第38話:伝説の弟子入りラッシュ
1. 龍と神の土下座祭り
林間学校が終わり、里に静寂が戻るかと思われたのも束の間。
ツヨシの家の前には、かつてない「異常事態」が発生していた。
空を覆うほどの巨大な黒雲、そして大地を揺らす咆哮。
普通の人間なら失神して泡を吹くようなプレッシャーが里を包み込んでいる。
「……アニス、今日は回覧板を回す日なんだが、門の外がえらいことになってるぞ」
「あら、ツヨシ様。どうやら林間学校の卒業生たちが、余計な宣伝をして回ったようですわね」
ツヨシが渋々玄関を開けると、そこには「伝説」のバーゲンセールが繰り広げられていた。
2.伝説の龍、墜落す
「我こそは万物の終わりを司る終焉龍、バハムート! あのガブリエルを音速で叩き落とした御仁に、教えを請いに来た!」
全長百メートルはあろうかという巨龍が、上空から急降下してくる。その風圧だけで民家の屋根が飛びそうだ。
「危ないだろうが! 近所迷惑だ!」
ツヨシは手に持っていた「丸めた新聞紙」を無造作に振り上げた。
「忍法・ハエ叩き!」
パンッ!!
空気が爆ぜるような乾いた音が響き、次の瞬間、最強の龍は地面にクレーターを作りながら垂直落下した。
「ぎゃふんっ!?」という、伝説の生物にあるまじき情けない悲鳴が里にこだまする。
「……バカか。着陸する時はフラップ(翼)をしっかり立てろと言ったはずだ。やり直し!」
「は、ハイッ! 師匠!!」
鼻血を出しながら、龍が直立不動(?)で尻尾を振った。
3.神々の行列と交通整理
龍の次は、黄金の馬車に乗った「軍神」や、雷を纏った「東方の仙人」たちが列をなしていた。
「ツヨシ殿! 我が剣筋に迷いがあるのです! ぜひともご指導を!」
「私は雷を操る際の電圧調整ができず、スマホが壊れて困っておるのじゃ!」
彼らは世界を救ったり滅ぼしたりできる超常の存在だが、ツヨシの前では「成績の悪い生徒」同然だった。
「並べ! 順番だ! 仙人、お前は雷で炊飯器を壊したのか? 電流の基礎がなっていない、オームの法則を千回書いてこい!」
「軍神! 剣を振る時に脇が甘い! 雑巾がけのポーズで廊下を往復してこい!」
アニスは呆れ顔で、彼らに番号札を配り始めた。
「はい、神様方はあちらの畑で畝を作ってお待ちください。龍の方は、あちらの川で洗濯物の脱水を担当してくださいね。回転速度は音速を超えないように」
4.隠れ潜む刺客(自称・弟子志願)
そんな中、騒ぎに乗じてツヨシの背後を狙う影があった。
「……フフフ、弟子入りなどという甘っちょろいことは言わん。貴様を倒し、その『最強』の座を奪ってくれるわ!」
暗殺の神、モルス。
彼は一切の気配を消し、絶対不可避の毒針をツヨシの首筋に突き出そうとした。
だが、ツヨシは背中を向けたまま、持っていたお茶の「茶柱」を指先で弾いた。
「教育的指導・デコピン」
シュッ!
放たれた茶柱は音速を超え、モルスの額にクリーンヒット。
「ぶぺらっ!?」
暗殺神は三回転半して生垣に突っ込んだ。
「気配を消すのはいいが、殺気が漏れすぎだ。お前はあっちの暗い部屋で、一晩中『あずき』の選別でもして頭を冷やしてこい」
「……くっ、茶柱一本で私の神域を破るとは……! お供します、師匠!」
もはや誰も逆らえない。
5.里のハイテク農村化
数時間後。
ツヨシの家の周りには、不思議な光景が広がっていた。
巨大な龍が空からジョウロで水を撒き(精密な降雨コントロール)、
軍神たちが神速の剣筋でキャベツを千切りにし、
仙人が雷の魔法で村中の街灯を省エネLED化していく。
「……ツヨシ様、なんだか里が急速に発展していきますわね」
「まあ、こいつらが真面目に働くなら悪くないか。だがアニス、夕飯の支度はどうする?」
「ご安心ください。あちらの『炎の魔神』が、ちょうどいい火力で土鍋を熱してくれておりますわ」
里の平和(?)は守られたが、ツヨシの「教え子」たちは神話の壁を超え、どんどん増殖していくのだった。




