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 山間を馬車に揺られながら、抜けていく。当分は山林の木に囲まれた景色が続くらしい。

 昨日の夜の眠りが浅かったのは、今朝から呼吸が浅いのは、期待する気持ちを不安が押し殺してしまったからだろうか。

 僕は少し眠い瞼をこすり、緑の遠景に視線を移した。


 この一週間は、自分なりに剣の稽古をしてみた。書店で指南書を手に取り、練習メニューを組み、学校の先生を訪ね、剣術道場を訪ね…

 ただ、できる限りは尽くしたが、さすがに一週間ではどうにもならなかった。


 剣聖に会えたとして、この始末の僕をみて何を言うだろうか。僕は不安を紛らわすように、指南書に目を落とした。



  ⬜︎



 4時間経たないくらいだろうか、馬車が止まった。ここはサブギルドと呼ばれるものらしく、王都の入区申請ができる場所だそうだ。

 僕は馬車をおり、サブギルドの石造りの建物に入った。申請手順は父に教えてもらったので、まずはやってみよう。


 中には大体20人くらいの人がいた。サブギルドの役割は先程のものの他に、辺境で委託、達成された任務の管理や休憩所の開放等がある。僕は入口正面の受付に向かった。


「すみません、王都の入区申請をしたくて…」

「承知いたしました。ではこちらの書類のマーカーが引かれた箇所の記入をお願いします。」


 受付の人はテキパキと仕事をこなしていた。僕はサブギルド内の様子に時折目をやりながら、必要事項の記入を進めていく。



  ⬜︎



 記入が終わり、書類を提出する。確認のために少しの時間待合室で待つことになった。同伴してくれた馬車の運転手の方も待ってくれるとのことだった。


 剣術指南書をパラパラとめくっていると、不意に声をかけられた。ピアスやタトゥーが目立つ装いの青年だ。


「にいちゃん、そんなもん読んでも無駄やぞ。」

「あ…そうなんですか。僕ちょっとよく分かんなくて…」

「王都に行くんか?…まさか帝剣杯でるなんて言わんやろな…?」

「て、テイケンハイ?多分出ませんよ。」


 安心したわ、と言い残し青年は去って行った。テイケンハイ…それについて運転手の方に聞いてみたが、よく知らないとのことだった。


 それからすぐ、受付から呼び出しが来た。受付に行くと、王都の入区許可証をもらうことができた。

 そしてついでに、受付の人にテイケンハイについて聞いてみた。


 帝剣杯とは、毎年王都で開催される剣術の大会だそうだ。毎年相当な実力者が参加するらしい。観覧は可能なそうなので、せっかくなら見てみたいと思った。


 僕らはサブギルドを去った。



  ⬜︎



 馬車の後輪が小石を弾いたか、ガタンと大きく揺れ、僕は目を覚ました。寝てしまっていたようだった。指南書に涎が垂れていたので、慌てて拭いた。


 日が傾いてきた。時刻を聞くと、午後3時だそうだ。あと2時間ほどで王都に着く。不安が消え去ったわけでは決してない。ただ、楽しみな気持ちを自覚出来るぐらいには、余裕が生まれていた。


 大きく伸びをした。山林地帯を抜けたのか、集落のような、小さな家々が散見されるようになってきた。王都が近づいてきていることを示唆しているように思えた。


 少しふやけてしまった指南書をめくる。もうすぐ読み終わりそうだ。無意識に木刀に伸びた手に、少しだけ笑えた。



  ⬜︎



 砂利道から舗装路に入った。家の数や人の気配が増えたことに気づいた。運転手が、あと30分ほどだと教えてくれたので、僕は指南書の残り数ページを走り読みした。

 少しして読み終わり、カバンに指南書をしまうと、僕は目の前の景色に息を呑んだ。


 王都の城壁が、霞の向こうに見えた。端が見えない。まるで山のようだ。

 そして、その中央にうっすらと尖塔が見える。あれがおそらくカルザ王国の中央城なのだろう。


 僕は今の自分の行動がどれほど壮大なものなのだろうと、そしてどんな出来事が待っているのだろうと、文字通り期待で胸が膨らむような心地だった。



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