第96話 女三人寄れば
セトが修行に行ってから、数日が経った。
その間、ウチらはというと……。
「ねーねー、今日は買い物行かない?」
エイルさんの一言で、街に出ることになった。
「買い物?」
「そそ。せっかく人数も増えたし、色々見て回ろうかなーって。」
「ウチは賛成!」
こっちの世界に来てから、街をゆっくり見て回る機会って、意外となかったんだよね。
教会にいた時は訓練ばっかだったし、カインたちと合流してからも色々あったし。
「リムちも行くよね?」
「は、はい。私も……ご一緒していいのでしたら。」
「もちろん!」
エイルさんが笑う。
リムも、ちょっと嬉しそうだった。
……いや、ほんとにさ。
最初に会った時は、魔王の四天王だって聞いて、普通に警戒してたけど。
こうして何日か一緒に過ごしてみると、なんかもう……めっちゃ普通の女の子なんだよね。
むしろ、このパーティで一番まともなんじゃね?
そんなことを考えながら、ウチは二人についていった。
ちなみに。
「カインさん、僕も荷物持ちますよ。」
「ん? まだ何も買ってないよ?」
「……そうでした。」
男子二人も一緒である。
ファント、ちょっと張り切りすぎじゃね?
◇
街の大通りには、色んな店が並んでいた。
服屋に雑貨屋、食べ物を売ってる店。
見たことないものも結構あって、普通に楽しい。
「これ可愛くない?」
「おー、ミカち似合いそう!」
「マジ? ちょっと見てみよっかな。」
エイルさんが選んでくれた服を手に取る。
こっちの世界の服って、なんていうか、結構シンプルなんだよね。
でも、刺繍とか飾りが凝ってるものもあって、見てるだけでも面白い。
「リムはー?」
「わ、私は……今の服で十分ですので。」
「えー、せっかくだし見ようよ!」
「そうそう。リムち、たまには違う格好しよ?」
「えっ、あの……。」
二人で服を持って、リムに合わせてみる。
黒いフードを深く被ってるから普段はあんまりわかんないけど、リムって顔立ちめっちゃ綺麗なんだよね。
銀髪だし、耳も尖ってるし。
普通にファンタジーの美少女って感じ。
「これとか似合いそうじゃない?」
「おー、いいねー!」
「そ、そうでしょうか……?」
「絶対似合うって!」
リムが困ったように笑う。
……なんか、こういうのいいな。
普通に友達と買い物してる感じ。
いや、ウチはもう普通に友達だと思ってるけど。
◇
何軒か店を回ったところで、ウチはふと気になったことを聞いてみた。
「そういやさ、二人って普段どういうの使ってんの?」
「ん? 何が?」
「美容系。髪とか肌とか」
「びよう?」
リムが首を傾げる。
エイルさんも、少し考えていた。
「んー。髪はたまに油つけるくらいかなー」
「え、それだけ?」
「うん?」
「肌は?」
「普通に洗ってるよ?」
「…………。」
……待って。
いや、待って待って。
「リムは?」
「えっ。私も……特には……。」
「……マジ?」
「は、はい。」
ウチは二人を見比べた。
エイルさんは、健康的な褐色の肌に綺麗な青い髪。
スタイルもいいし、顔も整ってる。
ていうか、同性でも目のやり場に困るくらい、なんか、その……色々すごい。
リムはリムで、透き通るみたいな肌に銀髪。
ちょっと猫背で、いつもフード被ってるけど、普通にめちゃくちゃ可愛い。
……で?
特に何もしてない?
「……ずるくね?」
「え?」
「いや、なんでもない……。」
ウチ、向こうにいた時、結構頑張ってたんだけどなぁ。
スキンケアとか、ヘアケアとか。
メイクだって色々試してたし。
こっち来てからは、そもそも道具がないから困ってるのに。
この二人、ほぼ素材だけで勝負してる。
……強いわぁ。
「ミカち、どうしたの?」
「ちょっと現実の厳しさを感じてる。」
「?」
エイルさんが不思議そうな顔をした。
いや、あなたも原因の一人だから。
◇
「じゃあ、これ着てみよっか!」
「えっ!?」
エイルさんがリムに服を渡した。
さっき見つけた、淡い色のワンピース。
リムはしばらく服を見つめていたけど、やがて小さく頷いた。
「……わかりました。」
しばらくして。
「ど、どうでしょうか……?」
着替えたリムが、おずおずと姿を見せた。
「おおー!」
「え、めっちゃいいじゃん!」
黒いフードがないだけで、印象が全然違う。
銀髪が肩に流れて、普段は隠れてる顔もよく見える。
それに。
「…………。」
……ん?
ウチは、リムを見た。
何かの間違いかと思って、もう一度見た。
それから、エイルさんを見る。
……え?
「リム……それ、いつもどうやって隠してんの?」
「えっ?」
いやいや、ちょっと待てし。
普段の服、どんだけゆったりしてんの?
ていうか、猫背ってそんなに隠れる?
……いやいやいや。
エイルさんだけでも結構すごいと思ってたのに。
リムはこう……ヤバい。
「……マジかぁ。」
「ミ、ミカさん?」
「いや、なんでもない……。」
なんか勝手に負けた気がする。
エイルさんが、そんなウチを見てニヤニヤしていた。
「ミカち、気づいちゃった?」
「……知ってたんすかー?」
「そりゃねー。」
「…………。」
この人、絶対面白がってる。
「リムち、すっごく似合ってるよ!」
「あ、ありがとうございます……。」
「カインにも見せてあげれば?」
「えっ!? い、いえ! それは……!」
リムが慌てて顔を振った。
顔、真っ赤。
……あー、なるほどね。
ウチはなんとなく、二人のやり取りを眺めていた。
◇
一方、その頃。
「……カインさん。」
「ん?」
「それ、重くないですか?」
「大丈夫だよ。」
「……そうですか。」
ファントは、カインが抱えている荷物を見た。
服の入った袋。
雑貨の入った袋。
何かよくわからない包み。
さっき買った食べ物。
その他、色々。
最初は、二つか三つだった。
それが、店を回るたびに増えていった。
――そして今。
「……カインさん。」
「ん?」
「僕も持ちますよ。」
「ありがとう。でもまだ大丈夫。」
「いや……。」
ファントは、もう一度荷物を見た。
カインの両手は、既に塞がっている。
というか、随分前から塞がっていた。
なのに、なぜか荷物が増え続けている。
「……あの。」
「うん?」
「どうやって持ってるんですか、それ。」
「普通に持ってるけど?」
「…………。」
普通かぁ……。
ファントは考えた。
カインには、腕が二本ある。
それは間違いない。
しかし、今の荷物の量は、どう考えても腕が二本では足りない。
……いや、重さの問題ではない。
物理的に、おかしい。
「……カインさん。」
「ん?」
「腕、二本ですよね?」
「うん。」
「…………。」
ファントは、考えるのをやめた。
◇
「いやー、買った買った!」
エイルさんが満足そうに伸びをした。
リムも、買った服の入った袋を嬉しそうに眺めている。
「今日は楽しかったですね。」
「ねー!」
ウチも頷く。
なんかこういうの、久しぶりだったな。
友達と服見て、あれこれ言って。
別に何か特別なことをしたわけじゃないけど。
普通に楽しかった。
「ミカち、また行こうねー。」
「もちろん!」
「リムもね!」
「は、はい!」
リムが笑った。
……ほんと。
最初は、魔王の四天王だって聞いて、めっちゃ警戒してたのに。
今じゃ、そんなこと考える方が変な感じ。
魔族とか、人間とか。
そういうのは、まだウチにはよくわかんないけど。
――少なくとも、リムは普通にいい子だと思う。
「……あれ?」
そこで、ウチは気づいた。
「カイン、どこ?」
「んー?」
エイルさんが振り返る。
少し離れたところに、カインとファントがいた。
……いたんだけど。
「…………。」
なんか、荷物の山が歩いてる。
「……え?」
よく見ると、その下にカインがいた。
……いや、それどうなってんの?
「カイン、大丈夫!?」
「うん!」
荷物の向こうから返事がした。
「まだ持てるよー。」
「いや、そういう問題!?」
隣でファントが、ものすごく疲れた顔をしていた。
「……ミカさん。」
「ん?」
「僕、もう何も考えないことにしました。」
「……何があったん?」
「聞かないでください……。」
エイルさんが、楽しそうに笑っている。
リムは、カインの荷物を心配そうに見ていた。
そしてカインは……。
「そろそろ帰る?」
通常運転だ。
……うん。
やっぱりこのパーティ、リムが一番まともじゃね?
「ところで皆さん……その、この荷物持って旅を続けるんですか?」
……あ。
ファントの一言で、一気に現実見えた。
萎えるわー。
カインは荷物めっちゃ持てる。
あと倍は余裕。
原理は知らん。
ほら、異世界だし。




