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亡き者と通じる加護の巫女  作者: あお
リーズ14歳

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17/53

16 ジェラルドからの手紙

 学校から王城へ帰ってきた後は、姉妹のサロンでイマキュリを撫でながら読書をして一人寛いでいた。イマキュリもここに来てからずっと一緒に居てくれる。気がつけばイマキュリは6歳になった。誰にでも懐く穏やかな性格の猫だ。

 今日は特に現の死者絡みで呼ばれることもなかったので、久しぶりにのんびりとした時間を過ごせている。既に巫女の加護の力も十分コントロール出来るようになった上に巫女教育や淑女教育はほぼ完了しているので、今は学校の勉強を頑張りつつ、巫女の仕事をするのが私の役割だった。ちなみに今読んでいる本は恋愛小説。だいぶ前に侍女とベアトリスが盛り上がっていた恋愛小説を今更ながら読まされている。確かにキュンキュンするような場面は分かるのだが、そういったお相手のいない私にとっては遠い世界の話にしか感じられない。ジョシュのような相手がいるベアトリスだからきっと楽しめるのだろう。エグモントが現実にいれば、実感できるのだろうなぁ。


 2年前、私が力の認定を受けてから最初にしたことは、エグモントの家族への報告だった。その時は、エグモントの通信役のようなことをした。エグモントの年の離れた弟は当時6歳。優秀な兄がいる上に、次男ということでのびのびと育っていたが、突如としてキルシュネライト侯爵家を継がなければならない存在となってしまっていた。そのため、エグモントの心残りはそこにもあった。やはり突然何の前触れもなく命を落とすと、心残りの数は多くなりがちだった。キルシュネライト侯爵夫妻もエグモントとのやり取りをわたしと通じてではあるもののとても喜んでくださり、それ以来時々夫妻に呼ばれてはエグモントとの通信をしている。侯爵家の跡取りとしての教育が始まった弟はまだ8歳ではあるが、エグモントの弟らしく優秀だそうで、少しずつエグモントの憂いも晴れてきているようだった。

 また、エグモントが以前に懸念していた先代のキルシュネライト侯爵、つまりエグモントのお祖父様にも会いに行った。キルシュネライト侯爵家の領地で彷徨っているとのことだったが、行ってみたら驚いた。エグモントが生まれるかなり前に亡くなられていた先代のキルシュネライト侯爵夫人、お祖父様の奥方でエグモントのお祖母様に当たる方だが、彼女も現の死者としてそこに居たのだ。つまり、お祖父様のことを心配して現の死者として残ってしまっていたお祖母様のことを心配し、お祖父様も現の死者として残ってお互いを探し続けていたようだったのだ。現の死者同士はお互いの存在を認識できないため、現状をお二人にそれぞれ説明するのに私が仲介役となり、二人は無事に次の生に旅立っていった。

 こういった事は割と多く、よく呼ばれる事案のひとつであった。お互いを愛し想い合っている相手だとこういうことになりやすい。現の死者のことがはっきり分かっていなかったため、現の死者同士が出会えると思っているから起こることだった。死してなお、いつまでもお互いのことを思い続けていられるのは素晴らしいなとその都度感動させられる。


 そんなことを思い出しながら、ぼーっとイマキュリを膝に乗せながら読書をしているとサロンのドアがノックされた。


「はい、どうぞ。」


 ドアが開くと侍女が入ってくる。


「リーズ様、こちらを預かってまいりました。」


 侍女が1通の手紙が乗ったトレーを私の前に差し出した。私はその手紙を手に取る。蝋封のマークは、・・・ん?ジェラルド?なぜジェラルドが私に手紙?今日も昼間学校の中庭で会って、エグモントに捨て台詞を吐きながら行ってしまったところなのにわざわざ手紙?

 疑問に思いつつも、封を開けてみる。すると、1枚のカードが同封されていた。なんだろうと思い、カードを開いてみる。


【卒業パーティーにパートナーとして出ろ】


 …はい?

 書いてある内容に目を疑った。何だこれ。なんで突然こんなものを送ってきたんだ。この手紙を持ってきた侍女を見やると、彼女はニコニコしていた。


「えぇと、これは王太子殿下からですわよね?」

「はい、ジェラルド王太子殿下からお預かりしてまいりました。」


 本物だ。この蝋封も偽装のしようもないし、本当にジェラルドからだ。というか、幼い頃から見慣れた筆跡だからこれが本人の書いたものに間違いないと分かるといえば分かるけれど、カードに署名すら無いのはどうかと思うよ。


「殿下は何かおっしゃられていましたか?」

「いえ、特に。これを渡すようにということだけです。それでは失礼いたします。」


 侍女は軽く会釈をすると、部屋から出ていった。一体ジェラルドはどういうつもりだというのだ。


 現在ジェラルドは最上級生。それもあと2ヶ月ほどで卒業である。わが校の卒業式の日は、夜には卒業パーティーが開催される。卒後はすぐに社交デビューとなる多くの貴族子息子女たちが参加し、その振る舞いについての最終チェックとも言わんばかりのパーティーとなっている。そのため、男女ペアのパートナーでの出席が基本だ。相手は婚約者がいれば婚約者、同級生同士で出ることもあるし、兄弟姉妹や親族でちょうどいい年齢の方に来てもらうこともある。とにかくペアでその場に立つということが必要で、そこでの振る舞いが適切なのかが重要なのであった。また、ちょうどいいお相手探しの場でもあった。ここで恋愛関係に発展し、先々婚約結婚と繋がるパターンも多いと聞く。

 今回の卒業パーティーは、王太子でもあり生徒会長もしているジェラルドの卒業年なので、ここ数年の中でも特に華やかできらびやかなものが準備されるであろうことは想像できる。つまり一番注目を浴びる人物がジェラルドである卒業パーティーなのだ。そんな主役ともいうべき人のパートナーを、何故私が務めなければならないのだ。ただでさえ、ジェラルドがいつまで経っても婚約者を決めないから私が候補筆頭などと噂されている理不尽な状況なのに、こんなところでパートナーを務めたらたまったものじゃない。また変な噂が広がってしまう。

 私はすぐに筆をとると、丁重にお断りの旨を書いて、人を呼んでジェラルドに届けてもらった。



 しばらくすると、サロンにエグモントが現れた。エグモントは神出鬼没だが、基本的にはキルシュネライト侯爵家か近衛騎士団詰所にいることが多いらしい。ローランが、エグモントが近衛の方に来ていたように感じたとよく言っている。


『溜息ついてどうかした?』

「あぁ、エグモント様。どうしたもこうしたもありません。もうすぐひとつ上の学年が卒業じゃないですか。卒業式といえば夜の卒業パーティーです。その卒業パーティーに、王太子殿下が私にパートナーになれと言ってきました。冗談じゃないでしょう。」

『あー・・・』


 エグモントが苦笑いをする。訳知りのような表情をしている。もしかして何か情報があるのだろうか。


「どうかしました?」

『いや、なんでもないよ。殿下は、そうだなぁ。リーズをどうしたいんだろうね。』

「全くわかりません。ただ幼馴染故に気安く考えているんじゃないでしょうか。私は殿下のパートナーだなんて絶対ごめんですけれどね。」

『だけれども、殿下もそろそろ婚約者くらいいないといけない歳になってきたからね。リーズ、もしもそういった打診を受けたらどうするの?』


 何を言い出すのだ。私はジェラルドとこの先を生きていくなんて絶対に嫌だ。私にはエグモントがいればそれでいい。思わず苦虫を噛んだような顔をしてしまう。エグモントはそれを見てクスクスと笑った。


『ごめんごめん。リーズが殿下のことそういう目では一切見ていないこと分かっていてからかってごめんね?でも、殿下がリーズのことを誘うのなんて分かりやすいよ。だって年頃の殿下に見合ったご令嬢はもう残っていないからね。』


 確かにそうなのだ。ジェラルドにちょうどいいくらいの年齢で身分が見合ったお相手は、国内には既にもういない。高位貴族ほど婚約は早いものなのだ。身分で探すならばものすごい年下か異国に求めるしか無いし、そうでないのならば身分差を超えてのお相手探しとなってしまう。”ちょうどいい”のは既に私くらいしかいないのだ。


「王太子殿下ともあろう人に、ここまでお相手を見つけられなかったのは国としても懸念すべきことなのはよく分かります。本当にもっと早くちゃんとお相手を見つけるべきだったのに・・・王太子妃教育もありますし、殿下のお相手探しが難しいことは分かりますけれども。」

『確かにここまで引っ張っているのは王家の失態といえば失態かな。けれど、ずっと狙いは一人だよ。』


 そういうと、エグモントはこちらへ近寄ってきて私の頬をそっと撫でた。ふわりとした感触。確かに触れられたり触れたりする感触はあるとはいえども、実際の感触とはまた少し違う羽のような軽さのその感触。

 膝の上に乗っていたイマキュリがぴょんと下りた。近付いてきているエグモントの体を通り抜けるように向こうの方へ歩いていく。一瞬エグモントの体とイマキュリの体が重なり合い、そしてすぐに向こう側にイマキュリが現れた。イマキュリには、見ることはもちろん感じることすら出来ないエグモント。

 その様子を見て、私にはエグモントがはっきり見えてはいるけれど、触れられる感触もなんとなくは分かるけれども。それでもやはりエグモントは現の死者なのだと実感してしまう。こんなにも好きなのに、こんなにも近いのに。絶対に手の届かない人。


『ごめん。触れてしまって。』


 エグモントが少し困ったような顔をしながら一歩後ろに引く。私の表情はきっと寂しさと切なさでいっぱいだろう。泣かなかっただけ頑張ったのではないだろうか。やはりこの人が大好きだ。どうしようもなく。



「おいリーズ!どういうことだ!」


 その時、唐突にサロンのドアが開く。

 ・・・ジェラルド。



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