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3

 村を破壊した巨大な龍は、首と胴体が見事に泣き別れになった状態で、空から墜落した。

 上手い具合に人がいないところに落ち、どうやらそれによる怪我人や死人は出ていないようだった。


 僕は、立ち上がって、それから流星の行方を追った。あれは、剣聖だ。


 この瞬間だけ、家族や友達のことを忘れていた。無我夢中で人混みを掻き分け、押し除けながら、行くべきところへ向かった。


 

  ⬜︎



 どれほど歩いただろうか。ようやく人混みを抜けた。剣聖は…剣聖はどこだろう。


 瓦礫の山、その上には巨龍の死体。さらにその上、星々の光の中に、彼はいた。


 剣聖は、おもむろに振り向いて、そして僕と目が合った。透き通る空のような、そんな目をしていた。


「怪我はないか、少年。」

「は…はい。あ、ありがとうございます!」


 彼は煌めく刀剣を鞘に収めて、軽く微笑む。


「礼には及ばない。遅れてすまなかった。」


 僕は咄嗟に、とあることを言わなければと思ったが、口がうまく回らない。


「報告等の関係で、急いで王都に戻らなければならない。」


 それじゃ、と言い残して彼は王都に帰ってしまった。僕には、まだ言いたいことがある。言えなかったことがある。

 王都に行かなければ、とその時思った。



  ⬜︎



 人々の混乱は、脅威が去ったあとも全く酷いものだった。泣き声、叫び声、喚き声……僕は必死に呼びかけたが、当然声はかき消され、群衆に溶けてしまった。

 流石にすぐ諦め、そして僕は自分の家に向かった。


 家にいたら、もしかしたらそのうちいつか、親が帰ってくるかもしれない。そう思ったのだ。



  ⬜︎



 家は東の方角にあり、幸い大きな被害は免れた。家につき、その状況を見る。建具の倒壊や窓の破損こそあったものの、家屋の全壊は避けられていた。


 僕はほっと一安心し、家の中に入る。予想通り、まだ誰もいなかった。まあ、あまり良いものとは言えなかったが、南西地域の被害を考えると、耐えた方だろう。


 座布団を引っ張り出し、一息つく。先ほどの出来事を思い返してみる。


 龍がキード村の南西地区に着陸、一通り荒らしてから、広場に襲撃。そこで剣聖に撃退された。剣聖の剣は眩く輝きを放ち、その一閃が龍の首を見事に両断した。


 僕は不意に剣聖のもとへ駆け出した。人混みを抜けた先に、龍の死骸の上に佇む剣聖に出会った。


 僕はあのとき、確かに「憧憬」を覚えた。剣聖のように強ければ、災害を未然に防ぐことができたかもしれないと、そう思った。感情が湧き出て止まらなかった。


 弟子入りをしなければならない。だから僕は、彼の元へ、王都へ、行かなければならないのだと。そう直感が告げていた。


 ふう、と一息ついて、家の片付けを始めることにした。まだ、家族は帰ってこない。



  ⬜︎



 夜は更け、騒ぎが少しおさまったようだ。おそらく、観光客などはまだ帰りの目処が立ってない人も多いだろう。

 片付けも、少しは進んだかな。


 玄関の扉が、開く音がした。


「あっ…あっ!母さん!!」

「ただいま。ここにいたのね…ってちょっと!」


 僕は思わず母親に抱きついた。嬉しさなのか、安堵なのか、涙がボロボロとこぼれ落ちてくる。


「心配してたんだ…ずっと……あれ、父さんは…?」


 聞くところによれば、撤去作業にまわっているらしい。とにかく、両親は生きていた。



  ⬜︎



 母親とあらかた片付けを終えたとき、時計は午前2時を指していた。

 背もたれの折れた椅子に腰かけ、母親に先ほど考えていたことを打ち明ける。


「母さん、僕……剣士になりたいんだ。剣聖みたいに…」

「ダメよ。絶対ダメ。そんな危ない目には遭わせられないわ。」


 薄々予想はついていた。そんな反応だろうことは、15年も一緒に過ごせばわかる。でも。


「お父さんもきっと同じことを言うわ。」

「みんなを守れたら、僕ならもっとたくさんの人を助けられるかもしれない。」

「一回剣聖に会いに行くのは…それから決めるのはダメ、かな?」


 僕は衝動とも言い切れない、もはや使命とも言えてしまうような、そんな感情に駆られていた。何がなんでも、剣聖に直接会って、弟子入りを申し込まなければならないのだと。それがどれだけ愚かな選択だとしても。


「頼むよ。」




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