第34話:神と魔王の抜き打ち視察(※お忍び)
1. 招かれざる「お忍び」客
「……おい、魔王よ。あそこが噂の『神域』か? 随分とまあ、派手にやっておるではないか」
「全くだ、創造神。我が魔王軍の『恐怖による支配』より、あの里の『満足度による支配』の方が質が悪い。営業妨害も甚だしいぞ」
里の入り口に、一見すると「少し派手な旅の老人」と「ガラの悪い貴族の青年」という、極めて怪しいコンビが立っていた。
その正体は、この世界の管理職のトップ、**創造神ゼウス(仮)と、破壊の象徴魔王ルシフェル(仮)**である。
二人は「偽りの神を崇める不届きな里なら、その場で消滅させてくれる」と息巻いて、第一歩を踏み出した。
2. 「おもてなし」の波状攻撃
二人が里に入った瞬間、地面からニョキニョキと、非常に愛想の良い「案内板」が生えてきた。
「ようこそ! 神域・忍びの里へ! 観光ですか? それとも、概念の超越ですか?」
アニスが変化した案内板が、ご丁寧に二人の言語に合わせて文字を切り替える。
「……ほう。自動言語翻訳機能付きの魔導具か。なかなか高度な術式だ」
神が感心していると、横からシュタッと、一人の青年――バルカスが現れた。
「いらっしゃいませ。現在、当里では『神様・魔王様キャンペーン』を実施中です。お二人のような『それっぽい』格好のお客様には、特製の大根ジュースを差し上げております」
魔王は鼻で笑った。
「フン、貴様ごとき人間に、我らの正体が見抜けるはずもな……」
「(この二人、ヤバい。魔力が核爆発寸前だ。とりあえず『一番高いやつ』を出しておけ)」というバルカスの冷静な判断により、二人の手に渡されたのは、ツヨシが趣味で作った「ハチミツ漬け大根(超高濃度栄養素入り)」だった。
一口飲んだ瞬間、神と魔王の目が見開かれた。
「……っ!? な、なんだこの喉越しは! 私の創った大根に、こんな『慈愛』の味はプログラミングしておらんぞ!」
「くっ……魔界の毒素が浄化されていく……。これは、もしや……聖遺物か!?」
3. ツヨシ、最上位職とエンカウントする
その頃、ツヨシは里の広場で「自動おにぎり供給システム(透明な教え子たち)」の暴走を止めるべく、地面に正座して説教をしていた。
「いいか、みんな。透明になっておにぎりを渡すのは『神の御業』じゃなくて、ただの『手品』か『怪奇現象』なんだ! 客をビビらせるなと言っただろう!」
そこに、大根ジュースを飲み干して感動(と混乱)で顔を上気させた神と魔王がやってきた。
「貴様が、この里の主か?」
魔王が威圧的に尋ねる。普通ならその覇気だけで卒倒するレベルだが、ツヨシは「あ、また面倒なコスプレ観光客が来た」としか思わなかった。
「あー、はいはい。主というか、ただの教員……じゃなくて、隠居してる忍者です。もう奇跡は売り切れですよ。帰ってください」
神は驚愕した。
「(なんだと……? この私を目の前にして、一ミリも動じぬとは。それどころか、この男、私の存在を『景観の一部』程度にしか認識していない。これは、解脱か? 解脱しているのか!?)」
4. 概念の崩壊
「忍者と言ったな。ならば、その力、私に見せてみろ!」
魔王が、試すように指先から一筋の破滅の光(※手加減済み)を放った。
ツヨシは、反射的に動いた。
かつて校門で遅刻をしようとする生徒を捕まえた時のように、流れるような動作で光を「ひょい」と避け、ついでに魔王の襟首を掴んで、そのまま「忍びの心得・其の一(礼儀)」を叩き込む。
「お客さん、里での魔法の使用は禁止です。危ないでしょう。……というか、火遊びは他所でやってください」
魔王は、生まれて初めて「説教」をされた。
「(な……、私の物理無効障壁を貫通して、首根っこを掴んだ……!? この男、攻撃概念そのものを無視したのか!?)」
一方、神は神で、ツヨシの後ろで控えているザックやアニス(木のフリをしている)を見て、戦慄していた。
「(あの木……、全宇宙の生命エネルギーが凝縮されている。あの男、ただの人間を育てているのではない。八百万の神候補を、養殖しているのか……!?)」
5. 管理職、遊びにハマる
数時間後。
ツヨシがため息をつきながら縁側で茶をすすっていると、神と魔王が横に並んで座っていた。
「……で、ツヨシ殿。この『囲碁』というゲーム、次は私が打っても良いか?」
創造神が、ツヨシに教わったボードゲームにどっぷりハマっていた。
「いや、次は俺の番だ。この黒い石を『包囲』して消す感覚、魔界の領土争いに通じるものがある」
魔王は魔王で、里の平和な空気に毒気を抜かれ、ツヨシのお手製漬物をボリボリ食べている。
「……あんたたち、仕事はないんですか? 観光なら、あっちのバルカスが案内する派手な『空中浮遊体験』とかに行ってくださいよ」
「いや、ここが良い。ここには、私が忘れていた『不完全な美』がある……」
「俺も、たまには『破壊』以外の娯楽が必要だと思っていたところだ」
結局、世界最強の二人は「ツヨシの家の居候」として居座ることを決めた。
ツヨシの平穏は、ついに「神と魔王の介護」という、前世の教員生活よりも過酷なステージへと突入したのであった。
「(……誰か、俺を再転生させてくれ……)」
ツヨシの心からの願いは、すぐ隣にいる神によって「あ、今、なんか面白い事言ったな」とスルーされるのであった。




