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“豪傑”、そう呼ばれたガンナーさんは、登壇すると上着を脱いだ。
鍛え上げられたその肉体に、場内にどよめきが走る。戦の神ってこんな見た目をしてるんだろうなと、そう思わされるような格を感じた。
僕の席がステージから遠いからか、見逃していたが、よく見ると彼の手には50センチほどの棒が握られていた。
拳を握り、膝を沈ませる。彫像のように洗練された構えを取ると、肉体が徐々に発光し始めた。皮膚を透過した光は、血の色を纏って紅い光となる。
瞬く間に紅の光を纏ったガンナーさんは、まるで人間を超えた存在に思えた。
場内は、静まり返る。相手も、その威圧感で動けなくなっているようだった。素人目にも分かる腰の引け方をしていた。
紅の光が、ステージ上を駆けた。
相手は、体から血を吹き出してその場に倒れ込む。
ステージの端に佇む彼の手には、身長を優に超えるであろう2メートル強の光の剣が、握られていた。
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場内がざわめきを取り戻す頃、僕は日記帳にペンを走らせていた。
ガンナーさんが持っていた棒は、光の剣の柄だったのか。光る肉体は、単純な身体強化?…様々な憶測を紙に刻んでいく。
試合終了が告げられた後のこと。あの大きな光の剣は、輝く粒子となって空気中に漂い、そして消えた。紅に発光する肉体は、徐々に元に戻っていった。
僕は、非常に興奮していた。あのおじさんが、規格外に強かったなんて!サインでも貰っておけば良かったな。
そして試合は、次へと流れた。
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3時間ほどで、予選全試合が終了した。昨日サブギルドで出会った青年も、しっかり一勝を掴み取っていた。名前はレフル。剣に強力な紫電を流し込んで戦う、といった選手だ。
2回戦進出者は16人。それから準々決勝、準決勝、決勝という形で大会が進んでいく。
僕は全ての戦いを、食い入るように見つめた。仔細にメモをとりながら、時には息を荒げながら、僕は帝剣杯に没入した。
胸の奥がずっと熱かった。歓声に呑まれているのに、頭は不思議なほど冴えていた。
そして、あっという間に決勝戦の幕が開けた。
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決勝までの間、少し時間が空いた。僕は、会場の人々の声に、耳を傾けた。
まず、現時点における状況を確認しておく。
レフルは準決勝まで勝ち上がったが、強力な攻撃をカウンターされてしまい、敗北。ガンナーさんは続く2試合とも、相手を瞬殺し、決勝進出。
問題は、ガンナーさんの決勝の相手だ。レフルを打ち負かした人物とも言える。場内の噂によれば、帝剣杯は初参加だそう。
セネルと呼ばれたその選手は、僕にはなぜ勝ち上がっているのかがよく分からなかった。おそらくだが、視認できるような術じゃないのだろう。レフルが負けた時もびっくりした。
決勝開始を知らせる、場内アナウンスが響き渡った。ガンナーさん、頑張れ…!
そうそう、僕の隣にいる中年の男性は、帝剣杯ファンなのだそう。今回の決勝について、少し話を聞いてみた。
「今回の決勝、正直どう思います?ガンナーさん、めちゃくちゃ強いですよね。」
「ああ、アイツは実際の戦役でもしっかり実績を残してる傑物だからな。ただ…今回のセネルとかいう新人、どこか不気味だ…」
僕ら観客は、静かにその勝負の行く末を見守ることにした。
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ドラが鳴り響く。今回のは格段に気合の入っていたように感じる。
ガンナーさんは、上半身を曝け出したまま、ゆったりと壇上に上がった。
セネルは、軽快に登壇し、準備運動をした後、静かにガンナーさんを見つめた。
僕は、思わず息を呑んだ。
今、僕の全く知らない世界が、暴れようとしていた。




