第10話 ~対峙~
……砂塵舞う嵐の最奥、砂岩の塔。
今宵、不可侵の領域は静寂を破る。
吹き荒れる嵐の中、響きわたるは贄となる子供の叫びと狂信者達の行進音。
子供「放して! ……放してよ!」
荷台に縛られた子供は身を震わせながら必死に抵抗しようとする。
信者A「……恐れることはありません。偉大なるカース様が導いてくれます…… きっとあなたも良き贄になるでしょう…… 実に誇らしい……」
子供「何が誇らしいだよ! 贄になんてなりたくない!」
信者B「おい、いい加減にしろ、うるさいぞ……」
子供の抵抗に嫌気を指していた教団の男が子供の口に布を巻く。
子供「……!」
信者B「これで少しは静かになるだろう」
信者A「贄を粗末に扱ってはいけませんよ……丁重に扱ってあげませんと……カース様に罰せられてします」
子供「……!」
信者B「静かになったことだし、カース様に昨日の件を報告しに行ってくる」
信者A「そうですね…行ってらっしゃいませ」
-数刻後-
教団の列、先導するのはカース、その後ろに黒聖女がいた。
カース「……」
レギーナ「……ほんと、無口でつまらない人ね、なにか話したらどう?」
カース「語ることはない」
レギーナ「そう、ならいいわ」
無言の圧で空気が悪い、そんな中列後方から男が走ってくる。
信者B「カース様! 連絡に参りました!」
カース「何だ、申してみよ!」
信者B「昨日、遺跡の奥の物置に我らの同胞が二名ほど発見され死亡を確認しました。その際、衣服は全て剝ぎ取られている状態でした」
カース「やはりな……」
レギーナ「あら? 気づいていましたの?」
信者B「どうなさいますか?」
カース「放置でよい、じきに向こうから来るだろう。その際に迎撃する」
レギーナ「あら、自身満々なのね?」
カース「……恐らく2名の内1人は私と同じメトシエラの因果に繋がる末端だろう、用心しろ」
信者B「……!? 直ちに警備を固めます! では失礼!」
レギーナ「メトシエラの因果ねぇ…なるほど、ふふ…これは面白くなりそうだこと♪」
カース「……かの因果に流されるものか……私は”個”である……運命に滅ぼされるものか……」
-一方-
フェリス「……へーこんなところがあるなんて……」
3人は洞窟の中で身を潜めるようにして先に進む。
洞窟の天井は魔結晶や洞穴珊瑚が発光していて辺りを薄暗く照らし出す。
酒場のマスター「ここは普段、人は通らない場所だからな……にしても妙だな、いつもならこの辺りで教団の奴らが巡回しているはずなんだが……」
ルシウス「……二人共静かに……あそこ……」
ルシウスは岩陰から洞窟の奥の方を指さした。
その先には洞窟の出口があり、教団の信者が見張りをしていた。
ルシウス「……2人か……どうする……」
酒場のマスター「あんちゃん、作戦がある、奴らのすぐ近くに魔結晶があるだろ? あそこに思いっきり石を投げてみろ、魔結晶は強い衝撃が加わると強い光を放つ反応を示す。これを利用して奴らの気をそらすぞ」
ルシウス「了解した」
フェリス「おっけーい! 合図に合わせて後頭部を叩くよ!」
準備が整うとルシウスは落ちていた握り拳ほどの石を向かい側の魔結晶めがけて投げつけた。
信者C「……何か光ったな、確認してくる」
信者D「俺も見てくる」
光につられて2人の信者が魔結晶に寄る。
ルシウス「……かかった! 今だ……」
ルシウスは剣を、フェリスは槍の柄で信者の後頭部を叩く
信者C、D「………」
酒場のマスター「よし、気絶したみたいだな……」
ルシウス「先を急ぎましょう」
3人は洞窟の出口めがけて一気に駆けだした。
洞窟を出ると眼前に砂岩の塔がそびえ立っていた。見張りの数が多く厳重な警備が敷かれている。
見つからないよう一向は周辺の岩陰を伝い、砂岩の塔、その入口へとたどり着いた。
ルシウス「扉があるな……」
酒場のマスター「そうだ、この扉から地下室にいける」
フェリス「開けるよ!」
扉を開けるとそこには地下へと続く階段があった。
3人は辺りを警戒しながら遺物のある地下室へとむかう。
ルシウス「……!? これは!」
階段を下り終えるとそこにはメテオライトでできた巨大な遺物が置かれていた。
酒場のマスター「……ああ、間違いない、これが魔力を制限する遺物だ。早速爆破の準備を済ませるぞ」
周囲の安全を確認した後、採掘用爆薬二トロンを遺物の下層、中層、上層に分けて等間隔に設置した。
フェリス「マスター! 設置終わったよー!」
ルシウス「こっちも終わった」
酒場のマスター「よし、お前たち降りてこい! 爆発するぞー!」
爆薬の設置が終わると3人は遺物から距離を置き、置かれていた木箱や樽などでバリケードを作りその裏で耳を塞ぎながら身を地面に伏せる。
……遺物は爆発した。
爆発音は砂岩の塔全域に鳴り響いている。
ルシウス「……よし、剣の力が使える!」
フェリス「気をつけてね!」
酒場のマスター「こっちは任せろ! 暴れてきやがれ!」
剣、光満ちる。
ルシウスは仲間たちに鼓舞され、階段を駆け上がった。
カース「……来るか……」
レギーナ「遺物を破壊したようね♪ 楽しみだわ♪」
信者B「報告です! 地下室の遺物が破壊された模様! ただちに確認してまいります!」
カース「せんでよい……それよりも攻撃に備えろ……」
信者B「ハッ!」
カース「……来るか……因果……」
レギーナ「裏切り物の因果見せてもらうわね♪」
カース「黙れ……」
レギーナ「つれないわねー♪ 」
-一方-
信者E「侵入者だ! 捕らえろ!」
その他信者「うおおおおおお!」
ルシウス「させるか! ブレイブプレアデス!」
その他信者「なんて馬鹿げた魔力だ……総員放てー!」
魔力粒子を放出しながら信者の群衆に突貫するルシウス。加速された斬撃は数多の脅威を切り伏せる。
明星は塔を伝い、天高く駆け昇る。
……やげては塔の頂上、嵐の神殿にてその星光を輝かせる。
カース「……来たか……」
ルシウス「……お前が教祖か、生贄を開放してほしい」
ルシウスは剣先をカースに向ける。
カース「それは無理な相談だな、我らが悲願を成就させるためには生贄は必要不可欠、残念だが応じることはできない」
ルシウス「お前の目的は知っている。新しい魔物を生み出そうとしてるらしいじゃないか、子供達を贄にしてまでな……」
カース「……詳しいな……ああ、そうだ」
ルシウス「お前は命を何だと思ってる! ……子供達には罪はないんだ! なのにお前は……もう一度言う、子供を開放しろ……」
カース「先も言ったはずだ、できないと……それに……もう遅い……」
ルシウス「……!?」
そのとき突然と大きな揺れが襲う。
砂嵐はより強く吹き荒れる。
天に轟くは怪物の鳴き声。
フェリス「はあ、はあ、おまたせ!」
酒場のマスター「おいおい……こいつはどうなってんだ」
2人が駆けつけてきた。
ルシウス「子供達は!」
フェリス「それがどこにも居ないの!」
酒場のマスター「……まさか……貴様ァ! 子供達は! ヒルダは! 何処へやった!」
カース「……一つ、子供はそこだ……」
神殿の奥から巨大な魔物が這い出てきた。
ルシウス「……貴様!よくも!」
カース「……2つ目、貴様の言うヒルダとかいう娘、彼女からは素晴らしい情報が得られた……だが残念ながらミルアルヴにてその命を散らしてしまったんだがな……」
酒場のマスター「………おい……どういう事だ!」
カース「……ミルアルヴにて突如として出現し街を壊滅状態にした魔物……彼女がヒルダだ」
酒場のマスター「……は? ……あ? ……嘘だ……嘘だ!」
フェリス「……この下衆……」
ルシウス「……まさか!?」
-ミルアルヴにて-
ルシウス「助かったエルド! ……これで終わりにする! シリウス……」
魔物「……!」
ルシウス「フォール!」
魔物「キエエエエ!」
???「あり……が……とう……」
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ルシウス「……」
カース「……どうやら気づいたようだな……」
酒場のマスター「……あんちゃん、娘のことは……気に病むな……まずは目の前の敵に集中しろ」
ルシウス「……マスター……」
フェリス「……許さない……子供達の命を弄んで……」
ルシウス「……皆……行くぞ!!」
覚悟を決めた3人はカースめがけて襲いかかる。
カース「……来い」
カースの呼びかけによってレムナントの塊となった子供達が庇うようにして目の前に立つ。
ルシウス、フェリス、マスター「……!? 」
カース「……貴様らには傷つけられまい……ブラッドローズ、仕事だ」
レギーナ「あらあら、呼ばれるなんて珍しいこと♪ 可愛い不幸なネズミさんはどこかしら?」
カース「……このレムナントに傷を付けさせるな……奴らの始末を任せる……」
レギーナ「あら? 手伝ってくれないのね? まあ、いいわ…さあ、あなた達♪ お姉さんとイケナイアソビをしましょう♪」
酒場のマスター「チッ、舐めやがて! くそったれが!」
酒場のマスターはカースにむけてナイフを投げた。
レギーナ「…あは♡」
その瞬間レギーナは血でできた大鎌でナイフを弾くと酒場のマスターへ距離を詰め、恍惚とした表情で襲いかかる。
フェリス「マスター! 危ない!」
酒場のマスター「……グハッ!」
しかしフェリスの思いは儚く打ち砕かれる。レギーナの大鎌はマスターの下腹部から脊髄を貫いていた。
体から大量の血が流れ出てくる。
即死だった。
ルシウス「貴様ァー!」
ルシウスは怒りに震え、相手の急所を定めたがレギーナは全ての攻撃を受け流す。
ルシウス「クソ! クソ! クソ!」
レギーナ「あは♡ あなた面白いわね♪ とても強いと思うわ♪ コーフンしてきたじゃない♡ じゃあ次はお姉さんの番ね♪」
レギーナは素早い一振りでルシウスの脇腹を貫いた。
ルシウス「……グハッ……」
フェリス「ルシウス!」
鎌を引き抜かれたあと膝からその場に倒れこむ。
レギーナ「……はあ♡美味しい……この血、とても濃い魔力の味がするわ♪」
レギーナは意識を失ったルシウスに口付けをし、溢れ出す血を啜り、味わう。
レギーナ「……ん……さあ♪ あとはあなただけね♪」
フェリス「……まずい……怖い……足が動かない……」
レギーナがゆっくりと近づて来る、あまりの恐怖に足がすくむ。
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ミカエル「はかせ~はかせ~おかしたべたーい!」
ルシウス似の男「はいはい! あーん」
ミカエル「あーん……うん♪ おいしい!」
ルシウス似の男「よかったね♪」
ダンテ「これじゃまるでお父さんみたいだな♪」
ルシウス似の男「そうかい?」
ダンテ「ああそうとも!」
ミカエル「ねえねえ! はかせ~おとーさん? ってなーに?」
ルシウス似の男「お父さんっていうのはね……」
ルシウス「ああ……また来てしまった……星に流れる皆の記憶、願いが!俺の体に流れ込んでくる……温かい……でも……今は……まだ……!」
白ローブの男「そうかい……なら、行ってこい……」
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レギーナ「ありがとうね♪ バ~イ♪」
ルシウス「ま……て……」
フェリス「……ルシ……ウス?……」
レギーナ「……あら……まだ生きていたの……」
間一髪、鎌はフェリスの首に掛けられていた、ルシウスの声にレギーナが反応していなければきっと命はなかっただろう。
ルシウス「……認……証……コード……セラフィム……デルタ……」
レギーナ「……安らかな愛しい死を……」
レギーナは標的とルシウスに切り替え、大鎌を振りかざす。
レギーナ「……受け止めた?」
ルシウス「……バーストレグルス!」
ルシウスは振り下ろされた鎌を受け止め、強力なカウンターをレギーナに叩き込む。
レギーナ「あらら……危ないわね♪」
しかしレギーナは渾身の一撃を躱した。
カース「……そこまでだ」
レギーナ「あら?どうゆうことかしら?」
カース「その剣、その力、やはり奴メトシエラの因果、その末端のようだ」
レギーナ「あら? 認めてるの?珍しいわね♪」
カース「貴様は黙ってろ……おい少年、名は何という?」
ルシウス「? ……ルシウスだ……」
カース「ルシウスか……うむ……お前に一つ教えてやろう、お前は本来死んでいる。ミルアルヴで我がレムナントに心臓を貫かれたはずだ。ではなぜ今も生きているか?それはその剣の能力だ。その剣は使用者の魔力と剣自体に内包された魔力を消費し、命を繋ぐ特性がある。しかしそれは諸刃の剣、繋ぐ命も許容範囲は存在する……。今はまだ平気なようだが貴様の天命はもう長くない。恐らく残り数カ月といったところか……」
ルシウス「……どうゆうことだ」
カース「言った通りだ……」
フェリス「ルシウス……」
カース「……ブラッドローズ、目標は達成済みだ、去るぞ……」
レギーナ「あら?もうお終い?…アソビ足りないけれど……楽しかったわ♪ また会いましょ♪ では♪ 」
カースがそういうとレムナントが空間に転移魔法を発動、門をくぐる。
カース「……ルシウスとやら、ブリザルデ平原の最奥、古城ボレアリスにて待つ、真実を知りたくば力を示せ……」
別れ際に振り向いたカースはルシウスに意味深なことを言い残した。
フェリス「待って! 逃げるつもり!?」
フェリスが手を伸ばすも魔法の発動が早く転移門が閉じてしまう。
ルシウス「逃げ……るな……」
フェリス「……うぅ……どうして……どうして……」
ルシウス「……フェリス……無事……か?」
フェリスは少し錯乱していた。
フェリス「……うぅ……ルシウス……どうして……どうしてマスターが……」
ルシウス「……フェリス……見送って……やろう……」
フェリス「……うぅ……」
フェリスは突き詰められた現実を受け止められ切れず言葉を失う、倒れているマスターへ近づき安らかに眠る顔を覗く。
フェリス「……ごめん……取り乱しちゃった…見送ろう……」
2人はマスターを担ぐ、本当に絶命しているのか不思議なくらい背中に温もりを感じる。
ルシウス「……こんなの……許されてたまるか……」
フェリス「……」
フェリスは沈黙していた、まだ踏ん切りがつかないようだ。
しばらくすると神殿のすぐ横でフェリスは足を止めた。
フェリス「……ねえ、ここにしよう? ……マスターはもともと戦士をしていたんだ……戦士は戦い、散った場所で弔うことで星に還ったあとでも誇り高き戦士で居続けられる……マスターはそう言っていたんだ……」
ルシウス「……そうだな、ここに一人の英雄を称え、送ろう……」
2人は砂を掘り出した後、安らかに眠るマスターを埋める。
フェリス「……うぅ…あいつら……絶対許さないんだから……地の果てでも追いかけて、この手で……! 」
2人は星と英雄に祈りを捧げた。目の前で散ってしまった命、大粒の涙を流し、震えた声で弔いの言葉を謳う。
---我が星よ、見ていますか、我らの命、流光の如き輝き行くまで明日へとお導きを……---
嵐の神殿にて。




