第25話:アネゴの忍術講義は、だいたいノリ
1. 「黄色い悪魔」改め「アネゴ」
「いい、あんたたち! 師匠は忙しいんだから、基礎の基礎はこのアタシが叩き込んでやるわよ!」
ツヨシが昼寝をしている間、里の裏庭では異様な光景が繰り広げられていた。
かつては一帯を恐怖に陥れたバルカス、ザック、ビルの三人が、一人の少女——アニスの前に直立不動で並んでいる。
アニスはツヨシから貰った「予備の鉢巻」を額に巻き、これ見よがしに腰に手を当てていた。
バルカスたちは、かつて自分たちを(偶然とはいえ)叩きのめしたアニスに対し、恐怖を通り越して「師匠の正妻、あるいは一番弟子」という特権階級の輝きを見ていた。
「お願いします、アネゴ! 師匠の深淵なる技術、その一端でもご教授願いたい!」
バルカスが地面に額を擦り付けると、ザックとビルもそれに続く。
「……アネゴ。悪くない響きね」
アニスは鼻を高くし、適当なことを言い始めた。
2. アニス流・忍術理論「キラキラとシュバッ」
「まず、忍術で一番大事なのは……『気合』と『ハッタリ』よ!」
「(……っ! やはり! 精神干渉系の秘術……!)」
バルカスたちは熱心にメモを取り始めた(※ちなみにメモ帳はツヨシが捨てようとしていたチラシの裏だ)。
「いい? 師匠がよく言う『隠れる』っていうのはね、ただ隠れるんじゃなくて、『自分が風景の一部だと思い込む』ことなの! つまり、あんたたちは今から……そうね、そこの『ジャガイモ』になりなさい!」
「ジャガイモ、ですか……?」
「そう! ジャガイモは喋らないし、動かないでしょ? 敵が来ても『あ、ジャガイモだな』って思わせたら、それはもう立派な忍術なのよ!」
アニスが教えたのは、単なる「動くな」という命令だった。だが、バルカスたちの脳内フィルターを通ると、それは『土属性・完全同化偽装術』へと変換される。
「なるほど……。自我を殺し、根を張り、大地の波動を読み取る……。深い、深すぎる……!」
3. 実践:ジャガイモの術
数分後。
そこには、泥にまみれて庭の片隅で丸まり、一切の微動だにしない三人の巨漢の姿があった。
「いいわよ、いい感じよ! 誰がどう見ても巨大なジャガイモだわ!」
アニスは面白がって、彼らの頭の上に適当な葉っぱを乗せて回った。
そこに、たまたま通りかかったカイルが足を止める。
「……おい、アニス。なんだ、あの不気味な塊は」
「あ、カイル。見てよ、あいつら今『ジャガイモの術』を修行中なの」
カイルは、泥だらけで震えながら「俺はポテト、俺はポテト……」と呟いているバルカスを見て、深い溜息をついた。
「ツヨシを信じ込みすぎて、ついに脳まで腐ったか。そもそもあんな巨大なジャガイモが庭にある時点で不自然だろうが」
だがその時、一羽の鳥がビルの頭(葉っぱの上)に止まった。
「……!! 鳥が……警戒を解いて止まっただと!? まさか、本当に気配を消しているのか!?」
カイルは驚愕した。
実際は、ビルが恐怖で硬直しすぎて死体のように動かなかっただけなのだが、この里において「偶然」は常に「奇跡」として解釈される運命にある。
4. 必殺「アニス・キック(忍法・流星脚)」
「次は攻撃よ! 忍者はスピードが命! こう……シュバッ!と動いて、ドカーン!とやるのよ!」
アニスが空中に向かって、これまた適当な蹴りを放つ。
「アネゴ、今の動きは……! 予備動作が一切ありませんでした!」
バルカスは感動に打ち震えていた。アニスがただガサツに足を振り上げただけの動きが、彼の目には「最適化された最短経路の打撃」に見えたのだ。
「あれは……『忍法・流星脚』よ! 師匠に内緒でアタシが編み出したんだから!」
「素晴らしい! ぜひ、我らにもその極意を!」
アニスは調子に乗った。
「じゃあ、あんたたち。その辺の太い丸太を、蹴り一本で折れるようになるまで練習しなさい! できないうちは夕飯抜きよ!」
「「「御意!!」」」
5. ツヨシ、困惑する
夕暮れ時。
昼寝から覚めたツヨシが裏庭へ行くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「ハッ! ポテト! ハッ! ポテト!」
という謎の掛け声とともに、泥だらけの男たちが猛烈な速さで丸太にローキックを叩き込んでいる。
その足元には、なぜか大量のジャガイモが(アニスが収穫を手伝わせたため)山積みになっていた。
「ええと……。みんな、何をしてるのかな?」
ツヨシが声をかけると、三人は即座に跪き、アニスを指し示した。
「師匠! アネゴから『ジャガイモの極意』と『流星脚』の基礎を教わっておりました! 己の無力さを痛感しております!」
ツヨシは隣でドヤ顔をしているアニスを見た。
「アニスちゃん……ジャガイモの極意って何?」
「ふふん、内緒よツヨシ。あいつら、意外と素質あるわよ」
ツヨシは首を傾げた。
「(まあ、みんな楽しそうだし……。ジャガイモもたくさん獲れたみたいだから、今夜はポテトサラダとコロッケにしようかな)」
「よし、みんな! 修行(?)はおしまい。今日はジャガイモパーティーだよ!」
「「「(……っ!! 獲物を食すことで、その属性を体内に取り込む……! これも修行の一環か! どこまで深いんだ、この師弟は……!)」」」
こうして、ツヨシの知らないところで「甲賀流(仮)」に「ジャガイモ」という謎の属性が追加されていくのであった。
(第1章完)




