第十ニ話 ずっと続いて欲しいもの
「はぁぁぁ...。」
食卓に頬をベタリとつけていたフレアの口から出てきたのは魂ごと出ていくのではないかと思うほどの大きなため息。
夕食を食べ終わった後で、おばあちゃんが寝室に行っていたからいいものの普通なら行儀が悪いと大目玉をくらっている。
「どうしたの?」
何の疲れかなんて容易に想像出来るが、私はあえて「あはは」と空笑いしながら聞いた。
「どうしたの?じゃないでぇ。ホンマに疲れたわぁ。」
「子供達?」
「あの子等の体力は無限やで。鬼ごっこが終わったら今度は競争。やっと終わったかと思えば空に飛んでおいかけっこ。それで皆の作業が終わったら笑顔でバイバイ言うてるしな。」
化けもんやん。と死にかけの声色で吐き出した文句とも受け取れる悪態に、自分がその立場だったらと思うと笑えなかった。
子供の優先順位は『楽しさ』であるからして『疲れ』などその次の次の次ぐらいにしか考えていない。
そんなモンスター達に一日中森を見張っているフレアでさえも肩で息をしている姿が脳裏に浮かぶ。
「楽しかった?」
「...ううん。」
話の流れからしてそこで頭を上下に振るやつなんていないだろう。
「じゃあどう思った?」
だけどそれをフレアに問い続ける理由はフレアの声にこの前の様な嘘らしさが感じられなかったから。
その直感は最早確信にさえ思えた。
絶対に大丈夫だとその後頭部を見て思えたから。
「う、嬉しかった...。」
フレアは首だけをクルリと回し照れ臭そうにそう言った。
「詳しく聞かせてよ。」
「えぇ...。」
そしてフレアは面倒臭そうな顔で嬉しそうに話し出す。
今から数時間前。
一人、子供達と一緒に取り残された私の腰よりも小さい天使達に囲まれていた。それが悪魔だと知るのはその数分後である。
「何して遊ぶ?」
「何しよっかぁ」
「こんなにも人数がいるしねぇ。」
天使達は私のことなどお構いなしに普段と変わらないのだろうと思う会話をし始めた。
う~んう~んと迷っている子供達は最後に私の存在を思い出したかの様に振りかえった。
「お姉ちゃんは何がしたい!?」
「え!?」
突然の問いかけに私は思わず叫ぶ。だけどそこで何も言えないなんて年上として少し恥ずかしい。なら、無難な物でも言ってしまおう。
「お花摘みなんてどうや?」
私の中の精一杯の答えに子供達は。
「「「「「えっ...」」」」」
何か普通にドン引きしていた。
なんやかんや変な恥をかきつつも最終的には鬼ごっこに決まった。内心自分の知っている遊びで良かったと安心していたのもつかの間、人数が多いからと鬼の数と逃げる側の数を均等に分けるため用いた分け方が。
『グーとパー?』
私の知らないジャンケンだった。
幼い頃から遊び相手がビルズだけだったフレアにとって普通のジャンケン以外したことは勿論聞いたこともなく、その二種類によって分けられる事なんて知りる訳がなかった。
年上としての突然のピンチ。
だけどプライドにかけて知らないなんて口が裂けても言えない。名前からして大まかなイメージはつくけど、間違っていたらそれこそ大恥。
しかし、時間をかけすぎる訳にはいかない。どうすれば。
「じゃあ分けるよグっとパー。」
(あかん。やっぱりどうしようもない!)
変に覚悟したせいで予想していた行動に合わせる事も出来ず硬直して私以外はグーとパーだけを出している光景が広がる。
皆がポカーンと口を開けている光景に思わず鼻で笑ってしまうが。
「お姉ちゃんもしかして...。」
開き直ろうとし、明るく口を開けようとしたその時私は思わぬ形で救われることになる。
「グッとパー派じゃない?」
ん?
何それ。
派?は?
派ってなんだ?
「グッとパーで分かれましょ?」
「グッとパーで合った人じゃない?」
「グッパーグッパーグッパッパ?」
「「「「それはないでしょう」」」」
子供達は私の事を無視してキャッキャッと笑った。そして私は何で笑っているのかを理解するのに忙しかったが。
「お姉ちゃんはどれ?」
「一番最初のやつ。」
これまでにない幸運に身を任せるのだった。
そして、時間は今に戻る。
「いやぁ本間にあの時は焦ったわぁ。」
「ジャンケン知らない子なんて中々いないしね。」
「ジャンケンは知っとるわ!グッパーってやつを知らんかっただけやし。」
結局ずっとおいかけっこや鬼ごっこを繰り返し遊び、唯一の休憩時間はかくれんぼだったと言う。
因みに勝敗以外でジャンケンを知らなかったフレアはパーをだし続けたそうだ。
「それにしてもお花摘みなんて私も言わんよ?」
「うるさいなぁ。おばあちゃんと遊んでた時はずっと花摘んでたんや。あ、そう言えば。」
フレアは少し顔を赤面させてたが、思い出したかの様にまた話し出す。
「それでも一人だけおったんよ。遊び終わった後に花冠作りたいって子が。」
「へぇ。」
「しかもな、おばあちゃんに渡したいって言って一生懸命作っとったのがめっちゃ可愛かったんよ!」
おばあちゃん向けに作る子がいるなんてあまり想像出来なかったが、それならきっとおばあちゃんも頑張った甲斐があっただろう。
「あぁー。それでもやっぱ子供は苦手やなぁ。」
「そっかぁ。でも良かったじゃん。」
「何が?」
「前のフレアは本当の意味で子供を面倒臭いって言えてなかったから。」
「...。」
何も言い返せず、ぐうの音もでないフレアは、はぁーあ!っとわざとらしくため息を大きく付いてまたあっちを向いてしまった。
ハッキリ言って私はフレアの事をまだちゃんと理解もしていないし、フレアの先祖達に何があったのかも知らない。
だけど一つだけ分かったことがある。
それは確実にフレアは前よりずっと明るさが増した事だ。
作り物じゃない。本当の心から笑っている顔をこれからもずっと 皆に見せていて欲しいな。
だけど、私達は甘かったのだ。いや、忘れていた。
運命とは人が幸せと感じている時が一番歪みやすい事を。




