第十五話 己の力
「そっちはどうやった!?」
「ダメ!いないよ!」
「ちっ!どこ行ったんや!」
こっちに聞こえるくらい大きな舌打ちをうったフレアは地面を蹴って悪態をつく。
(ヒュームの言う通りに森を駆け回って帰ってきたら子供がおらんくなったとかどういうことなんや!?少なくとも森の外に出ていく姿は見んかったけど。)
多くの大人達が子供を探し回り、フレアとヒュームも村中を探し続けたが見つからなかった。
「フレア様!家の子は大丈夫なんでしょうか!?」
「フレア様!わ、私の娘は!?」
「フレア様!孫の姿が!」
そう。
今こんなにも皆がパニックに陥っているのはいなくなった子供が一人ではないからだ。
確認出来た数だけで十数人が突然として姿を消した。
(ど、どうしてや。確かにあの子達は昼まで私と遊んでたのに。)
フレアは昼休憩が始まる前からずっと子供達と遊び、昼食場所も一緒に行っていたはずなのに気が付いた時には忽然と音もなく子供達の明るい声が消えていた。
(まさか、誰かの魔法?)
フレアの脳裏に通った一つの疑問だったがすぐに首を振った。
(いや、この村で魔法を使える者は限りなく少ないし、人を消せる魔法なんて聞いたことがない。)
「ヒュームちゃん。」
フレアが顎に指を当てて路頭に迷っていたその時、誰かがそうポツリと呟いた。
何を言ったわけでもないのにその場にいた大人達が一斉にヒュームに目線を向けた。
「君は何も知らないの?」
「そう言えばあんた皆を混乱させてたよな!」
「そ、そうね。どうして急にあんなことを言い出したの!?」
「ま、待って皆!ヒュームはさっきまで気絶しとったんやで!?しかも、それに関しては本人から頭痛があった時の話を聞いたはずや!」
まずいと感じたフレアは咄嗟にヒュームの前に飛び出て、守る壁として立ち塞がる。
「どいてくださいフレア様!頭痛がしたからと言う理由がそもそもがおかしいんですよ!」
納得してくれたはずの事情を掘り返した一人のエルフにつられて他のエルフ達もそうだと立ち上がる。
「避難場所に行く時、確かに私はヒュームに任せた。でも、子供達と一緒に行ったのは親である貴方達じゃないん!?」
「そ、それは...。」
「確かに子供達を連れていったのは私達だが!」
「だったらあの避難場所で子供と一緒にいた貴方達が一番知ってるはずや。」
大人達は熱くなる頭が冷えていくように状況を理解し、ばつが悪そうに目線を背ける。
「避難場所に着いて子供達は何処に行ったん?」
フレアの質問に皆はお互いの顔を見合いながら、代表を名乗る様に一人の男性が口を開いた。
「家の子は皆と遊ぶから避難場所内の集合場所に行くと言っていた。」
「家の子も。」
「俺のとこもだ。」
「確かにそれ以来あいつも帰ってきていない。」
おかしすぎる。
子供達全員が遊ぶために集合場所を決めていた?いや、まだそこはいいとして。
いつそれを全員に伝えた?
誰が伝えた?
それにヒュームの焦っていた声は子供達含めて皆が聞いていた。
先週襲われ、死者も出した戦いに皆が敏感なはずなのに遊ぶ誘いを出来る余裕なんてあるわけがない。
たとえ例外が居たとして誘えたとしても怖がって遊ぶ気分になんてなるはずがないのに。
「何で皆、子供達だけにしたん!?」
「私達大人には避難場所でやらないといけない事があるんです!その手順を取り決めるのにも時間がなく、かまってあげられる事も出来ないから。それならと思っていかせたんです!」
「わ、私は避難場所に行ったこと無いから分からないけど、手順なんて決まっているんじゃないん?」
「無茶言わないで下さいよ!だって今、私達には―」
『村長がいないじゃないですか!』
その言葉にフレアはいかに自分の義祖母の存在が偉大だったのかを再び実感させられ、そして、それは同時に自分が王族であるだけで何の力も無いことを再確認させてれた。
(おばあちゃんに皆を頼むって言われたのに...私は...。)
戦うことを主にしてきたフレアにとって皆を導くというのは大きな壁であり、実質初めての困難であった。
だが、皆の前で自分をさらけ出した今のフレアは皆を束ねる役目にある。
それを分かっているからこそ、この状況にフレアは不甲斐なさを感じ得ずにはいられなかった。
「責任の押し付けあいはやめようよ。」
私は皆が押し黙る状況に口を挟んだ。こんな関係もない人間に言われるのは癪だろうがエルフ達は私の言葉に歯を食い縛りながら頷く。
「そ、そうだな。私達も子供達が心配だ。話は後にしよう。フレア様、私達はどうすればいいでしょうか?」
フレアは指示を出す事に若干の恐怖と違和感を感じながらもその手を強く握りしめて己を奮い立たせた。
「私は外を見てくる。皆はもう一度中を探してみて。じゃあ、早速行動に―」
「フレア様ーー!!」
捜索を再開させようとしたその時、男エルフの声が皆の体を硬直させる。
男エルフは肩を上下させてカタカタと体を震わせ、自分が走ってきた方向に指を指した。
「こ、こ、子供が...。」
フレアはその一言を聞いた瞬間にはその羽で地を蹴っていた。
私もそれにならうようにフレアに付いていく。
それが目に映ったフレアは目を見開く。
(私のスピードに付いてこれている!?やっぱりヒュームはおばあちゃんの言う通りただ者じゃない?いや、今はそれよりも!)
ヒュームは自覚なく、飛んでいるフレアを見失うまいと動くき、ほぼ同時に探していた存在を見つけることが出来た。
そこは森の出入口付近での事であった。
私達二人はその子を見て鳥肌がたった。
服はボロボロで頭から血が出て、キレイな透明の羽は片方が機能していなかった。
ヒュームとあの時一緒に避難場所に行ったあの女の子であり、フレアと一緒に花冠を作った女の子だった。
フラつく足取りで倒れかかった女の子の体を二人で支える。
「そ、そんなぁ。何が、何があったんやぁ...!何でこんなにも。」
女の子はフレアとヒュームの腕の中で正に虫の息のように『ヒュー...ヒュー...』と息をし、どうすればいいのかパニックに陥っていたヒュームの腕を弱々しく握る。
「み、皆...行っちゃった...。止められなかった...。昨日からおかしかった...から。...ごめんね...。」
フレアは己の弱さを恨んだ。己の無知を憎しんだ。己の甘さに口から血を流した。
なにより何が起きているのかが未だに理解出来ていない自分自身が許せなかった。
だけど、段々と分かってきた。
昨日からおかしかった。止められなかった。
この子が止めようとしていた子供達が本物だとするなら自分が見たあの子達は誰だったのだろうか。
簡単だ。最初からあの子達に似せた偽物。
そして、自分含めて全員が騙された。
怒り、憎しみ、悲しみ、哀れみの感情がフレアを形相へと変えていく。
しかし、フレアの顔は少女のポケットからチョロリと見える一枚の布に全てをかき消された。
「な、何で君が...。」
フレアが取り出したのは私も見覚えのある風呂敷だった。
「お、おばあちゃんの風呂敷...!」
だが、少女の口から答えが出ることはなく、暗い世界に意識が落ちていった。
「ごめんヒューム。」
フレアは抱いていた女の子を私に託し、背負っていた弓の玄をビンビンと弾いて、足首と手首を回した。
「待ってフレア!おばあちゃんもいないのにフレアまで居なくなったら皆はどうするの!?」
「そのために探しに行く。」
「それで襲われたら本末転倒じゃん!」
「そうやね。ごめん。言い方を間違えた。私は私のためにおばあちゃんを探しに行く。」
「フレア!?」
フレアには私の声も届かず、その場を飛んでいってしまった。本当なら今すぐ追いかけて止めに行きたい。
だけど。
『ヒュー、ヒュー』
今はこの子を助けなくては。
そう判断し、私はフレアとは真逆に走って、皆の元に戻るのであった。




