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異世界転生しちゃったので忍者になってみた  作者: 羽越世雌
第2章:どんどん「忍術」の定義が歪んでいく
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第35話:究極の家庭訪問(※全面戦争一歩手前)

1. 雲霞の如き軍勢


その日の朝、忍びの里の空は二色に割れた。

東からは七色の光輪を背負った「天界第一騎士団」が、西からは溶岩の如き魔気を放つ「魔王軍十二将」が、それぞれ数万の軍勢を率いて飛来したのだ。


「我が主、創造神ゼウス様を返せ! 不浄なる忍者め、神を拉致するなど万死に値するぞ!」

「魔王ルシフェル様を誑かした卑劣な人間よ! その首、我が魔剣の錆にしてくれる!」


空が割れんばかりの怒号が響き渡る。里の住民たちは「あ、なんか今日の花火は豪華だな」と暢気に空を見上げているが、事態は一触即発。世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。


2. 縁側の平和主義者たち


当の神と魔王は、ツヨシの家の縁側で、ツヨシが漬けた「カブの千枚漬け」を囲んで熱い議論を交わしていた。


「いや、ゼウス殿。このカブの薄さこそが、宇宙の真理だとは思わんか?」

「同感だ、ルシフェルよ。この歯ごたえ……。天界の『黄金のリンゴ』よりも、よほど魂に響く」


そこに、ツヨシが洗濯物カゴを抱えて現れた。

「おい、あんたたちの部下だろう、あれ。うるさくて洗濯物が干せないんだけど。ちょっと外に出て『帰れ』って言ってきてくれない?」


「嫌だ。今、いいところなんだ」と神。

「俺も、今立ち上がるとこのカブの余韻が台無しになる」と魔王。


ツヨシの額に青筋が浮かんだ。「……そうですか。じゃあ、教育者として、僕が『しつけ』をしてきますよ」


3. 忍術(物理)の乱舞


ツヨシは洗濯カゴを置くと、スッと姿を消した。

次の瞬間、空で叫んでいた天使の隊長の背後に、音もなく現れる。


「……授業中に騒ぐなと言っただろうが」


「なっ、貴様いつの間に――ぎゃあああ!?」

ツヨシの指先が、天使の翼の付け根にある「笑いのツボ」を正確に突いた。

「秘伝・笑止点しょうしてん!」

隊長は空中で爆笑しながら螺旋を描いて墜落していった。


間髪入れず、巨大な竜に乗った魔族の将軍が突進してくる。

「死ねぇ! 人間!」

ツヨシは空中で身を翻すと、懐から一束の「チョーク(のような形状のクナイ)」を取り出した。


「黒板消し落としの術!」

クナイが空間を固定し、魔族の将軍の頭上に、巨大な「概念の黒板消し」を具現化させる。

ズシン!! という衝撃と共に、将軍はチョークの粉にまみれて地面に叩きつけられた。


「散れ、散れ! 廊下は走るな! 魔法は外でやれ! 挨拶ができない奴はやり直しだ!」


ツヨシの動きは、もはや忍者の域を超えていた。

空を歩き、重力を無視し、数万の攻撃を「柳に風」と受け流す。彼にとって、この大軍勢は「言うことを聞かない、元気すぎる全校生徒」にしか見えていない。その精神性が、あらゆる魔法や加護を無効化する最強の結界となっていた。


4. 怒りのフルコース


三十分後。

空を埋め尽くしていたはずの軍勢は、すべて里の外の空き地に、綺麗に「整列」させられていた。

重傷者はいない。しかし、全員がツヨシの放った「威圧(という名の先生の説教モード)」によって、魂のレベルで正座させられている。


ツヨシは里の中央、一番高い火の見櫓の上に立ち、拡声器(アニスが変化したもの)を手に取った。


「いいか、お前ら! よく聞け!」


その声は、世界のことわりに直接響いた。


「主君が遊びに来てるからって、武装して押し寄せる奴があるか! 近所迷惑だろうが! 神だか魔王だか知らないが、ここではただの『食いしん坊の居候』なんだよ!」


「……すみませんでした……」

数万の天使と悪魔が、一斉に唱和した。


「天使! 羽根が散ってるだろ、掃除していけ! 魔族! そのトカゲ(竜)の糞は全部持ち帰れ! あと、神と魔王を連れて帰りたいなら、まずは『手土産』と『丁寧な挨拶』を持ってこい! 抜き打ちの家庭訪問は禁止だ!」


5. カオスの定着


結局、軍勢はツヨシに命じられるまま、里の周辺の草むしりと、道に落ちた羽根の掃除を完璧にこなして帰っていった。


夕暮れ時。

「……ツヨシ殿、あまり部下をいじめないでやってくれ」

神が、申し訳なさそうにお茶を差し出す。

「全く、教育者というのは恐ろしいな」

魔王も、苦笑いしながら肩をすくめる。


「……あんたたちが一番悪いんですよ」

ツヨシはドカッと縁側に座り込み、残っていたカブの漬物を口に放り込んだ。


空には、掃除を終えて寂しそうに帰っていく軍勢の影。

しかし翌日、里の入り口には「手土産(天界の蜜)」と「菓子折り(魔界の特産品)」を持った天使と悪魔が、今度は「礼儀正しく」行列を作っていたという。


「……ねえ、ツヨシ。なんか里の入り口が、お歳暮の時期のデパートみたいになってるんだけど」

アニスの呆れた声に、ツヨシはただ、天を仰いで深い溜息をつくのであった。

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