↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
85/99

第82話 暗中模索

 あれから、しばらくの時間が経った。


 カインたちは街から街へと移動しながら、魔物の討伐を続けていた。


 街道に現れた魔物。


 森から出てきた魔物。


 人の生活圏にまで入り込んできた魔物。


 依頼を受け、討伐し、また別の街へ向かう。


 そんな日々を繰り返していた。


 そして、今日も。


「……あれ?」


 依頼の掲示板を眺めていたセトが、首を傾げた。


「どうしたの?」


 隣にいたカインが尋ねる。


「いや、なんか減ってね?」


「何が?」


「討伐依頼。」


 セトが掲示板を指さす。


「前はもっと、魔物の討伐ばっかりだった気がするんだけど。」


「……そういえば。」


 カインも掲示板を眺めた。


 魔物の討伐依頼は、相変わらず多い。


 だが、少し前と比べれば、確かに減っているようにも見える。


「んー、言われてみればそうかもねー。」


 エイルが横から覗き込む。


「護衛とか、採取とか、普通の依頼も目立つようになってきた感じ?」


「ですよね。」


 リムも小さく頷いた。


「……魔物が、減ってきたのでしょうか。」


「だったらいいんだけどな。」


 セトが腕を組む。


「でも、こないだの街じゃ結構いたよな?」


「うん。」


 カインが頷く。


 ここまでの旅でも、魔物の数が大きく減ったという実感はなかった。


 討伐依頼は少し減っている。


 けれど、魔物そのものが少なくなったのかはわからない。


「……ああ、それでしたら。」


 不意に、背後から声がした。


 振り返ると、受付の職員が立っていた。


「最近、各地で討伐が進んでいるそうですよ。」


「そうなんですか?」


「はい。皆さんのように依頼を受けてくださる狩人の方々もいらっしゃいますし……。」


 職員が少し嬉しそうに笑う。


「新しく召喚された英雄様が、随分とご活躍されているそうです。」


「……英雄?」


 カインが聞き返した。


「はい。」


「あー、そういや言ってたな、そんなに強いんだなー!」


 セトが目を輝かせる。


「そういえば、父さんも召喚されたんだよね。」


「お前の親父さんは別格だろ。」


「そうかな?」


「そうだろ。」


 セトが即答した。


 エイルがくすくすと笑う。


「まあ、イサナも最初からあんなに強かったわけじゃないけどねー。」


「そうなの?」


「リアさんに聞いた話だけどね、おねーさん途中加入だし。」


「へぇ……。」


 カインが少し興味深そうに頷く。


「それで、その英雄様ってどんな人なんですか?」


 セトが受付の職員へ尋ねた。


「詳しいことまでは存じませんが、魔法が非常にお得意な方だそうですよ。」


「魔法かー!」


「しかも、一度に何体もの魔物を討伐されたこともあるとか。」


「すげぇな!」


「そうだね。」


 カインも素直に感心した。


 魔物をまとめて倒せるほどの魔法。


 自分たちとは、また違う戦い方なのだろう。


「助かるね。」


「だな!」


 セトが笑う。


「俺らも負けてらんねぇな!」


「別に競争じゃないでしょー。」


 エイルが呆れたように笑った。


「でも、討伐してくれる人が増えるのはいいことだよね。」


「はい。」


 リムが頷く。


「被害が減るのでしたら……嬉しいです。」


 カインも同意した。


 誰が倒したかなんて、関係ない。


 困っている人が減るのなら、それが一番だ。


「さて、どうする?」


 セトが掲示板を見上げる。


「今日も討伐行くか?」


「……んー。」


 カインは少し考えた。


「ねえ、みんな。」


「ん?」


「ちょっと、気になってることがあるんだけど。」


     ◇


 依頼窓口を出た四人は、近くの食堂へ入った。


 昼にはまだ少し早い時間。


 店内には空席も多く、落ち着いて話ができそうだった。


 それぞれ飲み物を頼み、席につく。


「で、気になってることって?」


 セトが尋ねた。


「魔物のこと。」


「魔物?」


「うん。」


 カインは少し言葉を探した。


「俺たち、ずっと魔物を倒して回ってるよね。」


「そうだな。」


「でも、なんでこんなに増えてるのか、まだわかってない。」


「……あー。」


 セトが頷く。


「確かにな。」


「討伐する人が増えたから、依頼は減ってきてる。でも……。」


「原因がそのままだったら、また増えるかもしれないってこと?」


 エイルが続きを引き取った。


「うん。」


 カインが頷く。


「何か、調べられないかなって。」


「なるほどねー。」


 エイルが腕を組んだ。


「でも、どこから調べる?」


「それなんだよね。」


 カインが苦笑する。


 魔物が増えている。


 凶暴になっている。


 それは、各地を回るうちに何度も見聞きしてきた。


 だが、その理由については何もわからない。


「魔物が増えてる場所を調べる、とか?」


 セトが言った。


「増えてる場所?」


「ほら、いっぱい魔物がいる場所なら、何かわかるかもしれねぇじゃん。」


「……魔物が多い場所。」


 カインが考える。


「危険地帯、とか?」


「お、それそれ!」


 セトが頷いた。


 危険地帯。


 人間領と魔族領の間に広がる、強力な魔物が生息する地域。


 普通の狩人なら、そう簡単に踏み込める場所ではない。


「んー……。」


 エイルが少し難しい顔をした。


「確かに魔物は多いけど、あそこは元々そういう場所だからねー。」


「そっか。」


「それに、危険な魔物も多いし。調べに行くにしても、簡単じゃないよ?」


「うん。」


 カインは頷いた。


 危険地帯が原因だと決まったわけではない。


 ただ、手がかりがあるかもしれない。


 それだけだ。


「……あの。」


 それまで黙って話を聞いていたリムが、小さく声を上げた。


「どうしたの?」


「危険地帯のお話で……少し、思い出したことが。」


「何?」


「……ジェイド様のことです。」


「…………。」


 セトが動きを止めた。


「……あいつ?」


「はい。」


 リムが頷く。


「以前、危険地帯でお会いしましたよね。」


「あー……。」


 エイルが思い出したように声を漏らす。


「そういえば、あそこもギリギリ危険地帯だったねー。」


「うん。」


 カインも頷く。


 あの時のことは、よく覚えている。


 ジェイドとの再戦。


 修行の成果を試すように挑み、全力で戦った。


 だが、今考えてみれば。


「……なんで、ジェイドはあそこにいたんだろう?」


 カインが呟いた。


「さあな。あいつ、強い奴と戦えりゃどこでもよさそうだし。」


 セトが肩をすくめる。


「それは否定できないねー。」


 エイルが苦笑した。


「……ですが。」


 リムが続ける。


「ジェイド様は、四天王です。」


「うん。」


「魔王軍のお仕事で、あちらにいらした可能性もあると思います。」


「仕事?」


「はい。」


 リムは少し考えながら話す。


「魔族の領地でも、魔物の討伐は行っています。街の近くまで魔物が現れれば、当然、被害が出ますから。」


「……そっか。」


 カインが頷いた。


 人間も魔族も、魔物の被害を受ける。


 それは、何も不思議なことではない。


「私が魔王城にいた頃も、魔物への対応は行われていました。ですから……。」


 リムは少し視線を落とす。


「ジェイド様も、魔物の討伐に向かわれていたのかもしれません。」


「……なるほど。」


 エイルが頷く。


「それなら、あんな場所にいたのも説明できるね。」


「でも、あいつが真面目に仕事するか?」


 セトが首を傾げた。


「……魔物と戦えるお仕事でしたら。」


 リムが小さく答える。


「……あー。」


「……うん。」


「……なるほどねー。」


 三人が揃って納得した。


 ジェイドなら。


 むしろ、喜んで引き受けそうだった。


「じゃあ、魔族の方でも魔物が増えてるのかな。」


 カインが尋ねる。


「……可能性はあると思います。」


 リムが答えた。


「ただ、私も今の魔王軍の状況はわかりませんので……。」


「そっか。」


 カインは少し考えた。


 人間領では、魔物の被害が増えている。


 魔族領でも、同じことが起きているのかもしれない。


 そして、その間には危険地帯がある。


「……やっぱり、一度行ってみたいな。」


「危険地帯?」


「うん。」


 カインが頷く。


「原因があるかどうかはわからないけど、何か手がかりが見つかるかもしれない。」


「んー……。」


 エイルが考え込む。


「まあ、調べてみる価値はあるかもね。」


「だろ?」


 セトが笑う。


「魔物がいるなら、ついでに倒せるしな!」


「セトは単純だねー。」


「なんだよ!」


「褒めてる褒めてる。」


「絶対褒めてねぇだろ!」


 エイルが笑う。


 カインもつられて笑った。


「でも、エイルの言うとおり、危ない場所だから。」


 カインが改めて口を開く。


「いきなり奥まで行くんじゃなくて、まずは周辺から調べてみよう。」


「それならいいと思うよ。」


 エイルが頷く。


「リムちはどう?」


「……私も、ご一緒します。」


 リムが静かに答えた。


「魔族の領地にも関係があるかもしれませんし……何か、お役に立てることがあれば。」


「ありがとう。」


 カインが笑う。


 リムも小さく微笑んだ。


「よし!」


 セトが勢いよく立ち上がる。


「じゃ、決まりだな!」


「まだ飲み物残ってるよ。」


「……あ。」


 セトが自分の杯を見る。


 エイルが吹き出した。


「もう、ほんと落ち着きないんだから。」


「うるせぇ!」


 四人の笑い声が、食堂に広がった。


     ◇


 危険地帯。


 人間領と魔族領の間に広がる、魔物の生息地。


 そこには、まだ誰も知らない何かがあるのかもしれない。


 あるいは、何もないのかもしれない。


 それでも。


 ただ魔物を倒して回るだけでは、わからないこともある。


 カインたちは、次の目的地を決めた。


 そして、その頃。


 同じように魔物を討伐して回る、もう一組の旅人たちがいた。


 新しく召喚された英雄と、その補佐役。


 まだ互いの顔も知らない二組。


 その道が、少しずつ近づき始めていた。

JKとちょっとずつ近づいていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続きが気になったら、ブックマークしていただけると嬉しいです。 ★評価も励みになります。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。