第75話 JKだけど、起きたら異世界に召喚されて英雄とか言われた
「…………ん。」
目が覚めた。
「…………。」
なんか、変。
いつもなら目を開ければ、自分の部屋の天井が見える。
見慣れた天井、カーテン。
枕元にはスマホ。
朝ならアラームが鳴っていて、止めて、もうちょっとだけ寝ようかなとか考える。
――でも。
「……どこ、ここ。」
知らない天井……というか、石。
天井が石。
「…………。」
ミカはしばらく、それを見つめた。
「え?」
起き上がる。
ベッドも知らない。
部屋も知らない。
壁も石。
窓もなんか古い。
「……は?」
意味が分からない。
昨日は普通に家にいた。
学校から帰って。
ご飯食べて、お風呂入って。
ちょっとスマホ見て。
眠くなったから寝た。
それだけ。
「…………夢?」
頬をつねる。
「いた!……夢じゃないじゃん。」
もう一度、部屋を見る。
知らない。
本当に、何も知らない。
「…………。」
少し、怖くなった。
その時、扉が開いた。
「あ……!」
「え?」
入ってきた男が、ミカを見る。
見たことのない服。
なんというか……映画とかゲームとか、そういうので見るような格好。
「目を覚まされたのですね。」
「…………誰?」
「申し訳ありません。驚かせてしまいましたね。」
「いや……うん。」
驚くとか、そういう話なのだろうか。
「あのー……ここどこ?」
男は少し黙った。
「……教会です。」
「教会?」
「はい。」
「何の?」
「何の……。」
男が困ったような顔をする。
「いや、そうじゃなくて。」
ミカは頭を掻いた。
「ここ、日本?」
「ニホン?」
「…………。」
知らない。
その顔で分かった。
「マジ?」
「申し訳ありません。ニホン、という場所を私は存じません。」
「…………。」
なんとなく。
本当になんとなくだけど。
ミカの頭に、一つの言葉が浮かんだ。
「……異世界?」
「いせかい?」
「あー……。」
今度は向こうが分からないらしい。
「ちょっと待って。」
ミカは額を押さえる。
「ウチ、寝てたよね?」
「はい。発見された時には。」
「発見?」
「教会の召喚の間で眠っておられました。」
「召喚。」
「はい。」
「…………。」
召喚。
異世界。
教会。
知らない服。
知らない部屋。
「……マジで?」
◇
それから、何人かの人に色々説明された。
どうやら、本当に異世界らしい。
少なくとも、ここにいる人たちは日本を知らなかった。
「じゃあ。」
ミカは聞いた。
「帰れる?」
「…………。」
誰も答えない。
「帰り方、分かんない?」
「……申し訳ありません。」
「そっか。」
それだけ答えて、黙った。
お母さん。
お父さん。
友達。
学校。
昨日まで普通にあったものが、全部遠くなった。
もしかしたら……いや、多分もう会えない。
「…………。」
さすがにちょっと……泣きそうになった。
でも。
「……待って。」
「はい?」
ミカは自分の格好を見る。
寝る時に着ていたTシャツに短パン、それだけ。
そして、自分の顔に触れた。
「…………。」
「どうされました?」
「ウチ、寝起きじゃん。」
「……はい?」
「スッピンじゃん。」
「すっぴん……?」
「…………。」
嫌な予感がした。
「あのさ。」
「はい。」
「カラコンってある?」
「から……こん?」
「目に入れるやつ。」
「目に……?」
「色ついてて。」
「…………?」
「ない?」
「申し訳ありません……。」
「…………死んだ。」
「えっ!?」
男が慌てる。
「どこか具合が!?」
「違う。」
「では、何が!?」
「カラコンない。」
「からこんがないと死ぬのですか!?」
「死ぬ。」
「そんなに!?」
いや。
本当に死ぬわけじゃないけど。
結構、大事。
「…………あ。」
そして、もっと大事なことに気づいた。
「スマホ。」
「すまほ?」
「…………。」
ない。
寝る時、充電していた。
つまり持ってきてない。
「……スマホもないじゃん。」
「その、すまほというのも必要なものなのですか?」
「必要。」
「どれほど?」
「全部。」
「全部?」
「連絡も、地図も、調べ物も、写真も、音楽も……。」
「…………。」
「…………マジで死んだ。」
「大変なものを置いてこられたのですね……。」
「大変どころじゃないって……。」
ミカはベッドに倒れた。
「何もできないじゃん……。」
異世界。
帰れない。
カラコンなし。
スマホなし。
「…………。」
詰んだ。
◇
「お着替えになりますか?」
「服あるの?」
「いくつかご用意できます。」
「選べる?」
「はい。」
「じゃ、選ぶ。」
せめて。
格好くらいは、どうにかしたい。
用意された服の中から、まだ自分でも着られそうなものを選ぶ。
「……まあ。」
鏡を見る。
「これならマシか。」
「よくお似合いです。」
「ありがと。」
知らない世界。
知らない服。
鏡に映っている自分も、少しだけ知らない人みたいだった。
「で。」
ミカは振り返る。
「なんでウチ、ここにいるの?」
「それについて、お話しします。」
少し広い部屋へ案内された。
そこには、何人かの教会の人間が待っていた。
「ミカ様。」
「様いらない。」
「ですが。」
「ミカでいいよ。」
「……では、ミカさん。」
「うん。」
その方がいい。
「まず、この世界には魔族と呼ばれる者たちがいます。」
「魔族。」
「はい。そして、その頂点に立つ者が魔王です。」
「魔王。」
「はい。」
「…………。」
なんか。
知ってる単語が出てきた。
「そして過去、この世界では幾度も、異なる世界から人が召喚されています。」
「ウチみたいに?」
「はい。」
「その人たちは?」
「英雄と呼ばれています。」
「…………。」
ミカは瞬きをする。
「英雄?」
「魔王と戦い、人々を救った者たちです。」
「へー……。」
随分と。
話が大きくなってきた。
「近頃、各地で魔物が凶暴になっています。」
「魔物もいるんだ。」
「はい。」
「マジで異世界じゃん……。」
「そして過去にも、同じように魔物が凶暴になった時期がありました。」
「その時は?」
「魔王が現れました。」
「…………なるほど?」
なんとなく、話が見えてきた。
「だからウチが呼ばれた?」
「……その可能性が高いと、私たちは考えています。」
「でも、なんでウチ?」
「それを確かめるためにも。」
一人が立ち上がる。
「スキルを鑑定させていただけませんか?」
「スキル。」
「この世界では、人それぞれに固有の力が宿ることがあります。」
「あー。」
それも。
なんとなく分かる。
「いいよ。」
案内された場所には、大きな水晶が置かれていた。
「これ触ればいいの?」
「はい。」
「おっけー。」
ミカが水晶に手を置く。
すると。
「お。」
淡い光が、水晶の中に広がった。
「光った。」
「そのまま、しばらくお待ちください。」
「はーい。」
やがて。
水晶の中に、文字が浮かぶ。
「…………。」
周囲が静かになった。
「何?」
ミカには読めない。
「なんて書いてあんの?」
「……【天襲】。」
「てんしゅう?」
「天……。」
「え?」
明らかに空気が変わった。
「何? 珍しいの?」
「珍しいなどというものでは……。」
一人が、水晶へ近づく。
「天の名を持つスキル……。」
「過去の英雄たちにも……。」
「では、本当に……。」
周囲がざわつき始める。
「ちょ、何?」
そして。
「英雄だ。」
誰かが言った。
「新しい英雄が、召喚されたんだ。」
「…………。」
ミカは自分を指差す。
「ウチが?」
「はい。」
「…………マジ?」
◇
「で。」
少しして。
ミカは椅子に座っていた。
「ウチは、その魔王っての倒せばいいの?」
「まだ魔王が現れたと決まったわけではありません。」
「そうなの?」
「はい。ただ、各地の魔物が凶暴化していることは事実です。」
「ふーん。」
「そして、あなたが召喚された。」
「なるほどねー。」
正直。
まだ全然分からない。
帰れるかも分からない。
この世界のことも知らない。
魔王なんて、見たこともない。
でも。
「まあ……。」
ミカは椅子の背にもたれる。
「帰り方も分かんないんでしょ?」
「……はい。」
「他にやることもないし。」
「…………。」
「困ってる人いるんだよね?」
「はい。」
「じゃ。」
ミカは立ち上がった。
「とりあえず、やってみる。」
「……よろしいのですか?」
「だって、ここでずっといてもしょうがないじゃん。」
帰りたい。
それは変わらない。
でも。
帰り方が分からないなら、今はどうしようもない。
「それに。」
「?」
「英雄って、ちょっとカッコいいし。」
「…………。」
「何?」
「いえ。」
教会の者が、小さく笑った。
「ありがとうございます。」
「まだ何もしてないけどね。」
その時、扉が開いた。
「失礼します。」
一人の少年が入ってくる。
ミカと同じくらいだろうか。
黒い髪。
眼鏡。
教会の者たちと似た服を着ている。
少年はミカの前まで来ると、少し緊張した様子で姿勢を正した。
「初めまして! ファントと申します!」
「……はぁ。」
少年――ファントは、一度息を整える。
「これから、ミカ様の補佐を務めさせていただきます。」
「様いらないよ。」
「え。」
「ミカでいいって。」
「しかし……。」
「これから一緒なんでしょ?」
「……はい。」
「じゃ、ミカ。」
「…………。」
「ほら。」
「……ミカ、さん。」
「まあいっか。」
ミカが笑う。
「よろしく、ファント。」
「……はい。」
ファントは真面目な顔で頷いた。
「よろしくお願いします。」
こうして。
ミカの異世界での生活が、始まった。
あ、大丈夫です。
投稿する作品間違えてないです。




