17 ジェラルドの強硬手段
前触れもなく、突然サロンに飛び込んできたのはジェラルドだった。今日は特に予定もなかったのか、白いシャツと黒のスラックスといったラフな姿だ。そんな乱暴な様子でありながらも、美しいバターブロンドの髪を揺らしながら、王子様のお顔は整いすぎて美しい。ただ、すこし眉尻を上げながら苛立ちを隠せないといった表情だった。そんなところも綺麗すぎて腹が立つ。
「殿下・・・せめてノックくらいしてください。」
私の一言に、ジェラルドは更にムッとした表情に変わる。
「エグモント、いるのだろう!ちょっと出ておけ!お前がいるとややこしい。ずっと頼んでいたのにリーズへの説得を断りやがって。」
「頼んでいた?」
「そうだ!エグモントに、リーズを卒業パーティーのパートナーになるようにしろとずっと言っていたのにエグモントはずっと俺の申し出を断り続けていた。」
思わずエグモントを見やると、エグモントはどこか遠いところを見ながら困ったような笑みを浮かべていた。ここ数日のジェラルドとエグモントのやり取りはそういうことだったのか。
「例え・・・例えエグモント様から私に殿下のお相手をと申し出られたとしても、お断りさせていただきました。」
「何故だ。俺はまだ相手を決めたくないんだ。リーズもだろう?それならお互い気心知れた者同士、後腐れなくパートナーを組めるだろう?」
ジェラルドの言いたいことは分からなくもない。彼はあまり異性に興味がないようだった。学園でもジェラルドへの黄色い声はあちこちから聞こえてくる。そんな女子相手に、当たり障りのない対応はすれども、どの子とも必要最小限しか会話すらしないし、近付けさせないオーラを纏っていた。お互い気心がしれているかどうかは微妙だが、ジェラルドにとっては私達姉妹だけは幼馴染ゆえの気軽さでこうして接することが出来る唯一無二の相手なのだろう。そもそも女という認識があるのかすら怪しい。
「殿下!勝手にいなくならないでください!」
パタパタと廊下を急いで来たのは、ローランだった。開けっ放しのドアからジェラルドを発見し、慌ててこちらに近寄ってきた。
ローランは、ジェラルド付きの近衛を続けている。今では最もジェラルドが信頼を置く腹心だと思う。というより、外面はともかく慣れ親しんだ相手へのジェラルドの対応を出来るのはローランくらいしかいない。こんな風に唐突に王城内で行方不明になったと思えば、いくら幼馴染とはいえども女子の部屋にノックもなしで押し入る王太子殿下がどこの世界にいるというのだ。
「お兄様。」
「リーズ、突然悪かったな。殿下はもう行くから。」
ローランは殿下の腕を取り、そこから引きずり出そうとする。
「おい!エグモント!ちゃんと説得しろよ!お前の仕事だぞ!分かっているか!俺が頼んでいるんだからな!」
ローランに引っ張られながら、更に騒いでいる。どれだけ俺様なのだ。本当にこの人は。ギャーギャー喚くジェラルドは、ドアに無理やり捕まってローランが連れて行こうとする力から逃れようとしている。まだ抵抗するのか。
「殿下。観念なさいまし。」
「何が観念だ!リーズがうんと言わないのであれば、俺は強硬手段に出る!」
強硬手段と?
よく分からないけれども、いつまで経っても中身がこんなので大丈夫なのだろうか。
現王家には直系の後継ぎがジェラルドしかいない。第1王位継承権は現王の一人息子であるジェラルドだ。本来はもっと兄弟姉妹がいれば良いのだろうけれども、王妃殿下があまり体が丈夫な方ではないため、結局ジェラルドしか子供が儲けられなかったと聞いている。ジェラルド自身も小さな頃は体が弱かったものの、今ではすっかり健康体だ。これは素直に良かったと思えるが、弱かった時にさんざん甘やかされてしまったおかげで今の性格が出来上がってしまった。まだ最近は外面は保とうとしているだけマシか。
そんな事情もあり、跡継ぎのことを考えると、本当に彼のお相手探しは早急にすべきなのだ。国内では難しそうだから、やはり他国から探さざるを得ないのだろうな。
この国の先行きが心配ではあるものの、ラオネルの巫女である私や伯母、ベアトリスがいる限りなんとかなるだろう・・・と思いたい。ラオネルの教えとしては、王家よりも巫女の存在が平和で平穏な世の中を作るのだから。政治的なことは王家を中心とした執務部のほうがやらなければならないから絶対に必要だけれども、いざとなればジョシュがいるし。ジェラルドを誰かが押さえておけば、多分、大丈夫。色々と不安だけど。
結局ローランに引きずられるようにジェラルドは去っていった。
「まるで嵐ですわね。殿下は小さな頃から変わりません。」
『それだけワガママを言わざるを得ないようなことを色々と考えているのかもね。』
エグモントが言う。不本意ではあるものの、ジェラルドの言うことにも一理あるといえば一理あるのだ。私とジェラルドがパートナーとして卒業パーティーに出席するのは一番”無難”ではあった。私は卒業生でないため強制参加ではないけれども、ジェラルドは絶対に参加をしなければならない立場故にお相手には相当慎重にならなければならないからだ。やはり私は“ちょうどいい”のだ。一緒に出席すれば、噂を立てられるかもしれないけれども、そんな噂はずっとある。だから今までの延長線上に噂があるだけで済むのだ。
そんなことは、エグモントも分かっている。けれどもエグモントは断りを入れてくれていた。なんとなく、素直にその事実が嬉しかった。エグモントが私のことを守ってくれているように感じられた。
翌日。
「本当に、本当に申し訳ないのだけれど。リーズ、シャルと一緒に卒業パーティーに出てくれ・・・」
「えぇえぇ・・・」
お昼休みに、突然ジョシュに頭を下げて頼み込まれた。まさかこんな強硬手段に出るなんて思ってもみなかった。
ジェラルドは、王太子と生徒会長という立場を最大限に利用し、今年の卒業パーティーを中止すると言い出したのだった。理由はパートナーがいないからだと言いやがっているらしい。
そんな強硬手段ある?!
「殿下もめちゃくちゃなこと言いますのね。お姉様がこれだけ全力で拒否しているのに・・・」
ベアトリスも同情の表情で私の腕に絡んできた。寄り添ってくれる妹は今日もかわいいのだがそれどころではない。
「リーズが不本意なのはよく分かる。生徒会総動員でリーズを守るから、頼む。もちろん当日のドレスとかアクセサリーは全部シャルに準備させるから、思う存分高いの請求してやってくれ!」
「いりませんわよ・・・だってそれ全部税金ですし。」
「殿下の個人資産から出させるから!」
「・・・もういいですわ。私一人が我慢すれば皆が幸せになれるならそれで。」
私一人が我慢すれば、卒業生の皆さん全員が幸せな気分で日過ごせるのだろう。もうそれでいいやと諦めざるを得なくなった。




