第36話:地獄の林間学校、開校!
1. クワと聖剣と連帯責任
里の入り口を埋め尽くしていた数万の天使と悪魔。本来なら終末戦争が始まっていてもおかしくない状況だが、現在の彼らは一列に整列し、ガタガタと震えていた。
その原因は、彼らの目の前で竹刀を肩に担ぎ、ジャージ姿(里の忍び装束を改造したもの)で立つ男――ツヨシである。
「いいか、貴様ら。主君のそばにいたいという殊勝な心掛けは認める。だが、ただ突っ立っているだけなのは『不審者』と同じだ。里の景観も損ねている!」
ツヨシの声が響き渡る。
「今日から一週間、ここは『忍びの里付属・異世界合同林間学校』となる。班分けを発表する! 第一班、大天使ガブリエルと上級魔族ゼノン! 貴様らは裏山の開墾だ!」
「なっ……私と、この薄汚い魔族がペアだと!? 侮辱にもほどが――」
ガブリエルの叫びは、ツヨシが軽く竹刀で空気を薙いだだけで霧散した。
「私語厳禁と言ったはずだ。一回につき腕立て伏せ千回追加だぞ?」
「……ハイ、先生」
2.地獄の開墾作業
裏山では、世にも奇妙な光景が繰り広げられていた。
輝く翼を持つ天使たちが、泥にまみれてクワを振るい、禍々しい角を持つ悪魔たちが、その隣で肥料を撒いている。
「おい、羽が邪魔だ! 泥が跳ねるだろうが!」
ゼノンが毒づく。
「黙りなさい、下等生物。この聖なる翼に触れただけで、あなたは浄化されるのですよ?」
二人が一触即発の空気になった瞬間、どこからともなくツヨシが「シュバッ」と現れた。
「こら! 手が止まっているぞ! ほら、そこに巨大な岩があるだろう。あれをどかさない限り、今日のメシ(塩おにぎり)はお預けだ!」
ツヨシが指差したのは、高さ5メートルはある巨大な岩塊。
「そんなもの、魔法一発で……」
ゼノンが魔法陣を展開しようとしたが、ツヨシの竹刀がその手を叩いた。
「バカ者が。魔法など使ったら土の栄養が死ぬだろうが! 忍びの基本は足腰だ。二人で協力して、物理的に動かせ!」
3.岩石との死闘
ガブリエルとゼノンは、渋々岩に取り付いた。
「……せ、せーのっ!」
「ぬ、ぬううううっ!」
天使の怪力と悪魔の剛力が合わさり、岩がわずかに浮く。しかし、バランスが悪い。
「ガブリエル、左だ! 左を支えろ!」
「言われなくてもわかっています! くっ、この岩、呪われているのでは!?」
実はこの岩、アニスが「実習を面白くするため」に、こっそり重力魔法で十倍の重さに設定していた。
「アニス、やりすぎじゃないか?」
見守っていたアニスが、ニヤリと笑う。
「いいえツヨシ様、これくらいやらないと、彼らの高いプライドはへし折れませんわ」
岩が転がり始めた。しかし、その先には実習中の下級悪魔たちが!
「あぶない! どけっ!!」
ガブリエルが反射的に飛び出し、光の盾を展開して岩を受け止める。その隙に、ゼノンが背後から魔力のブーストをかけ、岩を安全な方向へと押し出した。
「ふう……。助かったぞ、天使」 「……勘違いしないでください。実習を失敗して、あの先生に叱られるのが嫌だっただけです」
4.連帯責任の恐怖
夕方。クタクタになった数万の軍勢が広場に集まる。
ツヨシが壇上に立ち、厳しい目で全体を見渡した。
「今日の成果は……概ね良好だ。だが、一箇所だけ問題があった。第四班の悪魔が、支給したスコップを一本紛失したな?」
会場に緊張が走る。
「え、あ、それは……」
「連帯責任だ。今から全員で、里の周囲の草むしり一時間! 終わるまでメシは抜き!」
「「「「エエエエエエーーーーーッ!?」」」」
天界と魔界の声が一つになった。
しかし、誰も逆らわない。
なぜなら、先ほどツヨシが「反抗した天使の隊長」を、一本背負いで地面に埋めるのを全員が目撃していたからだ。
「よし、かかれ! 忍びは夜が本番だぞ!」
月明かりの下、数万の天使と悪魔が、涙を流しながら草をむしる。
その様子を里の縁側で眺めながら、ツヨシは茶を啜った。
「ふむ、いい教育実習だな。これで少しは、平和の尊さがわかればいいんだが」
「ツヨシ様、彼ら、平和よりも先に『忍びの規律』に染まりつつありますわよ?」
アニスの指摘通り、天使たちはいつの間にか「翼を畳んで消音歩行」を習得し、魔族たちは「気配を消して土に潜る」のが上手くなっていた。
異世界最強の軍勢が、ツヨシの手によって「異世界最強の作業集団(忍者)」へと作り替えられようとしていた。




