真里菜の決意
美藍と真里菜はいなくなった夏鈴たちの捜索、佳恵は同じく捜索しながら再度banishmailのアカウントに入れないか挑戦してみた。しかし、どちらも収穫はなかった。
美藍にバニッシュ・メールが来たことにより、美藍が途中でいなくなる可能性が出てきたため、今日は真里菜が美藍の家に泊まりに行くことになった。
「美藍の家にお泊りなんて、なにやら危ない香りがしますねぇ?」
「大丈夫だ、何かあったらすぐに追い出す手筈は整っている」
「えぇ、追い出すなんて、酷いですぅ!」
「なら大人しくしておくんだな」
部屋のドアを開けると、汚れたキッチンが目に飛び込む。そして、洗濯機からははみ出た服が目立つ。
「……美藍、ちゃんと家事やってる?」
「いやぁ、一人暮らしだとついついさぼっちゃって……どうせ今まで誰も来ることなかったし」
「よーし、こうなったら真里菜ちゃんが人肌脱いでやるですよ! さあ、美藍はそこでくつろいでいるです!」
「え、ちょ、勝手に触るな! うわぁぁ!」
玄関から上がると、真里菜は荷物を置いて台所を片付け始めた。
ものの一時間ほどで、台所と六畳の部屋は片付いてしまった。ベランダには洗濯物が綺麗に干され、足の踏み場が無かった部屋もすっかりくつろげるスペースが確保できた。
「いやぁ、俺の部屋って、こんな広かったんだな」
「美藍は片付けしなさすぎなんですぅ」
コーヒーを淹れながら、真里菜はぶつくさとつぶやく。
「しかし真里菜は家事だけは一級品だよな」
「『だけ』とは酷いですぅ! 真里菜ちゃんはいろいろな才能を持っているんですよぉ!」
「他の才能はともかく、これならいつでもお嫁に行けるな」
真里菜が持ってきたコーヒーをすすりながら美藍がつぶやくと、真里菜の目が光る。
「おお、それはつまり、プロポーズってことですかぁ?」
「なんでそうなるんだよ。女同士でプロポーズしたってしょうがないだろ」
「えー、真里菜は美藍からのプロポーズなら喜んで受けますよぉ?」
「あーもう、くっつくな! 離れろ!」
「二人で元気な子供作りましょうねー!」
「女同士でできるかっ!」
べたべたくっつく真里菜の頭に、美藍はチョップを食らわせた。
「うぐっ……まさか、一点集中攻撃とは……美藍、やりますねぇ」
「真里菜撃退用の技なら考えてあるが、試してみるか? ちょっと骨が砕ける奴もあるが」
「そ、それは遠慮したいですねぇ……」
美藍の右手の握りこぶしをみて、真里菜は怯えながらつぶやいた。
夕食が終わり、ゲームにも飽きて寝る時間となった。布団は美藍の分しか無かったため、真里菜に譲り、美藍は床でタオルケットを羽織って寝ることにした。
「もう、美藍ったらぁ、一緒に布団で寝ましょうよぉ」
「絶対嫌だ、何かされる」
「何もしませんよぉ、ただ美藍のすべすべ肌を確かめるくらいで……」
「朝起きて血まみれの女が横に寝ていたら嫌だからな」
「……それは勘弁ですねぇ」
締め切った部屋の中は、クーラーの音しか聞こえない。静かな空間の中、真里菜の声が響く。
「ねえ美藍、私のそばからいなくなったりしないでくださいね?」
「何を気持ち悪いことを言ってるんだ」
「そうじゃないですよぉ。バニッシュ・メールのことですぅ」
「……ああ、あれか。心配ないよ。どうせ都市伝説だろう? 私はどこにも行ったりしないよ」
「……それを聞いて安心しました。朝起きて、美藍がいなかったら、寂しくて死んじゃいますから」
「それはそれで楽しそうだな」
「うぅ、美藍は相変わらず真里菜に対して厳しすぎるですぅ」
真里菜が「うぅ」とうめくと、美藍はフフッと笑った。
「それにしても、本当に何なんだろうな、バニッシュ・メールって」
「誰なんですかねぇ、私たちが使っていたアカウントを乗っ取った奴って。けしからん奴ですぅ」
「最初に送ってきた奴に言われたくはないと思うぞ」
「そ、それはもう忘れてくださいよぉ……」
真里菜は続けて、「本当に、いたずらのつもりだったんですぅ」とつぶやく。
「そういえば、カリンを最後に見たのって、誰なんだろうな? もしかしたら手がかりになるかもしれない」
「……」
「……マリナ? どうしたんだ?」
「あ、いや、えっと……確か、最初のメールの時に、夏鈴と墓地に探しに行ったんですよぉ。多分、それが夏鈴を最後に見た時じゃないかと……」
「警察には、そのこと言ったのか?」
「いや、まだ……」
「何で言わないのさ?」
「それは……」
美藍も分かって聞いている。いたずらメールのせいだと知られたら、真里菜たちがいろいろ聞かれるからだろう。
「まあいいや。墓地でいなくなったのなら、もしかしたら墓地に行ったら何か分かるかもしれないな。都市伝説でも、墓地のビニールシートがどうとか言ってたしな」
「ビニールシート……確かにありましたけど、あれは腐葉土を作るためにかぶせているものですよぉ?」
「今回はどうだか分からないだろう? 明日とりあえず行ってみよう」
そう言うと、美藍は「おやすみ」と言ってそのまま静かになった。
「……美藍は私が守るんですぅ、真似してる奴らなんかには負けないんですぅ!」
真里菜はぼそっと呟きながら、眠りに就いた。
翌日、佳恵を呼んで墓地の周辺を探すことになった。飲み物を買うと、三人は公園に集まる。
「マリナがカリンを最後に見たのが墓地だと行ってたからな。もしかしたら、そこに何かあるかもしれない」
「墓地……確かに都市伝説では、墓地にあったビニールシートをめくると、死体がたくさんあったっていう話だけど、どうなのかなぁ?」
「確かめるに越したことはないだろう。無ければ無いで別に構わない」
山道を行くため、美藍はジャージにスニーカーという動きやすい恰好をしている。真里菜にも同じ格好をさせようとしたのだが、「ジャージだけはいやですぅ」と断られた。
「とにかく、今は美藍の直感を信じるのですぅ! もし三人を見つけられたら、真里菜達、大手柄ですから!」
「手柄云々の前に友達だろう。さっさと探しに行くぞ」
そう言うと、美藍はさっさと歩き始めた。
「ああんもう、美藍、待ってくださいよぉ!」
真里菜はその後に続く。その様子を見ながら、佳恵は苦笑いでついていった。
「墓地……まさかね」
嫌な予感がしたが、佳恵はお茶を口に含み、その不安ごと飲みこんだ。
昼間の墓地はやはり人気が無い。そうそう人が来る場所でもないのだが、すれ違う人すらもいなかった。
「相変わらず人がいないですねぇ。前もこんな感じでしたよぉ」
「墓地に毎回来る人はそんなにいないと思うぞ」
お盆前で草が伸び放題なのは、真里菜が以前来た時と同じだ。
「えっと……あ、あれが例のビニールシートだね」
佳恵が指差した先には、山のようになっている何かにかぶせられた、青いビニールシートがある。以前は、これが腐葉土だったという。
「まさか、ここに夏鈴ちゃんたちの死体が……?」
「縁起でもないことを言うな。一応確かめてみるぞ」
息を飲みながら、ビニールシートを恐る恐るめくる。途中まで黒い腐葉土が見えており、やはり何もないか、と思った時だった。
「……! これは……」
完全にめくると、何着かの服と靴、それにアクセサリーが腐葉土の上に置かれていた。
「こ、これ夏鈴が着てた服だ……」
「それに、これ、莉緒ちゃんが履いてた靴……」
置かれている服には、見覚えがあるものがいくつかあった。夏鈴や莉緒、それに優愛が身に付けていたものまで見つかった。
「まさか、カリンたちをさらった人間が、身に付けていたものをここに置いたってことか……?」
美藍がいくつか服を手に取ってみていると、後ろからがさっという音がした。
「……! 誰だ!」
振り返ると、そこには誰もいない。しかし、よく辺りを見回すと、学校へ通じる道へ黒い人影が逃げていくのが見えた。
「待て!」
美藍は反射的に体が動き、逃げる人影を追おうとする。
「待ってください! 一人になっちゃだめですぅ!」
「こんな時間に墓地に来る人間なんてほとんどいないし、学校側から来たってことは、私たちの後をつけてきたんだ。絶対怪しい。二人はここで待ってろ!」
「だめですよ、一人にならないでくださいよぉ、美藍! 美藍ったらぁ!」
真里菜の制止を聞かず、美藍は影を追っていく。真里菜も佳恵も、必死にそのあとを追いかけた。
しかし、運動部の美藍のスピードに、二人が追いつけるはずがない。学校まで追いかけた頃には、美藍を見失ってしまった。
「はぁ、はぁ……美藍、どこにいっちゃったんですかぁ?」
「ま、まさか、さっきの人に、連れていかれたりは、し、しないよね……?」
「そ、そんなすぐに捕まるわけないですぅ、美藍は強いんですからぁ……」
息を切らせながら、少しでも手がかりはないかと学校周辺を見て回る。しかし、どこにも美藍の姿はなかった。
「そんな……美藍まで行方不明になるなんて、一体どうなってるんですかぁ?」
「も、もしあの人がバニッシュ・メールの送り主だったら、かなりヤバいんじゃ……」
佳恵がそう言いかけた時、佳恵のポケットからメールの着信音が聞こえた。
「……ま、まさか……」
恐る恐るスマホを取りだし、メールを確認する。
「そんな……いやぁぁぁぁ!」
スマホを落とし、佳恵はその場で崩れ落ちる。
「佳恵……そんな……何でですか! 何でまだメールが来るんですか!」
佳恵のスマホの画面には、「伊勢原佳恵様、48時間以内にお迎えに上がります」という文字が映し出されていた。




