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第77話 いつも通り

 夕食。


 テーブルの上には、所狭しと料理が並べられていた。


 焼いた肉。


 野菜を煮込んだスープ。


 色とりどりの野菜を使った料理。


 焼きたてのパン。


 久しぶりに帰ってきた息子と、その仲間達のために用意されたご馳走だった。


「うまっ。」


「よかったわ。」


 セトの言葉に、リアが嬉しそうに笑う。


「いっぱいあるから、遠慮しないでね。」


「うっす!」


「……お前、昼からずっと食ってねぇ?」


 イサナが呆れたように言う。


「昼は昼だろ。」


「今は?」


「夜。」


「そうじゃねぇよ。」


「でも、うまいぞ。」


「知ってるよ。俺の嫁の料理だぞ。」


「親父、これ取って。」


「お前もか。」


 イサナが皿をカインへ渡す。


「ありがと。」


「はいはい。」


 そんな二人の横で、リムは小さくスープを口に運んでいた。


「……おいしいです。」


「あら、嬉しい。」


 リアが笑う。


「リムちゃん、おかわりは?」


「い、いえ。まだありますので。」


「遠慮しなくていいのよ?」


「ありがとうございます。」


「リムち、リアさんの料理おいしいでしょー。」


「はい。とても。」


「おねーさんも久しぶりに食べたけど、やっぱりおいしいねー。」


「ふふ、ありがとう。」


 和やかな食卓。


 その中で、イサナだけが少し考え込んでいた。


「……しかしなぁ。」


「ん?」


 カインが顔を上げる。


「新しい英雄、ねぇ。」


「ああ。」


「いや、俺まだ生きてんだけど。」


「そうだね。」


「そうだね、じゃねぇんだよ。」


「でも、生きてるし。」


「そりゃそうだけどよ。」


 イサナは腕を組む。


「俺が召喚された時は、前の英雄なんていなかったからなぁ。」


「いたかもしれないじゃん。」


 エイルが言う。


「そりゃ、そうだけど。」


「そもそも、英雄って何人もいていいのか?」


 セトが肉を頬張りながら聞いた。


「知らねぇよ。」


「英雄だったんだろ?」


「だからって、全部知ってるわけじゃねぇって。」


「ふーん。」


「……お前、聞いといて興味なさそうだな。」


「いや、あるけど。」


「あるのかよ。」


「ある。」


 そう言って、セトはパンをちぎった。


「……まあ、いいけどよ。」


 イサナがため息をつく。


「でも、どうして今なのかしらねぇ。」


 リアが首を傾げる。


「昔は、魔王を倒すために英雄が召喚されるって聞いてたけど。」


「そうなんだよな。」


「でも、今の魔王は別に人間を滅ぼそうとかではないんでしょう?」


「うん。」


 カインが頷く。


「アベルは違うと思う。」


「それに、魔族側でも魔物が暴れているのよね?」


 リアがリムを見る。


「そうみたいです。」


「じゃあ、新しい英雄が来たからって、魔王を倒しに行くとは限らないのかしら。」


「どうなんだろ。」


「分かんねぇなぁ。」


 イサナが首を振る。


「そもそも、俺の時も女神様から直接聞いたのは、魔王を倒せってことくらいだったし。」


「新しい英雄にも、そう言われてるのかな。」


「さあな。」


「…………。」


 カインは少し考える。


「その人、どんな人なんだろ。」


「ん?」


「新しい英雄。」


「ああ。」


「親父みたいに、ニホンから来たのかな。」


「かもしれねぇな。」


「ニホンって、イサナさんの故郷だっけ?」


 セトが聞く。


「そうだ。」


「へー。」


「……お前、前にも聞かなかったか?」


「聞いたかも。」


「覚えとけよ。」


「飯食ってたら思い出すかもしんねぇ。」


「絶対関係ねぇだろ。」


 エイルが笑う。


「でも、気になるねー。どんな人なんだろ。」


「会ってみたい。」


 カインが言う。


「そうだなぁ。」


 イサナも頷く。


「同じところから来たんなら、ちょっと話してみてぇな。」


「……ニホン、ですか。」


 リムが小さく呟く。


「うん。親父が生まれたところ。」


「そうなんですね。」


「こことは色々違うらしいよ。」


「そうなのですか?」


「うん。馬車がなくても遠くまで行けたり。」


「えっ。」


「空も飛べるんだって。」


「そ、それは……すごいですね。」


「いや、俺が飛べるわけじゃねぇぞ。」


 イサナが苦笑する。


「乗り物があるんだよ。」


「乗り物……。」


 リムが不思議そうに首を傾げる。


「まあ、話し始めると長くなるから、また今度な。」


「はい。」


 リムは小さく頷いた。


「……で。」


 セトが口を開く。


「結局、魔物はどうすんだ?」


「魔物?」


「増えてんだろ。」


「ああ。」


「新しい英雄が来たから、そっちに任せんのか?」


「……いや。」


 カインが首を振る。


「俺たちも倒して回ろうと思う。」


「だよな。」


 セトは頷き、また肉を口に運んだ。


「原因は分かんないけど。」


 カインが続ける。


「魔物に襲われて困ってる人はいるし。」


「そうだねー。」


 エイルも頷く。


「私達が見てきただけでも、結構被害出てたもんね。」


「じゃあ、やっぱり放っておけないね。」


 カインはそう言って、スープを一口飲んだ。


「……お前らしいな。」


 イサナが小さく笑う。


「そう?」


「ああ。」


「でも、俺たち狩人だし。魔物を倒すのは仕事だから。」


「そうだな。」


 イサナは頷く。


「原因を調べるのも大事だろうけど、今すぐ分かるもんでもねぇしな。」


「うん。」


「なら、今できることをやりゃいい。」


「そうする。」


「ま、気をつけろよ。」


「うん。」


「お前ら、結構無茶するからな。」


「そう?」


「そうだよ。」


 イサナは呆れたように笑った。


「……特にお前な。」


「俺?」


「お前。」


「なんで?」


「自覚ねぇのが一番困るんだよ。」


「分かるー。」


 エイルが即座に頷く。


「分かります。」


 リムまで頷いた。


「えっ。」


「お前、ジェイド相手に一人で戦ったしなー。」


 セトが言う。


「ほらな。」


 イサナが額を押さえる。


「いや、でも……やってみたかったし。」


「……まあ、気持ちは分かるけどよ。」


「分かるんだ。」


「そこは親子だねー。」


 エイルが笑った。


「まったく。」


 リアも呆れたように笑う。


「二人とも、無茶だけはしないでね。」


「はーい。」


「俺も?」


「あなたもよ。」


「……はい。」


 イサナが素直に頷いた。


「よし。」


 セトが皿を置く。


「じゃあ、明日からまた出発か?」


「そうしようかな。」


「んじゃ、もう一皿。」


「……お前、まだ食うの?」


「食う。」


「本当にいっぱい食べるのねぇ。」


 リアが楽しそうに笑いながら、セトの皿へ肉を盛った。


     ◇


 翌朝。


 カイン達は、家の前に集まっていた。


「忘れ物はない?」


 リアが聞く。


「うん。」


「ちゃんと確認した?」


「した。」


「本当に?」


「したって。」


「ふふ、ならいいわ。」


 リアは笑い、カインの服についた小さな埃を払った。


「気をつけてね。」


「うん。」


「セトも、ちゃんとご飯食べるのよ。」


「うっす!」


「……そこは心配いらねぇだろ。」


 イサナが呟く。


「そうねぇ。」


 リアも笑った。


「エイルちゃんも、よろしくね。」


「任せて、リアさん。」


「ふふ、頼りにしてるわ。」


 それからリアは、リムの前へ歩み寄った。


「リムちゃん。」


「はい。」


「また遊びに来てね。」


「……はい。ぜひ。」


「いつでも帰ってきていいからね。」


「…………。」


 リムが少しだけ目を丸くした。


「……帰って、きても?」


「もちろん。」


 リアは優しく微笑む。


「カインと一緒じゃなくてもいいのよ?」


「えっ。」


「また一緒にお料理しましょうね。」


「……はい。」


 リムは小さく頷いた。


「ありがとうございます。」


「ふふ。」


 その様子を、エイルが少し離れたところから見ていた。


「…………。」


 リアと目が合う。


 リアが微笑む。


 エイルも、にっこり笑った。


「……?」


 カインが首を傾げる。


「どうしたの?」


「んー?」


「なんか楽しそう。」


「そうだねー。」


「何が?」


「内緒。」


「なんで?」


「なんでも。」


「…………?」


 カインはますます首を傾げた。


「さて。」


 イサナが口を開く。


「そろそろ行くんだろ?」


「うん。」


「無茶すんなよ。」


「親父もね。」


「俺は畑仕事するだけだぞ。」


「でも、親父だし。」


「……どういう意味だよ。」


「なんとなく。」


「お前なぁ。」


 イサナが苦笑する。


「まあ、何かあったら帰ってこい。」


「うん。」


「俺らも、できることはするからよ。」


「分かった。」


 カインは頷いた。


「じゃあ、行ってきます。」


「行ってらっしゃい。」


「気をつけろよー。」


 リアとイサナに見送られ、四人は歩き出した。


 少し進んだところで、セトが口を開く。


「で、どこ行くんだ?」


「とりあえず、狩人の依頼を見てみようと思う。」


「魔物の?」


「うん。」


「なら、被害が多いところから回る感じかなー。」


 エイルが言う。


「そうだね。」


「リムちは大丈夫?」


「はい。」


 リムが頷く。


「私も、お手伝いします。」


「ありがと。」


「い、いえ。」


 カインが笑うと、リムも小さく微笑んだ。


「よっし。」


 セトが両腕を伸ばす。


「じゃ、また狩人の仕事だな。」


「うん。」


 新しい英雄が召喚された。


 魔物は、以前よりも凶暴になっている。


 何が起きているのか。


 何故、起きているのか。


 まだ、何も分からない。


 けれど。


 困っている人がいるのなら、助ける。


 魔物が街を襲うのなら、倒す。


 今までと、何も変わらない。


 カイン達は、再び歩き始めた。

忘れがちだけど、イサナも召喚者。

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