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バニッシュ・メール  作者: フィーカス
セカンド・ループ
22/23

嫌った理由

 ふらふらと歩きつづけ、どうやってきたのかも分からない状態で、二人は公園のベンチに座っていた。二人とも俯いたまま、何を話すわけでもなく、ただただ時間だけが過ぎていく。

 もうすぐ昼になろうという時間、先ほどまで晴れていた空は、少しずつ雲がかかり始めた。午後から雨が降るらしい。そのせいか、公園には遊ぶ子供はおろか、散歩する人さえも見当たらない。

「……ところでさ……」

 天を仰ぎながら、佳恵がつぶやく。目の前には、青々と茂った木の葉っぱが見える。

「真里菜ちゃんは、いつから夏鈴(・・)のことが嫌いなの?」

 少し風が吹くと、葉っぱがゆらゆらと揺れ、ざわざわとざわめき合う。

「……六月くらいの時でしょうか、ずっと私が美藍のそばにいたのに、あいつったらなれなれしく近づいてくるんですよ。それから、美藍は冷たくなってしまった気がするんですよぉ」

「美藍ちゃん、大抵誰とでも仲良くなるからね」

「でもでも、夏鈴とはよくべたべたするのに、私とはべたべたしてくれないんですよぉ! 酷いと思いませんかぁ?」

「え……いや、まあ、その……」

 急に大声になる真里菜に、佳恵は少し身を引いた。

「佳恵はどうなんです? やっぱりあの女のこと、最初から憎たらしいと思ってたんですかぁ?」

「そう言うわけじゃないけど……」

 空を見ると、いつの間にか広がった雲が少し黒くなっていた。雨が降るのは時間の問題だろう。

「入学してから、しばらくは仲良かったの。趣味が同じだし、性格も合ってたみたいで。でも、私の大切なゲームを失くされて、それから距離を置くようになって……」

「ふぅん、やっぱり、そういう奴だったんですねぇ」

「いや、多分そんなに悪い子じゃないと思うんだ。でも、あの時すごく腹が立って、ちょうど真里菜ちゃんも夏鈴を憎んでたから、それで……」

 佳恵の声は徐々に小さくなる。それと同時に、セミの鳴き声が大きくなり、最後は聞き取れないほどになった。

「……佳恵、もしかして、後悔しているんですか?」

「ちょっとだけ。夏鈴は許せないと思っているけど、やっぱりこういうのは良くなかったのかなって」

「別にいいんですよ、あんな奴は酷い目に遭ってしまえばいいんです!」

「でも、ちょっとやりすぎじゃないのかな。ほら、やっぱりこういう七不思議みたいなのは、真似するとよくないっていうし……」

「今更何を言ってるんですか? あの女はバニッシュ・メールのお陰でどこかに消えたんですからいいじゃないですか!」

「でも、そのせいで優愛ちゃんや莉緒ちゃん、それに美藍ちゃんまでいなくなってしまったんだよ?」

「美藍はまだいなくなったわけじゃありません!」

 真里菜は公園中に響く声で叫ぶと、怒るようにベンチから立ち上がった。

「そ、それはそうだけど、でも、もしも私たちのせいで行方不明になってたら……」

「佳恵は意気地なしです! もういい、美藍は私一人で探しますから、佳恵はそこで勝手に一人で反省しててください!」

 そう言うと、真里菜は走って公園から出ていった。

「え、ちょっと、真里菜ちゃん、待って! 一人にしないでよ! ねぇ!」

 佳恵は立ち上がって追いかけようとするが、既に真里菜はどこかに行ってしまった。直後、雨がぽつぽつと降り始め、佳恵は立ち尽くしてしまった。


「もう、佳恵は何で今更あんなこと言うんですか! なんだからムカつきます!」

 雨の中、夢中で走りながら真里菜はつぶやく。とりあえず学校を目指すが、当てはない。

 そうこうしているうちに、雨は徐々に強くなる。誰も通らない道をひたすら走り、やがて校門が見えてきた。

「美藍! 美藍どこにいるんですかぁ!?」

 美藍の名前を呼ぶが、当然返事はない。そのうち走るのをやめ、とぼとぼと歩き始めた。

「もう……なんで真里菜がこんな目に遭わないといけないんですかぁ! 全部あの女のせいなんですぅ!」

 真里菜の声は、雨にかき消される。息を切らせながら、真里菜はずっと美藍の名前を呼び続ける。

「キャァァァ!」

 真里菜が途方に暮れていると、遠くから誰かの悲鳴が聞こえた。

「……佳恵? ま、まさか……」

 真里菜の脳裏に例のメールがよぎる。すぐさま、真里菜は来た道を戻った。

 やはり佳恵を一人きりにしたのはまずかった。雨の中、全速力で走る。

「佳恵、どこにいるんですか? 佳恵!」

 通り道にはいない。とりあえず公園に戻ってみる。しかし、ベンチはおろか、公園内にも誰もいない。

「佳恵……どこに行っちゃったんですか?」

 とりあえず商店街に向かってみる。雨に濡れるのも構わず、走り続ける。商店街の前ともなると、傘を差した人がちらほらと見えるが、佳恵の姿は見当たらない。

 ひとまずアーケードに避難し、息を整える。

「はぁ、はぁ……もう、佳恵までどこかに行くなんて……どうしちゃったんですかぁ?」

 通り過ぎる人を注意深く見るが、佳恵の姿は見当たらない。

「これもバニッシュ・メールの仕業だっていうのですか? 私は信じません! 美藍も佳恵も私が探すんです!」

 そう気合を入れ直し、両手で顔をパンパンと叩く。しかしその直後、スマホから通知音が聞こえてきた。「……まさか……そんなわけ、あるはずないですよ……」

 独り言をつぶやきながらも、スマホを取りだそうとする手は震える。ゆっくりと画面を見て操作し、着信メールを開く。


「江戸田真里菜様、48時間以内にお迎えします」


「……」

 しばらくその文字を見つめた真里菜は、その場で倒れ込んでしまった。

 雨が降る中、倒れた少女を、多くの人が見つめていた。

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