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欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜  作者: 水戸直樹


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第6話 白騎士セレス

 扉が閉まった瞬間、ミサラサ王太子は机を拳で叩いた。


「あんな規律のない連中は初めてだ!」


 従者たちは即座に頭を下げる。


 そもそもは、貴婦人の部屋に押しかけ、侍女を連れ出そうとしたことが発端なのだが――

 そんな理屈を、口にできる者はいなかった。


「兵が少なかったからだ。あの、デカい女騎士に舐められた」


 侍従は肝を冷やした。


「お、おそれながら、あれは白騎士で……数でどうこうなる相手では……」


 ギラリと睨めつける王太子。


 戦慄した従者たちは深く頭を垂れた。


「お前たちが腰抜けだから恥をかいた……! 東宮の兵を全て動員せよ。あの侍女とデカ女に秩序を教え込む」


「はっ!では、近衛隊へ使いを出します」


「いや、噂を立てられる前に決着をつけたい。今すぐ出向くぞ」


「……はっ」


 侍従はそれ以上、踏み込まなかった。




 東宮の訓練場は、妙に静かだった。


 近づくにつれ、違和感がはっきりする。


 地面に転がる兵士たち。

 壁にもたれ、息を整える者。

 剣を握ったまま、動かない者。


 血は出ていない。

 それでも、誰一人、立ち上がろうとしなかった。


「……訓練か?」


 ミサラサが呟く。


 訓練場の中央に、二人の騎士。


 一人は、近衛隊中隊長。

 見慣れた顔だ。実力者であることも知っている。


 そして、もう一人。

 白い装束の女騎士。


「立ち合いしているようですね。……一人は白騎士かと」


 従者が低く告げる。


「白騎士?……まさか、中隊長並に強いのか?」


 訝しげに見やる、その先で――


 白い女が、視界から――抜け落ちた。


「ぐおッ!」


 次の瞬間、鈍い音とともに中隊長が跳ね飛ばされ、地面に叩き伏せられていた。


 白騎士が一言、告げる。


「訓練はここまで。精進するように」


 透き通る凛とした声音。

 目を剥いて倒れる中隊長に、その言葉が届いているかは分からない。


 引き返す白騎士の顔が、ちらりと見えた。

 白い肌に、気品のある顔立ち。


 ミサラサは、言葉を失ったまま、目を逸らせなかった。


 その顔を、より近くで見ようと踏み出した瞬間、

 ふっと女の姿が掻き消える。


 消える直前、髪が光を含んだ。

 ココアベージュ――だが、記憶に残る艶だった。


「……な?なんだ?」


 見たことのない現象に、目を疑う。


 そこには、もう人の気配すらない。


 侍従が小さく息を吐き、言った。


「……あれが公爵家の白騎士です。陛下ですら、丁重に扱う者たち」


 頭を殴られたような衝撃。


 名は聞いたことがある。

 姿を見たこともある。

 だが、ここまでとは知らなかった。


「なぜだ……東宮に、今更」


「……婚約者さまの護衛の一人かと」


 従者は手元の書付を開き、淡々と読み上げる。


「三人の随行員の内訳は、侍女オデット、白騎士ジャイアナ。そして――白騎士セレス」


 単騎で、東宮の兵を制圧する白騎士。


 地味な公爵令嬢が、なぜ強気でいられたのか。

 ようやく、理解した気がした。


「あいつ……ここまで戦力を持っていたのか……」


 騙された。

 いや――許可を出したのは、自分。


「……メイリーンを呼び出せ」


 ミサラサは、低く命じた。


「今度は欠席するな。――必ず、一人で来るよう、本人に伝えろ」


挿絵(By みてみん)

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