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異世界転生しちゃったので忍者になってみた  作者: 羽越世雌
第1章:忍術を研究し尽くした元教師
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第23話:門を叩くは、かつての賊

1. 敗北の果てに見た「真理」


その男、重戦士バルカスは、人生で最大の衝撃を受けていた。

「……ありえねぇ。あんな小娘が、俺の『剛力破斬』を片手でいなしただと?」


街道の脇、ボロボロのテントの中で、バルカスは腫れ上がった膝を抱えて震えていた。

彼を倒したのは、黄色い服を着たあどけない少女だ。だが、彼女が引いていたあの『銀色の魔法道具(台車)』……あれは間違いなく、物理法則をねじ伏せる究極の魔導兵器。


そして、そんな恐ろしい兵器を子供に持たせ、お使いに行かせる「あるじ」がいる。


「あの娘の身のこなし……無駄がなさすぎた。あれはただの魔法使いじゃねぇ。影に潜み、一撃で命を刈り取る『伝説の暗殺者一族』の仕業だ!」

バルカスの脳内で、ツヨシは「漆黒の装束に身を包み、周囲に死体を積み上げた冷酷な魔王」として勝手に変換されていた。


「これだ……。俺に足りなかったのは、この『隠密の力』だ! 師匠! どこにいるか知らねぇが、俺を弟子にしてくれぇ!」


2. 決死の潜入(?)と、穏やかな朝


数日後。バルカスはアニスの足跡を執念で辿り、ツヨシの住む隠れ里の入り口に辿り着いた。

「(ここか……。殺気を感じる。一歩でも踏み込めば、見えない針が喉を貫くに違いねぇ……!)」


バルカスは匍匐前進で、慎重に、慎重に里の敷地内へと潜り込んだ。

実際には、ツヨシが「風通しを良くするため」に木々を剪定していただけなのだが、バルカスの目にはそれが「敵を誘い込む絶命の陣」に見えていた。


そこへ、一人の男が歩いてきた。

着古した作務衣に、手には竹ぼうき。どこからどう見ても、近所の世話焼きなおじさん——ツヨシである。


「おや? そこで何をしてるんですか? 迷子かな?」


ツヨシの言葉に、バルカスは全身の毛穴が逆立った。

「(は、速い! いつ背後に回られた!? 殺気が……殺気が全く感じられない! これが『虚の境地』か!)」


3. 噛み合わない弟子入り志願


バルカスは勢いよく立ち上がり、その場で土下座した。

「俺の名はバルカス! 貴殿の……貴殿の『暗殺術』に惚れました! どうか、俺を末弟に加えていただきたい!」


ツヨシは小首を傾げた。

「暗殺術? ああ、あんさつ……。もしかして『案内あんない術』のことかな? この辺りは道が分かりにくいですからね」

ツヨシは、バルカスが里の周辺の環境整備を手伝いたいボランティア希望者だと解釈した。


「いや、違う! あの黄色い小娘に教えた、あの恐ろしい体術だ!」

「ああ、アニスのことですか。彼女に教えたのは、ただの『腰痛にならない歩き方』と『荷物の効率的な運び方』ですよ」

「(くっ……! 奥義を『腰痛対策』と呼んで隠匿するとは、なんと恐ろしい男だ。どこまで底が知れないんだ!)」


バルカスの眼差しが、畏怖から崇拝へと変わる。

「お願いします! どんな厳しい修行でも耐えてみせます! 俺を、俺を『影』にしてください!」


ツヨシは感心したように頷いた。

「影……。なるほど、日陰の作業を志願するとは。実は裏庭の草むしりが、日当たりが悪くてジメジメしてて困ってたんですよ。それをやってくれるなら、大歓迎です」


「(う、裏庭の……草むしりだと!? まさか、ただの草むしりに見せかけた、指先の精度と毒草を見分ける極限の訓練か!)」


「わかりました、師匠! やらせてください!」


4. 忍びの草むしり(バルカス視点)


こうして、かつての賊の親玉・バルカスは、ツヨシの里で「修行」を開始した。


ツヨシは親切に教えた。

「いいですか、バルカスさん。草を抜くときは、地面の呼吸を感じて、根っこを『いなす』ように抜くんです。力任せはいけませんよ」


バルカスは必死に実践した。

「(根っこをいなす……。これは、敵の防御壁バリアの内側に魔力を浸透させ、内部から崩壊させる技の基礎訓練だ。なんて合理的で、なんて冷酷な修行なんだ……!)」


バルカスが滝のような汗を流しながら草を抜いていると、お使いから戻ったアニスが通りかかった。

「あ、師匠! そのおじさん、こないだ道でぶつかった人じゃないですか?」


バルカスはビクッと体を震わせた。

「(黄色い閃光アニス……! クソっ、兄弟子(?)への挨拶を忘れるとは、俺も修行が足りねぇ!)」

「さ、先日は失礼しました! 先輩!」


「えっ、先輩!? 私が!?」

アニスは目を輝かせた。万年劣等生だった彼女にとって、「先輩」と呼ばれる響きは最高に心地よかった。


「ふふん、いいわよ! 師匠の教えは厳しいけど、頑張りなさいよね、バルカス!」

「はいっ! 先輩!」


5. 平和な隠れ里の、新たな「戦力」


その日の夕方。

カイルが仕事から戻ると、見知らぬ大男が涙を流しながら、ツヨシの特製「おからハンバーグ」を頬張っていた。


「……ツヨシ。あの大男は誰だ?」

「ああ、バルカスさん。庭掃除のボランティアだよ。すごく熱心でね、『このハンバーグには、失われた古の霊薬(ただの健康食材)が含まれている!』って感動してたよ」


バルカスは確信していた。

この里で修行を続ければ、自分は「黒騎士団」を一人で壊滅させられる暗殺者になれる——と。

実際、ツヨシに教えられた通りに全身の無駄な力を抜いて草をむしり続けた結果、バルカスの筋肉はより効率的で強靭なものに進化し始めていた。


ツヨシの無自覚な教育が、また一人、常識外れの「忍者」を生み出そうとしていた。

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