第11話 ~出会いと別れに夜空の花を~
ルシウス「フェリス! そっちに行ったよ!」
フェリス「わかってるよ! はあああ!」
フェリスは砂の中から出てきたサンドワームを槍で穿つ。
あの事件から二週間が経っていた、混乱を極めていたフェリスの表情も少しは落ち着いたようだった。
ルシウス「何とか片付いたみたいだね、この依頼でそろそろ旅をする資金が集まりそうだ」
フェリス「かなり依頼をこなしたからねえ……そういえばここ嵐の神殿に近かったね、帰りにマスターのお墓によろう? この前はあまり落ち着かなくてお花もおけなかったし……」
ルシウス「そうだね……でもお花はどうするの? 砂漠なんかじゃお花も咲けないだろうし、宿場で買おうなら高くつくよ?」
フェリス「そうだよね、お花お花お花……あ! そうだ! 昔マスターが言ってたんだけどね、洞窟には星空草っていうお花が生えてるんだって!それ探してみない?」
ルシウス「そうだね、この前嵐の神殿に行ったとき洞窟があったからそこで探してみよう」
フェリス「賛成!」
2人は依頼を終え、灼熱の日差しが肌を焼く中来た道を戻る、太陽が少し傾いたころには洞窟の入口に立っていた。
ルシウス「中に入るよ」
フェリス「おー!」
洞窟に入る、中の様子は二週間前とは変わらず洞穴珊瑚や魔結晶が微弱な光を発し、辺りを薄暗く照らしている。
ルシウス「……ん? ここ通れるみたいだぞ」
フェリス「どれどれ!」
洞窟に入って1時間、ルシウスがある細道を見つけた。未知の発見、フェリスは目を輝かせる。
2人は縦長の隙間に体を平らにして進む。
フェリス「狭いー……」
細道は深くまで入り組んでいる。
やがて険しい道をくぐり、抜けると淡い光が隙間に差し込む。
ルシウス「あれは……」
フェリス「出てみよう!」
広い空間に出た。洞窟の床、岩壁、天井と辺り一帯に星空草が広がる。
群生地だ。
見渡せばどこもかしこも星空のように点々と輝き、2人の瞳に光を宿す。
フェリス「わあー、綺麗……」
ルシウス「これが星空草……植物全体が眩しいほど青白く輝いている……」
2人は洞窟を見上げてしばらく見とれていた。
フェリス「……そうだ、お花! 摘まなくちゃ! 忘れるところだったよ」
ルシウス「そうだな、摘もう」
フェリスは床に咲いていたひと際綺麗な星空草を3輪摘んだ。
ルシウス「行こう」
フェリス「……うん」
2人は洞窟を出て砂岩の塔を上る、頂上に近づくにつれ、フェリスの表情が悲しくもどこか落ち着いたものになる。いつもより目を細め下を向き、手に持った花を眺めながら登る。
しばらくすると嵐の神殿につく、上り切った頃、空は砂漠と同じ色。
黄昏の元墓標が細長い影を伸ばしていた。
フェリス「マスター……」
フェリスは墓標の前でしゃがみ、3本の星空草を飾る。
ルシウスはフェリスの後ろ姿を眺めていた。
フェリス「二週間ぶりだね、マスター……ボクはこれからも元気に生きるからね……だから天国で家族と元気にしてね……一杯飲んで、一杯歌って、一杯食べて……だからもう、復讐に生きなくてもいいんだよ……だからね……おやすみなさいマスター、ボクは、もう、泣かないよ……今までありがとう……絶対に忘れないからね……」
フェリスは立ち上がりルシウスの方に振り向いた。
フェリス「……ねえ、ルシウス、ボクも一緒について行ってもいいかな? 復讐も少しあるかもしれないけどね、それよりも昔マスターから聞いた世界の綺麗な場所、ワクワクする冒険、いろいろと知りたいんだ……だから……」
ルシウス「ああ、もちろんだ……」
フェリス「ルシウス……ありがとう……」
少女の頬に涙が緩い弧を描く。
夕焼けの光に照らされた涙と少女の笑顔は美しく、儚く……そして力強い。
-明日、昼-
フェリス「そういえば昨日、神殿でこれを見つけたんだよね、なにかわかる?」
フェリスは棒状の金属を取り出した。その金属は人口的に作られたようなどこか部品の面影を残している。
ルシウス「んー、なんかの部品みたいだけど……あれ? 持ってみた感じ普通の金属にしては重いような、試しに魔力を流してみれば? もしかしたらメテオライトでできてるかもね」
フェリス「そうだね」
フェリスは棒状の金属を両手で握りしめ魔力を込める。
フェリス「……!」
するとその物体は突然光を宿し、風と雷を纏わせた。
ルシウス「間違いない、これはメテオライトだね。これからの旅でも危険な相手とやり合うことは全然ある。この後鍛冶屋まで行って装備品に加工してもらおう」
フェリス「そうだね……あんな思いはもう二度とごめんだし……そうだ! 私槍がいいな♪」
ルシウス「いいね! この前、槍を投げたときはびっくりしたよ、さあ、支度をするぞ」
-数刻後-
商人A「おーい良い生地仕入れてるよー! あんちゃんはどうだい?」
詩人A「そのとき英雄エルガルドはこう言った、我が国を建て、民に安寧を約束すると!」
少年達「待て待てー! 足が速すぎるぞ! ねえ! 砂掛けないで!」
少し離れ、隣のオアシスへと到着した。町宿場の中心地は今日も賑やかだ。
スラム化した宿場とはまた違う雰囲気がある。
フェリス「確かこの辺りで鍛冶屋と大体の素材は揃うはずなんだよねー」
ルシウス「まあ、暫く歩いてみよう、ん? あれは……」
ルシウスは不思議そうに広場に建てられた掲示板を見つめる。
フェリス「ああ、あれね、広い宿場にはああやって新聞とかチラシが貼ってある掲示板があったりするんだ、そうだ! 街の地図とかあった気がする! いってみようよ!」
ルシウス「そうだな、この前の教団の出来事でなにか情勢に影響も出ているかもしれない、いこう」
2人は集まる人をかき分け掲示板の前に行き、情報を確認する。
フェリス「どれどれ……鍛冶場は宿場の北側、露天とかの商店街はここの広場だけっぽいね……あ、 ルシウス! これ見て!」
フェリスは外国の情勢をまとめた記事を指さした。
フェリス「風鳴りの街ミルアルヴにて、未知の魔物が出現。町は壊滅状態に遭うも居合わせた冒険者達でなんとか討伐。だってさ!」
ルシウス「ああ、間違えない……おい、下に何かあるぞ」
ルシウスはミルアルヴの記事の真下に気になる情報を見つけた」
フェリス「どれどれ……捜索願い。依頼元ギルド、ミルアルヴ支部 依頼者ガレアス・オットー。黒髪で青い瞳をした青年、変わった剣を1振所持、名前はルシウス。目撃情報や心当たりのある方は宿場東のギルド、セト大砂漠支部の案内所に連絡を……!? これって!」
ルシウス「皆……フェリス、すまないがギルドを先にしてもいいか?」
フェリス「うん! 全っっっ然いいよ! むしろ絶対行こう!」
ルシウス「すまない、ありがとう」
2人は人混みをかき分け広場から出た後、宿場東に位置するギルドへ駆け寄った。
ギルドまではそこまで距離はなく数分走るとすぐについた。炎天下で走る体に疲れが堪えるが、ルシウスはそれどころではなかった。仲間との再会という原動力が彼を突き動かす。
フェリス「はあはあ……ちょ、早すぎ……暑い、疲れた……」
ルシウス「すまん、少し取り乱してしまった。」
フェリス「まあ、気持ちはわかるよ……ねえ行こう」
ルシウス「ありがとう……」
門をくぐり、ギルドに入る。そのまままっすぐ進むと案内カウンターがあった。
ルシウスがギルドの職員を訪ねる。
ルシウス「すみません、先ほど掲示板に貼られていた捜索願を目にしました。……恐らく僕です」
ギルドの職員「!?……すぐに確認しますね」
職員は驚くと資料を取り出し、容姿を確認する。
ギルドの職員「どうやら、本当のようですね……よく今まで無事で……あ、丁度このギルド2階の酒場に依頼主の方々がいますが、会ってみませんか?」
ルシウス「ええ、もちろんです!」
2人は職員の案内についていき乾いた階段を登る、階段が一つづつ軋むとともにルシウスの鼓動は激しくなる。
階段を登り切り2階の酒場についた。その部屋の右奥の角隅、見慣れた背格好の3人が円卓を囲んでいた。
ガレアス「……この宿場に来てから1週間かのう、まったく情報がつかめんわい」
エルド「なんだよ爺さん、もう諦めるのか!?」
ルミネ「……」
ガレアス「そうゆうことじゃないわい!ただたまたま少しそういう気分になっただけじゃわい! ああわかっているんじゃ! わかってはいるんじゃ……」
エルド「爺さん……」
ルミネ「明日また別の宿場で探してみませんか? もしかしたら、きっと……」
一度生き別れた仲間との再会、胸の高鳴りは収まることを知らず目の隅を赤らめさせ、口は無意識に半開きになる、たったの数メートル先を歩くだけの時間がこんなにも長く感じた。
重い足取りで一歩……また一歩と近づいていく。
フェリスはルシウスの少し後ろ、ギルドの職員の横で微笑ましく彼を見守っていた。
ガレアス「……そうじゃのう、お嬢さんの言う通り明日また別の宿場に……」
ガレアスは遠くから感極まった表情をする見慣れた青年が歩いてくるのをみると、驚き、持っていたフォークを落とした」
エルド「どうした? 爺さん急に」
ガレアス「う、後ろじゃ……後ろ!」
ルミネ「後ろ……!?」
双子は振り向くとそこにはルシウスの姿があった。
ルシウス「……やあ……元気だった? 無事だよ……」
ルミネ「ルシウス!……」
ルミネが泣きじゃくりながら椅子から飛び出し、ルシウスに駆け寄り抱き着いた。
ルシウスの胸に顔をにうずめるルミネの頭を撫で、なだめる。
ルミネ「ルシウス!ルシウスだ!……ホントに本当に無事でよがっだああ! もうどこにも行かないででよおお! うああああ!」
エルド「……やっぱりそうだよな! ……お前がくたばってるわけがないよな! なあ兄弟! 相棒!」
ルシウス「ルミネ、エルド……」
ガレアス「ガッハハハ! 無事そうで何よりじゃ! 今宵は宴に決まりじゃのう!」
ルシウス「ガレアスさん……」
温かい空気が酒場を包む、食事をしていた周りの客も祝杯を捧げる。
戦士A「おめでとう!」
魔術師A「マスター、今宵は私が全て出そう、ゴールドだ! キラッ!」
フェリス「よかったね♪ ルシウス♪」
ギルドの職員A「上等なお酒と料理、楽団を手配しましょう! 少々お待ちを!」
ルシウス「皆ありがとう……こんなにも!」
熱い目尻をぬぐい、瞳に輝きを宿す。
砂漠の照りつく宿場の中、降り注ぐ光より熱く包む空気はどこかくすぐったくあり、心地よい。
ルミネ「……お帰り、ルシウス」
少女はルシウスの胸の中、涙を流しながら笑顔で生還を祝った。
死屍累々、あまねく戦火を乗り越えし英雄は少しばかりの安寧を得る、夜天の赤き砂漠に輝く一輪の星空草、彼女の笑顔はそれほどまでに美しく見えたのだ。
セト大砂漠、中央宿場のギルド酒場にて。




