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しばらくの間、沈黙が続いた。母は目元に手を当て、深くため息をついた。僕はまた、ぽつりぽつりと剣聖との邂逅とその周辺の出来事を語り始めた。
またしばらくして、母は僕の発言を遮った。僕は、次の発言が少し怖かった。
「まあ、分かったわ。行くだけ行ってらっしゃい。ちゃんとお父さんにも言うのよ。」
「…え、ほんと。本当にいいの!ありがとう…っ!」
一区切りの会話を終える。それから、僕たちは歯を磨き、眠りについた。
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朝起きると、父が帰って来ていた。まだ寝ているが。僕は父に、あの話をしなければならない。
僕はいつものように、階下へ降りた。家という、壁に囲まれ閉じられたこの空間には、少しずつ日常が戻って来ている気がした。
トーストを焼き、コップに牛乳を注ぐ。ぼんやりと、考え事をする。
いつ、王都に行けば良いのだろうか。父親に相談するのが良いのだろうか。そう考えると、父が寝ているのが心底もどかしく思った。が、叩き起こすのはやめた。僕はトーストを牛乳で流し込んだ。
母もまだ眠っていた。僕は庭に出た。そして、学校で買わされた木刀を手に取った。
一度、振ってみる。いまいち正解がわからない。数度木刀を振ったところで、家の中から物音がした。親が起きてきたのだろう。
僕は慌てて木刀を元の場所に戻し、家に戻った。
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「父さん、おはよう。」
「おおテル、早起きだな。おはよう。」
食卓に座った父に、昨日母と話したことを伝える。
「…んん、母さんが行ってもいいって言ったんだな?じゃあ、良いんじゃねえか。」
「ほんと!やった。」
父はトーストにザクッと音を立てて齧り付き、一息ついて僕の目を見た。
「剣士になりてえのは否定しない。そんな剣聖様のかっこいいところ見せられちゃあ、憧れないのも失礼ってもんだろう。でもな、テル。これだけは約束してくれ。」
父は少し乱暴に、でも暖かく僕の手を取る。
「死ぬのは許さん。」
その後、僕は遅れて起きて来た母を交えて、王都に行く方法や日程を決めた。
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1週間後、王都に出向く日だ。早朝から荷造りを始めていた。町の復興はまだ続いており、学校も始まっていない。うん、不謹慎だけど合法的。
とりあえず3泊を想定しているが、何が起こるかわからないので、最長1週間の滞在予定を組んだ。
父が村長などに聞いてまわってくれたおかげで、どのような手順を踏めば剣聖と接触しやすいか、ということが少し分かった。ありがたい。
そして、村長が王都行きの馬車を貸してくれるらしく、10時間ほどで王都に着くらしい。ありがとう!
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朝の8時頃、僕は家族と村の門の前で村長を待った。数分経って村長が馬車を引いて歩いてくる。
「あのっ、村長さん。何から何まで、本当にありがとうございます!」
「剣聖に、会えるといいな。君の勇敢さを誇りに思うよ。」
僕たちは村長に深く頭を下げた。それから、僕は馬車に乗った。馬車に乗るのは初めてだが、個室型で、良いものであるということは一目見て分かった。意外と中は広いな。
「忘れ物はない?」
「大丈夫!何日も一緒に準備したから、きっと!」
僕は両親と村長に見送られながら、村の門をくぐり、そして復興の続くキードを後にした。一抹の不安を抱えながら。




