ばった、それなりに立派な神社でござる。
『どこが立派かと言うと、主に城壁のように堅そうな造りの土塀でございましょうかね?』
「明らかに外敵を意識した造りにござる。まるで軍の活動拠点でござるな」
「な、なにを仰せか、とんと分かりませぬ。本来、我らコウガ忍軍――」
「コウガ忍軍とな?」
マゴロク殿は、片膝付きのニンジャスタイルで平伏したまま、一呼吸ほど沈黙されておられた。
「……何を仰せかとんと分かりませぬ。コウガ群と申しただけでござる。聞き間違いでござる。話を続けます。コウガ群の政治的中心はアブラヒ神社なのでござるが、あそこは平地でありオウミの海やロッカク様の領地に近すぎます。密会密談には向きませぬ。故にここへご案内した所存」
「密会? 密談?」
マゴロク殿が黙ってしまわれた。背中に汗の黒いシミが広がっていきおる。
「……あ! 我らがお頭がお出迎えに! 背は我らはこれにて、ごめん!」
「お頭?」
「ぐ、宮司様でござる!」
シュバッ! と風切り音を立て、縦線を残してマゴロク殿が逃げた、いや、帰られた。
周囲からもシュバッシュバッっと風切り音が煩いほど聞こえてくる。
『なんで、彼らはニンジャである事を頑なに否定するんでしょうかね?』
「おそらく、ニンジャと知れると仕事がしづらくなるからではござらぬか?」
『ニンジャという職が下賤なものであるから、嫌われたくなくて隠しているのでは? ああ、神社の宮司がやってきたぞ』
神官服の正式なのを身にまとった集団が急ぎ足でやってくる。
「フシミの主、ミウラの主、イオタ様におかれましては、ご機嫌麗しゅう恐悦至極にございます」
両膝と両手を地に着けてのご挨拶にござる。
「お方がたをお迎えでき、シングウ神社、ならびにコウガ群は、未来永劫この栄誉を称え末代まで語り継ぐ事でございましょう。わたくし、皆様のご案内と勤めさせていただきますこの宮の宮司ウカイと申す者。以後よろしくお願い申し上げます」
大げさな挨拶を受けたでござるが、おや? 誰かに似ているというか、本人では?
「マゴロク殿ではござらぬか?」
「ハッハッハッ、何をおっしゃるかと思えば! 拙者とイオタ様は初対面でござる」
「ござる?」
「ございまする! ささ、長旅でお疲れのご様子。中で茶でも」
強引に本殿へと通された。
本殿には、先にイズモへ帰ったはずのイナバの主が待っておられた。




