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異世界転生しちゃったので忍者になってみた  作者: 羽越世雌
第1章:忍術を研究し尽くした元教師
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第2話:霧降の峡谷と「持たざる者」の知恵

1. 隠れ里の礎


国王から下賜された「霧降きりふりの峡谷」は、人の住める場所ではなかった。切り立った断崖は常に濡れ、谷底を流れる川は急流。年中深い霧が視界を遮り、魔物すら足を踏み入れない不毛の地。

だが、ツヨシはこの地を一目見て、満足げに頷いた。


「これほど『擬装』に適した土地も珍しい。隠れる必要さえない、最初から隠れているのだからな」


ツヨシの開拓は、ユニークスキル**【現代忍知識】**の全開から始まった。

彼はまず『水遁すいとんの術』を発動した。本来の水遁は竹筒などで息を継ぎ潜伏する術だが、【現代忍知識】によって具現化された術は、マナで水流のベクトルを操作する。彼は川の底に目に見えない段差を作り、水流の音を共鳴させることで、外部の音をかき消す「消音の壁」を構築した。


さらに『土遁どとんの術』を併用する。かつてのキャンプ設営で学んだ排水の重要性と、甲賀の里に伝わる隠れ穴の構造をマナで再現。岩壁の内側をくり抜き、湿気を逃がすための換気孔を、外界の霧と混ざるように巧妙に配置した。

「忍びの里は、地図に載ってはいけない。そして、隣に住む者さえ入り口を知らぬのが理想だ」

入り口は『木遁もくとん』で急成長させた苔と岩肌で擬装され、もはや目視で発見することは不可能であった。


2. 招かれざる「落第生」


拠点の設営が一段落した夕暮れ時。峡谷の入り口に張り巡らせた「魔導鳴子なるこ」が、不規則な震えを伝えてきた。

ツヨシは即座にユニークスキル**【ログアウト】**を発動した。

世界から彼の存在定義が消える。気配、音、体温。あらゆる情報が遮断された状態で、彼は音もなく崖を滑り降りた。


そこにいたのは、ボロボロの革鎧を纏った犬耳の少年、カイルだった。

少年の足は深く切り裂かれ、その血の匂いを嗅ぎつけた魔物「フォレスト・ウルフ」たちが、牙を剥いて彼を包囲していた。


「あ、あう……誰か……助けて……」


少年が絶望に目を閉じた瞬間、ツヨシが動いた。

魔法の詠唱はない。ただ、一陣の風が吹いただけのように見えた。

ツヨシは【現代忍知識】により、本来の術を攻撃へと昇華させた。


「『影縫い(かげぬい)』の術」


放たれたクナイが、狼たちの「影」を地面に縫い止める。本来は暗示をかける術だが、マナを通したクナイは影を物理的なくさびとして固定した。動きを止められ混乱する狼たちの眉間に、次の一瞬で『金遁きんとん』の極意――古銭を弾く指先が、不可視の弾丸となって急所を撃ち抜いた。


「……目を開けなさい。授業はもう始まっているぞ」


静かな声にカイルが目を開けると、そこには返り血一滴浴びていない、穏やかな表情の老人が立っていた。


3. 生存の「特別講義」


ツヨシはカイルを隠れ家へ運び、手当てを行った。

カイルの語る身の上は、ツヨシの教育者としての魂を揺さぶるものだった。獣人であるというだけで、王都の騎士団からは「野蛮」と蔑まれ、魔法学院からは「マナの適性が偏りすぎている」と門前払いされたという。


「……僕には、才能がないんです。騎士様みたいに立派な鎧を着て、長い呪文を唱えるなんて、一生できない」


俯くカイルに、ツヨシは一杯の温かい茶を差し出した。

「カイル君、と言ったかな。君が言う『才能』とは、誰が決めたものだ? 正面からぶつかって、派手な魔法で敵を倒すことだけが、強さだと信じているのか」


ツヨシはカイルの前に、一本のクナイを置いた。

「いいか。魔法使いが十秒かけて放つ一撃が『百』の威力だとしても、その十秒の間に、君が『一』の威力でその喉元を突けば、君の勝ちだ」


ツヨシは壁の岩肌に指をかけた。

「君のその鋭い鼻、強靭な脚力。それは騎士道では弱点かもしれないが、私の教える忍術においては、最強の武器になる。例えば『水蜘蛛みずぐも』の術。本来は道具を使って水上を歩くが、君の脚力とマナを合わせれば、水面すらも君の戦場になる」


カイルは、これまで自分を否定してきた世界にはなかった言葉に、目を見開いた。

「……僕でも、強くなれますか? 魔法も、剣も使えない僕でも」


「強くなるのではない。生き残る術を身につけるのだ。生き残った者が、最後に勝つのだよ」

ツヨシはかつての教え子に向けるのと同じ、厳しくも温かい眼差しを向けた。

「さあ、第一講だ。まずはユニークスキル**【ログアウト】**の初歩――気配の消し方を教えてやろう。……できるかな?」


「はい、教官……いえ、師匠!」


深い霧に包まれた峡谷で、異世界初の「特別授業」が幕を開けた。

それは、捨てられた少年が、世界の影を支配する「シノビ」へと脱皮していく、最初の一歩であった。

ツヨシは立ち上がり、壁の岩肌に指をかけた。

「君のその鋭い鼻、強靭な脚力。それは騎士道では弱点かもしれないが、私の教える忍術においては、最強の武器になる。君の『マナの偏り』は、特定の属性に特化した天才の証だ」


カイルは、これまで自分を否定してきた世界にはなかった言葉に、目を見開いた。

「……僕でも、強くなれますか? 魔法も、剣も使えない僕でも」


「強くなるのではない。生き残る術を身につけるのだ。生き残った者が、最後に勝つのだよ」

ツヨシはかつての教え子に向けるのと同じ、厳しくも温かい眼差しを向けた。

「さあ、第一講だ。まずは、その大きな耳を活かして、私の『足音』を聞き分けてみなさい。……できるかな?」


「はい、教官……いえ、師匠!」


深い霧に包まれた峡谷で、異世界初の「特別授業」が幕を開けた。

それは、捨てられた少年が、世界の影を支配する「シノビ」へと脱皮していく、最初の一歩であった。

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