第43話:神々のウーバー
1.時空を超えて、冷めないうちに届けろ!
「……おい、アニス。これ、鳴り止まねえんだけど」
ツヨシの手元で、かつて刺客が落としていった『全知全能の通信鏡(通称:神スマホ)』が、けたたましい通知音を鳴らし続けていた。
画面には、およそ人間が目にしてはいけない御尊顔のアイコンと共に、耳を疑うようなメッセージが並ぶ。
【破壊神シヴァ】:『さっきの「激辛冥界担々麺」、マシマシで頼む。あと、箸忘れるなよ』
【美の女神アフロディーテ】:『「天界イチゴの特製パンケーキ」、生クリーム多めで。あ、カロリーはゼロにしておいてちょうだい』
【最高神ゼウス】:『おい、いつまで待たせる! 「エレクトロ・ホルモン焼き」だ! 雷鳴が轟く前に届けろ!』
「ツヨシ様、これは『神界出前アプリ:ゴッド・イーツ』が勝手にインストールされたようですわ。拒否すれば、たぶん世界が滅びます」
「……結局、働けってことかよ」
ツヨシは溜息をつき、エプロンを締め直した。相手が神だろうが、客は客だ。
2.神速の配達マシン:バハムート
「師匠! 俺、キャリアボックス付けてきました! 垂直離着陸(VTOL)も可能です!」
庭では、かつての破壊の象徴・暗黒竜バハムートが、背中に『ツヨシ・デリバリー』と書かれた巨大な保温ボックスを背負い、気合十分に鼻息を荒くしていた。
その姿は、時速マッハ3で飛ぶ最強の原付バイクだった。
「よし、バハ。まずは天界の第五層だ。ゼウスのじいさんにホルモン届けるぞ。冷めたら雷落とされるからな、飛ばせ!」
「御意!!」
バハムートが咆哮と共に大地を蹴り、時空の壁を突き破る。G(重力)でツヨシの顔が歪むが、彼は片手でホルモン焼きの汁がこぼれないよう、神業のバランス感覚で容器を水平に保っていた。
3.天界でのトラブル:駐車違反
天界の神殿に到着するなり、黄金の鎧を着た天使たちが槍を構えて飛んできた。
「止まれ! ここは神聖なる――」
「あー、出前です。ゼウスさんのホルモン。これ、置き配でいいっすか?」
ツヨシが領収書(魔導書)を差し出すと、天使たちは呆然として道を譲った。神殿の奥から、ヨレヨレの寝巻き姿のゼウスがサンダル履きで現れる。
「遅いぞツヨシ! ビールがぬるくなったではないか!」
「うるせえな、時空の歪みで渋滞してたんだよ。ほら、サービスで『冥界ニンニク』多めに入れといたから」
「……おお、わかっておるな。お主、やはり神の座に就かぬか?」
「結構です。次はシヴァのところに行かなきゃなんねえんで」
4.次元を超えたクレーム処理
次に向かったのは、常に爆発音が絶えない破壊神の領域。
「シヴァさん、担々麺っす」
「……ふむ。ツヨシよ、前回の麺は少し伸びていたぞ」
「それはアンタが破壊の儀式中に注文するからだろ。今回は麺とスープを別々にしてきた。自分で合わせろ」
「……合理的だな。破壊神の私に意見するとは、お前こそ真の破壊者……いや、最高の料理人だ」
シヴァは満足げに、三つ目の目で麺の硬さをチェックしながら、チップとして「世界を再構築する権利」のクーポンを置いていった。
5.そして、日常へ
数時間後、バハムートと共に地上に戻ったツヨシを待っていたのは、スマホの「レビュー」画面だった。
評価:☆☆☆☆☆
コメント:『配達員がドラゴンなのが少し怖かったが、味は最高。時空を超えても麺が伸びていない。また頼む(ゼウス)』
「……アニス、なんかまた変なチップもらったぞ。『太陽の運行管理権』だってよ。これどこで換金できるんだ?」
「それは、明日の朝を来させるか来させないかを決められる権利ですね。とりあえず、屋台の照明代わりに使いましょうか」
こうして、ツヨシの屋台は地上の王から天界の神々までを顧客に持つ、宇宙規模の「デリバリー・ハブ」へと進化を遂げてしまった。
「明日はお休みだって言っただろ!……あ、もしもし? え、次は『宇宙の果てのビッグバン・カレー』? ……材料持ってそっち行くから待ってろ!」
ツヨシの「異世界スローライフ」への道は、さらに遠のくばかりであった。




