第40話:神界遠足
1. 宝物庫は巨大なパントリー
「……いいか、お前ら。これは『侵攻』じゃない。あくまで『おすそ分け』を貰いに行くだけだ」
ツヨシは玄関先で、遠足の引率の先生のような顔をして言い放った。
背後には、リュックサックを背負い、水筒を首から下げた「神々」という名の食いしん坊たちが整列している。
「師匠! 準備万端です! 神界の宝物庫にある『黄金の米』は、一粒で牛丼一杯分の栄養があるとか!」
「軍神よ、甘いな。狙うべきは『不老不死の桃』だ。あれをコンポートにすれば、向こう三百年はデザートに困らぬ」
バハムート(龍)は、すでに口の端からよだれを垂らし、仙人は「戦利品」を入れるための特大の麻袋を三枚も用意していた。
「ツヨシ様、お弁当の準備は……あ、現地調達でしたわね」
アニスが日傘を差し、ピクニックにでも行くような軽やかな足取りで横に立つ。
こうして、史上最も不純な動機による「神界殴り込み」が幕を開けた。
2.最強の警備員 VS 腹ペコの師弟
神界の入り口には、純白の鎧に身を包んだ「門番の天使」たちが立ち塞がっていた。
「止まれ! ここは不浄な人間が足を踏み入れる場所では――」
「あー、ごめん。そこどいて。うちの弟子が空腹で理性を失いかけてるんだ」
ツヨシが面倒くさそうに手を振ると、背後の軍神が「シャアアア!」と野獣のような声を上げた。
「肉……! 宝物庫に眠る、伝説の聖獣の干し肉を……俺に食わせろぉ!!」
軍神の筋肉が膨張し、門番たちが放つ聖なる矢をすべて大胸筋で弾き返す。
バハムートはバハムートで、「邪魔だぁー! 腹が減って火が吐けないんだよ!」と、逆に門番に噛み付かんばかりの勢いで突進していく。
「ヒッ……!? こ、こいつら神の威厳がゼロだ!」
門番たちが腰を抜かしている隙に、ツヨシは「お邪魔しますよ」と、実家の敷居をまたぐような気軽さで神界へ足を踏み入れた。
3.高級食材の宝庫
神界の庭園には、地上では一国が買えるほどの価値がある「神樹の果実」がたわわに実っていた。
「あ、ツヨシ様。あそこの池で泳いでいるのは、食べた者に知恵を授けるという『叡智の銀魚』ですわ。ムニエルにしたら美味しそうですわね」
「よし、アニス。バケツを持ってこい。全部掬うぞ」
ツヨシの指示一閃。
弟子たちは宝物庫に着く前から、庭の木々をなぎ倒し、高級果実を次々とリュックに詰め込んでいく。
「こら、仙人! それは食べられない『魔力の結晶』だろ!」
「いやいや師匠、これを砕いて塩と混ぜれば、最高の隠し味になるんですわい!」
もはや誰も彼らを止められない。神界は今、空腹の軍団による「詰め放題セール会場」と化していた。
4.主神との対決(?)
ついに一行は、神界の中枢、巨大な黄金の扉の前に到着した。
そこへ、慌てふためいた様子で神界の最高責任者――主神ゼウスが現れる。
「待て待て待て! お前たち、何をしにきた! 我が至宝を奪いにきたというのか!?」
ツヨシは一歩前に出ると、財布(残金12円)をゼウスの鼻先に突きつけた。
「いいか、よく聞け。こっちは家計がピンチなんだ。お前らがこの『弟子』たちを押し付けたせいで、うちの米びつは空っぽなんだよ。責任を取って、宝物庫の食料を全部出せ」
「えぇ……。理由が世俗的すぎるだろ……」
ゼウスが困惑していると、背後から軍神とバハムートが、飢えた狼のような目でゼウスを囲んだ。
「……あ、あの。主神様。そのマント、ちょっと美味しそうな色をしていますね」
「龍の嗅覚によれば、お主の懐にある『神の雷』、燻製にしたら良い歯ごたえがしそうだ……」
「わ、わかった! 降参だ! 宝物庫の鍵を開けるから、私を食べようとするな!」
5.戦利品とツヨシの苦悩
数時間後。
ツヨシの家の食卓には、あり得ないほどの豪華な食材が並んでいた。
「見てくださいツヨシ様! この『黄金の米』、炊き上がりが発光していますわ!」
「師匠、この『聖獣のハム』、噛めば噛むほど力がみなぎります!」
弟子たちは幸せそうにもぐもぐと神界の至宝を貪っている。
ツヨシも、最高級の「神の酒」を一口啜り、ふぅと息をついた。
「……まあ、これで当分は食費の心配はないか」
しかし、ふと庭を見ると、そこには「神界の指名手配書」が風に吹かれて飛んできていた。
そこにはデカデカと、ツヨシの顔写真と共にこう書かれていた。
『神界公認・最凶の食い倒れ強盗団:首領ツヨシ』
「……アニス。明日から、また変な刺客が来そうなんだけど」
「大丈夫ですわ、ツヨシ様。次に来る刺客が『美味しそうな種族』であることを祈りましょう」
ツヨシの家計簿との戦いは、ついに次元を超えたサバイバルへと突入したのだった。




