第十四話 不確実な未来と確実な不安
「ヒュームちゃーん。そっちはどうだい?」
「あ、大丈夫でーす!」
木材に石材、数ある資材を巧みに組み合わせ、頑丈に作った砦を村の入り口に繋がる林の外に起こした。
これまでに何度も砦を壊されては作り直してきた職人達の仕事は凄まじいまでに早く、あっと言う間に完成である。
昨日の時点でほとんど終わっていたのだが、砦を作った切りの良いところで作業を終了し明日である今日に砦を起こす作業を行っている。
フレアはと言うと今日も子供達のお世話係としてヘロヘロに弄ばれている。
「よぅし!砦も起こしたし、皆で昼の休憩を取ろう!」
汗をふき、水の入ったボトルをがぶ飲みするエルフの男達に混ざって力作業をしているのは私個人の願いたっての事だ。
この体は不思議な事に力を使う事をしていくと筋肉が盛り上がって、歯止めがない様に体力がついていく。
もしかすると私の体は記憶を無くす以前の力を戻しつつあるのかもしれない。
村に戻ると広場で昼御飯の準備をしている女性エルフ達と元気一杯の子供達、そしてついでのようにヘトヘトに疲れたフレアが手を振っていた。
お米を三角に握った物と味噌汁とエルフ特製の大根の漬け物を貰う。
塩気の効いたお米が舌の上で踊って唾液が溢れ出し、味噌の香りが口一杯に広がって、大根のガリガリ音が音楽を奏でる。
質素かつシンプル。
だからこそ疲れた体にはそれらが極上の品に感じる。
「今日は何をしたの?」
「今日も鬼ごっこが中心やな。筋肉痛とまではいかんけど足がパンパン。」
「楽しそうでなにより。」
「他人事やからって...。」
小さくため息をついたフレアは少しワイルドな口調とは似合わない小さな口でお米をかじって飲み込む。
「あ、そう言えば今日あの子おらんかったなぁ。」
空を見上げながら思い出したことを独り言の様に呟いたフレアに私は『あの子?』と疑問を投げた。
「昨日、おばあちゃんに花の冠を作ってあげたいって言ってた子供なんやけど。」
「そうなんだ。気分でも悪いんじゃない?」
「う~ん。それはちょっと心配やけどなぁ。」
「居ないっていったらおばあちゃんも朝から居なかったよね。」
今日の朝、おばあちゃんのアラームが無くとも奇跡的に寝室から姿を出した私達は朝食もなく、朝の洗濯もされていない状況に置かれていた。
最初はどこに行ったのだろうと部屋を探し回った私達であったがきっとすぐに帰ってくるだろうと判断し、そこまで心配はしていなかった。
「いや、おばあちゃんは大丈夫やと思う。台所に風呂敷が無かったから森の外に出て人間の村に買い出しに行ってるかも。」
「人間の村があるの!?」
朝には聞かされていなかった衝撃の事実に私は米を飛ばしながらフレアに詰めより、フレアは顔に飛んだごはん粒を不機嫌そうに取って教えてくれる。
「って言ってもそこまで近くないって聞くけど。私自身も行ったことないし、距離事態もあまり知らん。でも、おばあちゃんはたまにそこに行って色々買ってきてくれる。」
「でも黙って行くのかな?」
「...確かに黙って行く事は無かったけど、毎回行くときは何やら私に誤魔化して行こうとしてたし。多分興味を持たれないようにするためや無い?」
「そんなもんかな?」
「...。」
そんな事を言いつつも実際全く心配していない訳じゃなさそうだ。その証拠に長く伸びる彼女の耳が少し垂れぎみなのである。
「ま、それはおばあちゃんが帰って来てから聞いたらええやん。今は最後の片付けに皆で取り組も。」
「...うん。そうだね-っあ!?」
私がその場を立ち上がろうとしたその時。
頭に激痛が走ってその場にうずくまってしまう。
「ヒューム!?」
フレアは昼食が乗っていたお皿をその場に投げ捨てて私の下に駆けつける。
異変に気が付いた他の者達もまた私の体をさする。
「通してくれ!」
エルフの医者はヒュームの腕を触って脈をみる。そして、おでこを触って熱を確かめる。
「脈が安定していないが、熱は大丈夫そうだ。ヒュームちゃん!聞こえるかい!?ヒュームちゃん!」
何の応答もなく、悶えるヒュームに医者は首を横に振る。
「ヒュームは大丈夫なん?」
「収まるのを待つしかないようだ。日陰のあるところに連れていきしばらく様子を見よう。」
ヒュームを持ち上げた男達はとりあえずそばにあるベンチに寝かせて冷えたタオルを顔に乗せた。
「フレア様、この子がこのような状態になるのは何度かありましたか?」
フレアは首を横に振って応答する。
「そうですか。分かりました。まぁ、今は彼女が目を覚ますのを待つしかないですね。」
そんなやり取りが聞こえてくる最中、私の意識は段々と薄れ、朦朧とする世界が別の世界を作り出す。
『やめてぇ!』
『家の子なんだぁ!』
『フレア様!フレア様!』
泣き叫ぶ大人達は燃え盛る炎の渦の中で弓を背負う少女に助けを求め拝む。
『いやぁぁぁ!!』
だけど、映像に映るフレアは炎に光るその場に膝を崩し不気味な赤色に犯される木々の空に叫び泣いていた。
多くの血が飛び交い、砦は破壊されエルフの森は全て焼き尽くされる。
そして、燃えきった森の陰から姿を見せるのは世界の災厄と一人のエルフだった。
「はっ!」
「ヒュームちゃん!大丈夫かい?」
そう私に問いかけるのはエルフの医者。その横にはフレアと大勢の大人達が私を囲っていた。
「良かった。十分くらい目を―」
「フレア!」
私は医者の言葉を遮ってフレアの腕を力強く握った。
「森の周辺を見てきて!」
「ヒューム?どうしたんや起きていきなり」
「確証はないけど、もしかしたら奴らが来てるかもしれない!」
「「「「「!?」」」」」
ヒュームの一言は皆の胸に疑問ではなく不安を大きく与えた。
「ま、まってや!どうしたんや!?何で奴らが、まずは落ち着いて―」
「そんな事を言ってる暇は―」
「ヒューム!」
フレアはヒュームの口を強く押さえ込み不安に満ちる皆の目を舌打ちしながら確認し、ヒュームの耳元で、小声で焦りと少しの怒気を混じらせ囁く。
「何でヒュームに奴らが来るのかが分かってるのかは知らんけど、私も含めて皆、奴らに怯えながら生きてきた。そんな皆の前で確証もなく叫ぶのは無駄に不安を感じさせるだけや。」
それにとフレアは続ける。
「ただの勘違いでしたじゃ、許してもらえても良く思わないのは確実やろな。だから、それ以上は。」
フレアの説得のおかげで何とか落ち着くことは出来たが、皆の恐れる声が止まらない。
「大丈夫やとは思うけど一応見には行ってくる。だから皆の避難は任せる。それじゃ行ってくる。」
そのままフレアはその場を飛び去っていき、私は取り乱した事の謝罪と責任を持って皆を避難場所へ連れていった。
結局の所、フレアの巡回で奴らが現れる事はなかったし、それらしき影も見つからなかった事が確認出来たのはフレアが帰ってきた夕刻。
あの様な頭痛があった時の事を話しをするとありがたいことに皆は納得してくれた。
そのおかげで私が皆から責められる事は無かったがやはり不快感を抱かずにいられなかった人がいたこともまた事実。
だけど私はまだ納得出来ていなかった。あれがもし未来だったとしたのなら、近い未来エルフ達に災いが訪れる。
そんな確信的な不安が私の中でうごめき。
そして。
「あれ?家の子は?」
動き出した。




