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第78話 人が集まるとこには

「さて。」


 街を出てしばらくして、エイルが口を開いた。


「次、どこ行こっかー。」


「そういえば、決めてなかったね。」


 カインが答える。


「とりあえず狩人の依頼を見る、って話だったよな。」


「うん。」


 セトの言葉に頷く。


 魔物が増えている。


 以前よりも凶暴になり、街や人を襲うことも多くなっているらしい。


 なら、自分たちもできることをしよう。


 そう決めて、再び旅に出たのだが。


「……どこ行けばいいんだろ。」


「それなんだよねー。」


 エイルが少し考える。


「魔物が増えてるって言っても、どこでどれくらい被害が出てるのか分かんないし。」


「近くの街で依頼を見ればいいんじゃね?」


 セトが言う。


「それでもいいけどねー。」


「何かあるの?」


「んー、せっかくだし、情報がいっぱい集まるところに行ってみるのもいいかなーって。」


「情報?」


「そう。人が多いところには、色んな情報も集まるからね。」


「ああ。」


 カインは頷いた。


「じゃあ、大きい街?」


「そうそう。」


 エイルが笑う。


「前に行った、一番大きい街とかどう?」


「……ああ!」


 カインは思い出した。


 王族が住んでいる、人間の国で最も大きな街。


 初めて訪れた時は、その大きさにも、人の多さにも驚いた。


「いいね。あそこなら色々分かりそう。」


「だよねー。」


「俺もいいぞ。」


 セトが頷く。


「店もいっぱいあったしな。」


「今回は観光じゃないよー?」


「分かってるって。」


「本当に?」


「……飯くらい食ってもいいだろ。」


「それはいいけどねー。」


 エイルが笑った。


「リムちは?」


「はい。私も、賛成です。」


「じゃ、決まりだねー。」


 エイルが進行方向へ目を向ける。


「また都会に行こっか。」


     ◇


 それから数日。


「……やっぱでかいな。」


 街を前にして、セトが呟いた。


「前も同じこと言ってたよ。」


「でかいもんはでかいだろ。」


「まあね。」


 カインも笑う。


 遠くまで続く城壁。


 大きく開かれた門。


 そこへ向かう人や馬車の列。


 以前来た時と変わらない光景だった。


「懐かしいねー。」


 エイルが言う。


「そんなに前でもないけど。」


「でも、色々あったからねー。」


「確かに。」


 カインは頷いた。


 あの時は、ただ街を見て回った。


 店を覗いて、知らないものを見つけて。


 リムに髪飾りを買ったのも、この街だった。


「…………。」


 ふと、リムを見る。


 黒いフードの下。


 銀色の髪に、見覚えのある小さな髪飾りがついていた。


「リム、それ使ってくれてるんだ。」


「……えっ。」


「髪飾り。」


「あ……はい。」


 リムがそっと髪に触れる。


「大切にしています。」


「そっか。」


 カインは笑った。


「似合ってるよ。」


「…………!」


 リムが俯く。


「……ありがとうございます。」


「うん。」


 その様子を見て、エイルが小さく笑った。


「……さて、行こっかー。」


     ◇


 街へ入る。


 相変わらず、道は広い。


 建物も多く、行き交う人の数も、自分たちが普段訪れる街とは比べものにならない。


「やっぱ都会はすげぇな。」


「また言ってる。」


「だってすげぇだろ。」


「それはそうだけど。」


 カインも辺りを見回す。


 以前見た武器の専門店。


 服や靴を売る店。


 旅道具を扱う店。


 どれも変わらず営業していた。


 だが。


「……なんか、前と違わない?」


 カインが呟く。


「ん?」


「いや、なんとなく。」


 人は多い。


 それ自体は前と同じだ。


 けれど、何かが違う。


 道を行く馬車の中には、荷物だけでなく、武器を持った人たちが乗っているものもある。


 通りを歩く人たちも、以前より狩人らしい格好をした者が多いように思えた。


「……ああ、確かにねー。」


 エイルも辺りを見回す。


「狩人が多いかな。」


「そうなの?」


「うん。あっちにもいるし、向こうにも。」


 指差した先には、武器を背負った数人組。


 別の方向にも、防具を身につけた者たちが歩いていた。


「何かあったんですかね……。」


 リムが小さく言う。


「多分、魔物のことじゃないかなー。」


「……やっぱり?」


「まだ分かんないけどね。」


 エイルが肩をすくめる。


「とりあえず、狩人の依頼を見に行こっか。」


     ◇


 狩人の依頼を扱う役所へ向かう。


 だが、近づくにつれて、カインたちは足を緩めた。


「……人、多くね?」


 セトが言う。


「多いね。」


 カインも頷く。


 建物の前には、何人もの狩人が集まっていた。


 中へ入っても、それは変わらない。


 受付で話をしている者。


 依頼の紙を見比べている者。


 仲間と相談している者。


 あちらこちらから声が聞こえてくる。


「……なんか、すごいな。」


「前も人は多かったけどねー。」


 エイルが言う。


「こんな感じじゃなかったよね。」


「うん。」


 カインも覚えている。


 大きな街だから、狩人の数も多かった。


 依頼も、それなりにあった。


 けれど。


「……あれ。」


 カインが掲示板を見た。


「…………。」


 紙が、びっしりと貼られている。


 一枚や二枚ではない。


 空いている場所を探す方が難しいほどだった。


「……多くない?」


「多いな。」


 セトも覗き込む。


「これ、全部依頼?」


「そうみたい。」


 カインは手近な一枚に目を通した。


 魔物の討伐依頼。


 街道に現れた魔物の群れを倒してほしい、という内容だった。


 隣の紙を見る。


 こちらも、魔物の討伐。


 さらにその隣。


 また、魔物。


「…………。」


 カインは順番に紙を見ていった。


 畑を荒らす魔物。


 街道を襲う魔物。


 人里近くに現れた魔物。


 商人の護衛を求める依頼もある。


 だが、その理由はやはり、魔物の被害が増えているからだった。


「……魔物ばっかりだ。」


「ほんとだねー。」


 エイルも掲示板を眺める。


「しかも、結構広い範囲から来てるみたい。」


「どういうこと?」


「依頼を出してる街が、あちこちなんだよね。」


「ああ。」


 カインも改めて依頼を見る。


 ここから近い街。


 少し離れた街。


 聞いたことのない場所からの依頼まである。


「……こんなに増えてるんですね。」


 リムが小さく呟く。


「魔族の方でも増えてるって聞いてたけど……。」


「人間の方も、相当みたいだねー。」


 エイルが答える。


「……で。」


 セトが掲示板を見上げる。


「これ、どれ受けんの?」


「…………。」


 カインはもう一度、並んだ依頼を見た。


 どれも、魔物に困っている人たちからの依頼だ。


 街道を通れなくなった人。


 畑を荒らされた人。


 街の近くに魔物が現れて、不安を抱えている人。


「……いっぱいあるね。」


「あるな。」


「全部は無理だよー?」


 エイルが苦笑する。


「分かってる。」


「じゃ、まずはどこからにする?」


「んー……。」


 カインは考える。


 依頼の内容。


 場所。


 魔物の種類。


 どれも、簡単に決められるものではない。


「……ちょっと、ちゃんと見てみようか。」


「だねー。」


 エイルが頷く。


「せっかくここまで来たんだし。」


 カインたちは、掲示板の前で依頼を見比べ始めた。


 以前、この街を訪れた時。


 人が多ければ、それだけ色んなものが集まるのだと知った。


 物も。


 仕事も。


 知らないものも。


 そして、今。


 人が集まるところには、情報も集まる。


 困っている人たちの声も、また。


 カインは一枚の依頼へと手を伸ばした。

仕事がたくさん、いいのか悪いのか

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