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自己流で修行を始めて、はや3日が経った。両手振り100回、片手振り100回、基本フットワーク100回、あとは指南書に載ってた型の練習等をサイクルで5回。これが毎日のルーティンだ。
強くなったか、そう問われると良く分からない。相手も指導者もいない。自己評価が出来ないのだ。
なんだか、終わりのない苦行をやらされているような気がして、始めて3日にして気が滅入ってきた。
分からないことばかり。僕の先生は、本に書かれた活字だけ。こんなんだったら、無理言ってでもガンナーさんとかに教えて貰えば良かったな。
うだうだ言ってる暇あんなら、一回でも剣を触れ!僕が再度木剣を持った瞬間……僕は一瞬固まってしまった。
目の前に、全く知らない光景が……あれは、穴?
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空間に、穴が空いていた。浮かんでいた?…まあそれはどっちでもいいのだが。
とにかく、空中などというありえない場所に直径1.5メートルぐらいの黒い穴が空いていたのだ。
木剣を握る手に、じんわり汗が滲む。…ん?何か聞こえる。なんだろう。
「おーい、出してくれーぇ」
流石に、いやいや。なにが起こってますか?僕の方こそ、教えてくれーぇ。
「おーい、いるんだろぉー?出してくれーぇ」
えぇ…マジ?
「おーい」
「ど、どうすれば良いですかー!?」
「おっ、やっぱいるじゃねえか。手貸してくれー!」
恐る恐る、穴に手を入れる。探るように右へ左へ手を動かすと、何かが指先を掠めた。
「惜しいなぁ、もう少し頑張ってくれぇー」
グッと手を伸ばす。と、ゴツゴツした手が僕の手を握った。思わず強張るが、強く握り返して引っ張り上げる。
僕が掴んでないもう片方の手が、穴の縁を掴む。そのまま穴から出てきたのは、何やら独特の装備を身につけた30歳ぐらいの男性だった。
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「んん〜?ここは…やっぱり俺生き返った感じだよなァ…?」
「い、生き返った?」
男性は大きく伸びをして、バキッバキッと首を振って鳴らす。そして僕を見下ろして会話を続ける。
「坊主、ここはなんてとこだ。」
「えっと…キード村です。カルザ王国の…」
「キ…まあいいや。それより良いもん持ってんじゃねえか。刀振るのか?」
「かっ、カタ…ナ?」
うーん、鬱陶しいなと言って、男性は上半身の装備を全て取ってしまう。筋骨隆々の、鍛え上げられた肉体が姿を現した。
「それ、坊主が手に持ってるやつだ。貸してみろ。」
「はい…」
僕は木剣を手渡した。軽くブンブンと振ってから、なにか雰囲気が変わった。殺されると、思った。
スッと腰が落ち、深く沈めた右膝を前に出す。その時に捻られた腰を、左足を出すと同時に一気に解放する。その一連の流れの中で、木剣が下から上に、ズバッと空を割くように振られた。
「うん、体は調子いいな。“アイツ”が言ってたことはどうやらホントっぽいぞ。」
男性は死をなぞるような一撃を繰り出した後、なにかブツブツと言っていた。僕はその場から動くことができなかった。膝と唇が震えていた。
ふと気付くと、穴は消えていた。
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「あの、すみません。お名前は…?」
「ワシか?北堂夏宗ってんだ。」
「ホクドー、さん?」
「夏宗でいいよ。苗字で呼ばれんのは飽きた。」
ナツムネさんは気怠そうに欠伸をした。独特な名前だな。交流が少しだけ深まったところで、僕はダメ元でお願いをすることにした。
「じゃあ、ナツムネさん。その…お願いがあって。」
「どうした?」
「あの…僕に剣、いやカタナを教えてくれませんか…?」
フム、と少し考えてからナツムネさんはイタズラっぽく笑った。
「いいぜ、面白そうじゃねえか。…期待に応えろよ、坊主。」
僕はその言葉を待っていた。ずっと。
これでようやく、僕は前に進めるんだ。




