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本祭は例年の如く大盛況だった。日も完全に沈み、今は夜だと言うのに、広場はまばゆく光り輝いている。
僕は学校の友達と合流して、祭の騒ぎに便乗してはしゃいでいた。浴衣を着ておめかししている人もいれば、フランクフルトを掲げて走り回る子供もいる。この空気感は嫌いじゃない。
片手には神輿、そしてもう一方にはキードの伝統タシャ踊りが通過する。遠くには別の村の山車が見えた。これこそが七界祭、南部地域の一体感を全身で感じることが出来る。
知らない言語を話す人や、見た目が全く異なる人もひしめいている。国外からも多くの人が来るような、そんな誇らしい祭なのだ。
上を見ると、剣聖が楽しそうに手を叩いたり、体を揺らしたりしていた。僕もなんだか嬉しくなった。
…炎?
空に?
いや、あれ…
数秒後、肌がピリッと焼けるような感覚、そして少し離れた場所で強烈な破砕音が響いた。
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阿鼻叫喚。いや、もはや混沌と言って差し支えないだろう。大規模な地響きとともに、家屋が倒壊していく音が聞こえた。火柱が上がっているのを見ることができた。
なんだ、これ。状況がいまいち掴めていない。母さんは、友達は。人々の大波に押され、引かれ、周囲の状況を確認することができない。
僕を含め、みんなパニックに陥っている。
先ほどの地響きによって、神輿や山車が壊れたり倒れたりしている。人々の大波に押されるがまま、どこに迎えば良いのかもわからないまま、移動を続けていた。
今、目の前で、屋台鉄骨が倒れた。何人か人が下敷きになっている。ああ、もう訳がわからない。
「おい!テル!こっち!!」
僕を呼ぶ声がした。振り返ると、同じクラスのセントだ。僕も大きな声と手を振って応える。そのまま、少々その大波に逆流するようにセントの元に合流した。
「セント…これ、何が起こってんだよ……」
「分かんねえ、けどとにかく広場を出てあっちの方角に逃げていくらしい。」
「まず、合流できて良かった。」
僕らは少しの安心感を得て、少しずつ周りの状況も把握できてきた。どうやら、南西の方角にこの騒動の原因があるらしく、僕らは真逆の方角に逃げているようだと言うことは分かった。
少しだけ違和感があるとすれば、コンスタントに揺れが発生していると言う点だ。火災も広がっているように見える。自然災害…では無さそうだな。
家は…父さんは母さんは……。不安が募ってやまない。どこへ……ダメだ、人波に押し返される。
まただ。また地響き。屋台なんかほぼ倒壊してしまっていて、南西の方角からは焦げたような匂いと痛みさえ感じるような熱気が漂ってくる。息苦しい。
「せ、セント!セント、どこ!!」
返事は返ってこない。嫌に心拍が大きくなり、パニックで呼吸や指先が震えてくる。ざわめきも止まない。どこかしこから悲鳴が響く。
もうみんな、七界祭のことなど覚えてないんだろうな。僕だってそんなこと考えられなくなっていた。
悲鳴の波が、大きくなった。一段と。……絶叫?これは絶叫だ。
人波に押されながら、よろけながらふと、空を見上げた。
言葉を失った。僕はその威容に、動いてはならないということを即座に理解した。理解、させられた。
対照的に、人々の絶叫は広がり、大きくなる。
そう。
あれは龍だ。
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翼を広げた、全長およそ60メートルほどの龍が、大空を舞う。
炎を吐き出すたびに、悲鳴、断末魔、そして肉の焦げたような臭いが広がる。
僕は無意識に涙を流し、そして嘔吐した。
感じたことのない絶望感に、膝から崩れ落ち、空を見上げた。
流星が、流れた。美しい、一筋の流星が。
そして、僕は瞬きをした。あまりに眩しい光だった。
逆光の中に、二つの黒い影を見た。
それが真っ二つに斬られた龍の影であったと気付くには、少し時間がかかった。




