第42話:指名手配犯、屋台を出す
1.異世界屋台・ツヨシ
「……捨てられねえんだよ、これだけの食材」
ツヨシは山積みになった「冥界ウニ」と「魔界トリュフ」、そして「天界の超高級シャトーブリアン」を前に頭を抱えていた。
刺客たちが命乞いに置いていった「貢ぎ物」は、もはや一世帯の冷蔵庫で収まるレベルを超え、家の庭を埋め尽くす巨大なバイキング会場と化していた。
「ツヨシ様、腐らせては神罰(という名の食い物の恨み)が下ります。いっそ、捌いて配りましょう」
「アニスの言う通りだ師匠! 俺、看板作ってきます!」
バハムートがどこからか持ってきた廃材で「指名手配犯の店(※味は保証)」という物騒な看板を掲げ、ツヨシの『異世界屋台・ツヨシ』が突如として開店した。
2.開店一時間後:敵国の王は「マヨ多め」を請う
その噂は、瞬く間に大陸中を駆け巡った。
「あのツヨシが、神々を震撼させた食材を振る舞っている」と。
「……おい、アニス。あそこに並んでる、金ピカの鎧にマント羽織ったオッサン。どっかで見たことないか?」
ツヨシがフライパンを振りながら、行列の三番目にいる男を指差した。
「あら。あれは隣国・グランベル帝国の皇帝、ゼノス三世ですね。つい先日、ツヨシ様を『大陸の癌』として討伐令を出した張本人ですわ」
皇帝ゼノスは、ボロボロのフードを被って変装したつもりでいたが、隠しきれない王者のオーラと、腰に付けた「皇帝専用・黄金の財布」が完全に浮いていた。
「……次の方、どうぞ」
ツヨシがぶっきらぼうに言うと、皇帝ゼノスはビクゥッ!と肩を震わせ、おずおずとカウンターへ歩み寄った。
「……あ、あの。その……『魔界トリュフのふわとろオムそば』を一つ。……マヨネーズ、多めで頼む」
「皇帝陛下が、マヨラーかよ」
「し、静かにせい! 余は視察に来たのだ! 貴殿が毒を盛っていないか、この舌で確かめに……ひいいっ! 睨まないでくれ! 命だけは!」
ツヨシが包丁を握り直しただけで、皇帝は白目を剥いて卒倒しかけた。しかし、差し出されたオムそばの香りを嗅いだ瞬間、彼の鼻腔は魔界の香りに支配された。
3.禁断の実食:皇帝の陥落
ゼノス皇帝は震える手で割り箸(バハムート製)を割り、一口食べた。
「……っ!! な、なんだこれは……! 魔界の業火で炒められた麺が、天界の地鶏の卵と絡み合い、口の中でビッグバンを起こしておる! このマヨネーズ……酸味とコクのバランスが……余の帝国をすべて捧げても惜しくないレベルだ……!」
「おじさん、おかわりいる?」
「……大盛りで頼む。あと、持ち帰りでパックに詰めてくれ。王妃にも食べさせたい」
討伐令を出したはずの皇帝が、屋台の隅でハフハフとオムそばを頬張る姿は、もはやただの「常連客のオッサン」だった。
4.カオスな客層
皇帝だけではない。行列の後ろには、さらに異様な面々が並んでいた。
聖教会の教皇: 「この『冥界ウニのクリームパスタ』は、神の赦しを得られる味ですな……」と言いながら、聖水をチェイサーに完食。
暗殺ギルドの長: 「毒味は済んだ。……ツヨシ殿、この『竜宮のイカ焼き』、秘伝のタレを売ってくれないか?」
前回の刺客(騎士): 「また来てしまった……。今度は『冥界のワサビ』を持ってきたから、まかないを食べさせてくれ!」
「……なあ、アニス。俺、いつの間にか『世界の中心』になってないか?」
「ええ、ツヨシ様。胃袋を掴むことは、領土を奪うことより効果的だという証明ですわ」
結局、その日の夜までに集まった「代金(という名の新たな珍味)」は、売った分よりも多くなり、ツヨシの家の食材在庫はさらに増えるという無限ループに陥った。
5.翌朝のニュース
翌日の広報紙には、驚くべき布告が載っていた。
『グランベル帝国より通達:ツヨシ氏に対する討伐令を撤回。今後は「大陸特別重要調理師」として保護し、帝国は全力で彼に新鮮な野菜を供給する』
「……これ、もう指名手配犯でもなんでもねえな」
ツヨシは、帝国から贈られてきた「最高級キャベツ」の山を前に、今日出すメニューを考え始めるのであった。




