第37話:最終試練!対教師・包囲殲滅戦
1. 鈴を奪え、さもなくば留年
「地獄の林間学校」もついに最終日。
裏山の開墾、里の全周草むしり、そして「深夜の無音行軍(トイレ掃除含む)」を乗り越えた天使と悪魔たちの顔つきは、数日前とは見違えるほど精悍になっていた。
泥に汚れ、ジャージの膝が破れても、その瞳には「早く帰りたい」という切実な、しかし強い光が宿っている。
そんな数万の軍勢を前に、ツヨシは広場の真ん中で、腰に二つの「鈴」をぶら下げて立っていた。
「最終実習の内容を発表する。ルールは単純だ。今から日没までに、俺の腰にあるこの鈴を一つでも奪えば合格。即刻、本国への帰還を許可する!」
ザワッ……と軍勢が揺れる。
「ただし! 奪えなかった場合は……来週から始まる『地獄の夏季集中・泥沼田植え合宿』に強制参加だ。参加費用は貴様らの主君に請求する!」
「「「「絶対に阻止する(帰る)ぞおおおおおッ!!!」」」」
かつてないほど、天界と魔界の意志が一つになった。
2.第一波・弾幕と奇襲
「第一班、展開! ガブリエル、合図を!」
ゼノンの叫びに、ガブリエルが空高く舞い上がる。
「聖なる光よ、視界を焼き尽くせ! 『ソーラー・フレア』!!」
超高火力の閃光がツヨシを包む。同時に、地面からはゼノン率いる魔族部隊が、影に潜んでツヨシの足元を狙う。
「いい連携だ。だが、甘い!」
ツヨシは目をつぶったまま、気配だけで影の動きを察知。
「忍法・畳返し(物理)!」
ツヨシが地面を強く踏み抜くと、衝撃波で地面が波打ち、潜んでいた魔族たちがポーンと空中に放り出された。
「ぐわあああ!? 物理法則が仕事をしていない!」
「次、第二班! 氷結魔法で足を止めろ!」
3.最強の教育的指導
次々と繰り出される神罰級の魔法や、国を滅ぼすレベルの魔技。
しかし、ツヨシはそれを「竹刀一本」で叩き落としていく。
「こら! 魔法の構築が雑だ! 算数からやり直せ!」
飛んできた火炎弾を竹刀でバッティングセンターのごとく打ち返し、魔導師の額にクリーンヒットさせる。
「羽の使い方がなっとらん! 乱気流を計算に入れろと言っただろう!」
急降下してきた天使の首根っこを掴み、そのままジャイアントスイングで後続の部隊に投げつける。
アニスは特設の「観戦席」で、ポップコーンを食べながらその光景を眺めていた。
「あらあら、ツヨシ様。あんなに派手に投げ飛ばしては、天界の威厳がボロボロですわ」
4.種族を超えた合体技
日没が迫る。
ボロボロになったガブリエルとゼノンは、ついに奥の手を出す決意をした。
「……ゼノン。汚らわしいですが、背に腹は代えられません。私を……『投擲』しなさい」 「ふん、天使を弾丸にするとは贅沢な話だ。だが、あの先生に一太刀報いるなら悪くない」
ゼノンが魔力を極限まで溜め、ガブリエルを抱える。
「魔奥義・天使砲!!」
魔力の爆発的な推進力を得て、ガブリエルが光り輝く弾丸となってツヨシへ突っ込む。
その速度は音速を超え、衝撃波が周囲の木々をなぎ倒す。
「おお、これはなかなかの……」
ツヨシが初めて、竹刀を両手で構えた。
「――忍法・真剣白刃取り!」
パァンッ!!
ツヨシの手の中で、音速のガブリエルがピタリと止まった。
しかし、ガブリエルの顔はニヤリと笑っている。
「……かかりましたね。私の狙いは鈴ではありません」
ガブリエルが指差した先には、彼女の影から飛び出したゼノンがいた。
「本命はこっちだぁぁぁッ!!」
ゼノンの爪が、ツヨシの腰の鈴にかすめる。
「取ったァ!!」
チリン、と小さな音が響いた。
5.帰還と恐怖の余韻
夕焼けが里を赤く染める。
ゼノンの手には、もぎ取られた鈴が握られていた。
「……合格だ。貴様ら、よくやった」
ツヨシが満足げに頷く。
「「「「やったぁぁぁぁぁぁッ!!!」」」」
万歳三唱する天使と悪魔。その姿に、もはやかつての敵対心はない。あるのは「過酷な試練を共に乗り越えた戦友」としての絆……というよりは、共通の恐怖に対する安堵だった。
「では、約束通り帰還を許可する。……ああ、そうだ。ガブリエル、ゼノン」
ツヨシが呼び止める。
「な、なんですか、先生……?」
「この一週間で、貴様らの基礎体力は飛躍的に向上した。忘れるなよ。次に会う時、なまっていたら……また一から叩き直してやる」
二人は反射的に直立不動で敬礼した。
「「ハイ! ありがとうございましたっ!!」」
こうして、数万の軍勢は嵐のように去っていった。
里には静寂が戻り、ただ「綺麗に耕された広大な農地」と「ピカピカに磨かれた公共施設」だけが残った。
「ツヨシ様、結局彼ら、何をしに来たんでしたっけ?」
「さあな。だが、いい運動になったんじゃないか?」
ツヨシはアニスが淹れたお茶を飲みながら、黄金色に輝く夕日を眺めるのだった。




