第49話:最終決戦:神界を畳んで、実家に帰りたい
「……もういい。もう、全部おしまいだ」
更地になった屋台の跡地で、ツヨシは冷徹な眼差しで空を仰いでいた。
足元では、神々が「ツヨシ様が踏んだ土」をスプーンで掬って宝物庫に運び込んでいるが、そんな光景すら今の彼にはどうでもよかった。
屋台を爆破してもダメなら、この「神界」という営業所そのものを閉鎖するしかない。
幸い(?)、神々はツヨシの行動をすべて「至高の儀式」と勘違いしている。ならば、その勘違いを最大限に利用して、「神界の全電源オフ」を誘導してやる。
「皆の衆、聞けえええい!!」
ツヨシが声を張り上げると、ゴミ拾い(聖遺物回収)に勤しんでいた数万の神々がピタリと動きを止めた。
「ツヨシ様が……喋った!?」
「次のメニューの告知か!? それとも新しい爆破の予約か!?」
「違う! 本日のスペシャルメニューは……『神界の総決算:大掃除(閉店作業)』だ!!」
ツヨシは適当な木の棒(神々には『真理の杖』に見えている)を天にかざした。
「いいか、今の神界は汚れすぎている! 魔力が飽和し、信仰心が凝り固まっている! このままでは、俺の究極の料理は完成しない! 一旦、この世界の『根源のスイッチ』を切り、真っさらに戻す必要があるんだ!!」
「な、なんだってー!?」
「神界のシャットダウン!? そんなこと、創世神様でもやらなかった過激な調理法……!」
「さすがツヨシ様! スケールが違いすぎる!!」
神々は動揺するどころか、またしても「新しい感動」に震え始めた。
ツヨシは内心で(よし、乗ってきた!)とガッツポーズ。
「さあ、まずはあそこにある『神界の核』だ! あれを『電源オフ』の方向に回せ! あれはバルブだ! 煮込み鍋の火加減を調節するのと同じだ!」
神界の核――。それは本来、世界の安定を司るデリケートな超古代文明の遺物。
普段なら誰も触れようとしない禁忌の領域だが、神々は「ツヨシ様のレシピなら仕方ない」と、総出で核に飛びついた。
「重い! だが、これが究極の出汁を取るための作業だと思えば……!」
「回せ! 逆時計回りに! ツヨシ様が『実家に帰りたい(=源流への回帰)』と仰っているんだ! それこそが真の救済だ!!」
ギギギ……と、世界が軋む音が鳴り響く。
空の色が紫から灰色に変わり、神々の背後にある後光(光輪)がチカチカと点滅し始めた。
「よし、いいぞ! 次はそこにある『因果律のブレーカー』を落とせ! それはただの『お会計』だ!」
「おおお! チェック! 聖なるチェックですね!!」
バハムートが全力のブレスでブレーカーを焼き切る。
パチン、パチンと、神界の照明(星々)が一つずつ消えていく。
ツヨシの心はかつてないほど晴れやかだった。
(これだ……。これさえ終われば、俺はあのアパートの、狭くて静かな、神のいない部屋に帰れるんだ。コンビニ弁当を食べて、誰にも感謝されずに寝るんだ……!)
「ツヨシ様! 神界のエネルギー残量、あと5%です! ログインボーナスも停止しました!」
トールが報告に来る。顔はボロボロだが、やり遂げた男の顔をしている。
「よくやった。最後の1%……それは俺が引導を渡してやる」
ツヨシは、自分のポケットに残っていた「実家の鍵」を握りしめた。
この鍵を、消えかかった『神界の核』に突き立てれば、回路がショートして完全に強制終了(閉店)するはずだ。
「……あばよ、勘違い野郎ども! 俺は、俺の日常に帰らせてもらう!!」
ツヨシが鍵を突き立てた瞬間、神界はかつてないほど真っ白な光に包まれた。
視界が消える。音が消える。神々の「ありがとうございましたー!」という場違いな叫び声だけが、遠くで響いていた。
(……勝った。俺は、閉店に成功したんだ……)
意識が遠のく中、ツヨシは確信していた。
次に目を開けたとき、そこにあるのは「お帰りなさいませ、お客様」という声ではなく、目覚まし時計の不快なベルの音だと。




